- __noranora
- 606
- 0
- 0
- 0
「…うん。…ここにいるのが、ティイでよかった」 きっとオレ一人だったら、いい年してわんわん泣いてたかもしれない。 あの人の悪戯は悪趣味なのが多い。先輩と一緒にここに放り込まれていた可能性だってあるのに。 ああ。そうなってきたらきっと、オレは悲しくて死んでしまったかもしれない。
2018-10-08 17:51:44「オレが好きな人が、ティイだったらよかったのにな…」 「――ヒューゴさん、オレのこと嫌い…?」 ぽつりと呟いたのを勘違いされてしまったらしくて、ヒューゴは小さく笑う。 「ううん、違うよ。ティイのことは大好き。だけど…種類の違う好きだ、って言えばいいのかな。…ごめんね、勘違いさせて」
2018-10-09 19:20:08「…オレも、ヒューゴさんのこと大好きだからね」 力強くそう言ってむぎゅー、としがみついてくるティイがとても愛おしくて、隣にいるのがこの子でよかった、と心の底からヒューゴは思う。 「ありがと。…ティイ、君がいるから、オレは頑張れるよ」 「一人で頑張ろうとしないでよ、ヒューゴさん」
2018-10-10 19:20:54ぷく、と頬を膨らませるティイに、ヒューゴは笑う。 「いい?オレだってちゃんとしたマスターになって、ヒューゴさんのこと手伝うくらいできるんだからね?」 「ティイ…」 「ダメだって言っても聞かないからね!ヒューゴさんを守るのはオレなんだから。忘れないでよ?」 そう言われて頬が緩む。
2018-10-11 20:14:16「…ありがとね、ティイ」 ふわ、と笑いながら言うと、ティイも嬉しそうに笑う。 「オレね、ヒューゴさんのその笑顔好きなんだ。こっちまで嬉しくなっちゃう…」 「ん。そう、かな?」 そう言われても自分ではよくわからないし、笑っているという自覚もあまりない。 「そうなの!守りたいこの笑顔!」
2018-10-12 20:55:59力説するティイの勢いに押されて、こくこくとヒューゴは頷く。 「う、ん。…でも、オレも守られてばかりじゃいられないからね。……一緒にがんばろう?」 まずはマスターとしての特訓からね? 笑顔で言うヒューゴに、やや怯んだ顔でティイは頷く。ヒューゴは優しいが、ヒューゴの特訓は割と厳しい。
2018-10-12 20:56:00特訓。戦闘訓練はまだいい。問題は基礎知識の方だ。 平凡な一般人だったティイには魔力とか魔術回路とかよくわからない。マナもイドも何の話をしているのか。 「大丈夫だよ。ティイには才能あるもの。じゃなきゃ令呪に選ばれたりもしないし」 ティイの手の甲に浮かんだ文様を指先でなぞりながら呟く。
2018-10-13 19:22:25「…確かにサーヴァントがあの人じゃあ、魔力不足になるかもしれない。でも、それは解決する方法が見えてるから安心して?もう少しで形になりそうだから」 「ほんと?――よかったァ、オレのせいでさ、ガーラルドさんが本気出せないのものすごく悪い気がしてたんだ」 安心したように、ティイは笑う。
2018-10-14 19:23:23「ガーラルドさんの好きにしてもらっても、全然平気?」 「…うーーーん…それはまだ。あの人、底なしの魔力喰いだから」 「でも、本気出したら強いんでしょ?なのにオレのせいで足引っ張っちゃってるから…」 目を伏せたティイの頭を撫でる。 「いいの。気にしないで。あの人もそう言うよ」
2018-10-14 19:23:23結構ティイのこと気に入ってるみたいだから。そう言うと、ぱあっとティイは顔を輝かせる。 「ほんと!?…うわうわ、ちょっと嬉しいかも…」 嬉しそうな表情が、ちょっと悔しかったりもする。確かに実力はあるが、ヒトとしては最悪な部類に入る男なのに。 だったら。――だったら?今、誰のことを?
