即興羽根ッ娘化パンデミックSS【R-18】

タイトル見たら大体わかると思う
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深海さかな @dzurablk_kai

最初の通報内容は、騒音に対する苦情だった。 『近くの廃工場で花火でもやってる連中がいるらしい。騒がしい声と光がかなわない。なんとかしてほしい。』 こんな内容の電話がその事件の、最初の一報だったと警視庁の記録には残されている。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 20:37:30
深海さかな @dzurablk_kai

現場にはまず、生活安全課の巡査が向かったらしい。だがおかしな様子は特に無く、巡査は仕事始めで気だるい身体で署に戻りそのまま帰宅した。 事件が急展開を見せ始めたのは、その少し後のこと。通報のあった廃工場の持ち主が、暴力団関係者だと判明したのだ。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 20:41:12
深海さかな @dzurablk_kai

その糸口を掴んだのは、公安警察八係、通称ヤマ機関だった。通信傍受を専門に行う非公式な組織だ。そこがたまたま所轄への通報内容を傍受し、公安内のデータベースと照合して判明したのだ。 更に調べを進めると、その廃工場からはキナ臭い情報がどんどん出てきた。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 20:45:44
深海さかな @dzurablk_kai

廃工場を保有していた暴力団にはかねてより人身売買や密売、密輸等の噂があり、その工場も表向きは精肉工場とされていたが覚せい剤を取り扱う事業所の一つとする疑惑もあった。 公安もマークしていた組織だったが、比較的小規模な組織だった上、 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 20:47:43
深海さかな @dzurablk_kai

あるとき一夜にして関係者が失踪するという不可解な事態により捜査は中断。所轄の組織犯罪対策室に捜査を申し送り公安内では終止符の打たれた案件である。所謂迷宮入りというやつだ。 そんな叩けば埃しか出ないような建物の前に今、俺はいた。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 20:49:26
深海さかな @dzurablk_kai

「寒いな…」 俺、狐塚フミノリは覆面パトカーの黒いカローラから降りると、そう愚痴らずにはいられなかった。世間は年末年始に浮かれ十連休だなんだと騒がしい中、飛び石になった金曜日に一日だけ出勤しなくてはならない上に厄介そうな案件が飛び込んできた。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 20:52:25
深海さかな @dzurablk_kai

そんな物憂い心情を諸々ひっくるめて気温の低さへの恨み言に凝縮した、そんな一言だ。 だが唯一心の支えがあるとするならば。 「冬だから寒いに決まってるでしょ、馬鹿ね」 背中に掛けられたその言葉に振り返ると、頭一つ小さい身の丈にセミロングの黒髪が車の屋根ごしに目に入った。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:00:28
深海さかな @dzurablk_kai

羽鳥リサ。この相棒でもあり幼馴染、かつ同期との関係を言い表す言葉は色々とあるが、今の彼女の声音から漂っていたのは恋人としてのニュアンスだった。 「あんまバカバカ言うなよ、そんなんだと胸が大きくならないぞ」 「…