2018-10-15 19:14:58そこまで考えて、ヒューゴは思考を遮断する。 バカみたいだ。勝手に好きになって。先輩の方がもっとかっこいいとか。何を考えてるんだろう、オレ。 「んんーーー」 「ふわ!?」 もふっ、とティイの髪の毛の中に鼻先を埋めてヒューゴは唸る。思いのほかいい匂いがするとかそういうのは置いておいて。
2018-10-15 19:14:59「ヒュ…ヒューゴさん?どしたの?」 「うん。……ね、とりあえず少し寝ようか?」 「え?」 二人して半裸で、しっとりとした温かい肌が触れ合っているのが気持ち良くて。 ――気持ちいいことをしたばかりで。 このまま、とろとろと眠れたらどんなにいいだろうかと思った。全部、夢ならいいのにとも。
2018-10-16 19:18:34「…うん、いーよ。眠い?」 「ちょっとだけ。寝て起きたら、次のこと考えよう?」 「あーあ。オレ、ずっとこのまんまでもいいんだけどなぁ…」 ぼやくティイに、ヒューゴは笑う。 「残念ながら、だね。…でも、ここから出るまではいいよ?何かあっても、あの人たちがどうにかしてくれればいいんだし」
2018-10-17 19:42:48「……そだね。じゃ、それまでは思いっきりヒューゴさんに甘えさせてもらおーっと」 「こら。ふふ、もう、ほんとに。…ねえ、ティイ。今度オレにも、甘え方教えてくれないかな?」 「ヒューゴさんに?」 きょとん、とした顔のティイの鼻先に、ヒューゴは指先でちょんと触れる。 「そう。…あのね、」
2018-10-18 20:09:56「あのね。…いつも、オレ、その人の前じゃ強がっちゃうんだ。本心でそう言いたいわけじゃないのに…ううん、本心から言う時もあるけど、ちょっと、素直になれなくって…」 「…!」 ぱあぁ、とティイの表情が輝く。 「それ!その人が好きってこと!?」 「ち、違うよ!?そうじゃないよ!?…たぶん」
2018-10-18 20:09:56「たぶん…違う……違うと思いたいんだ…」 「ううん、違くないってそれ!ヒューゴさんその人のこと好きなんだって!わー、わー!すごい!…えへー、オレが嬉しい!オレじゃなくても!」 「好きじゃない!好きじゃないからね!?」 寝るとか眠いとか言っていたくせに、二人揃って盛り上がってしまう。
2018-10-19 19:35:48「……」 なので、とても隣からの視線が痛い。 痛いことは痛いが、しかし勝ち誇ってもいいだろう。 「ほらみ――」 「君のことだって確証はないよ」 「いや、この場合どう考えても相手は俺ですよね!?」 「えぇ…」 露骨に嫌そうな顔をするのが、本当に。 「義父さん」 「遺言だね、わかったよ」
2018-10-20 20:17:20「いいのか?アイツが悲しむぜ?」 「うーん、今のタイミングなら行けると思うんだよね。別にほら、告白されたわけじゃないし?うん、今なら逆に、傷は浅いと思うんだけど――」 「俺が深手負うから!っていうか殺す気満々じゃん!やめろっての!」 「だめ?」 「それを問う方がおかしいって気づけ!」
2018-10-21 19:47:49「そっかー」 「残念そうに言うなよな……お、二人とも寝たぞ」 「なんだか、ここに閉じ込めたままでもいいかなって思えてきたんだけど」 「やめてやれ。ほんとに。…ていうか満足したし、俺は」 画面越しにベッドの上ですやすやと眠る二人(主にヒューゴ)を見守りながら、ヴィンセントは言う。
2018-10-22 20:26:28「…こうでもしねーと、休もうとしないからな、アイツ」 聞こえないように言ったつもりだったが、もちろん聞こえていないはずがない。 「睡眠薬は効かないし、無理やりベッドに入れても寝てるふりして仕事してるからねえ」 笑いながら言ったガーラルドを振り返り、ヴィンセントは複雑な顔をする。
2018-10-22 20:26:29「だから、まあ…助かった、よ。俺一人じゃ、こうも上手くいかなかっただろうからな」 「……」 「……今の、一回しか言わねーからな」 「大丈夫、ちゃんと録音したから」 「おま…っ、おま、お前!そーゆーとこだからな!ほんとそーゆーとこだからな!?」
2018-10-22 20:26:29こちらの騒ぎなど知る由もなく。 ヒューゴとティイは健やかな寝息を立てて眠る。 まだくどくどと続くヴィンセントの文句を聞き流しているガーラルドは、そんな二人の姿を眺めながらそっと目を細めた。
2018-10-22 20:26:29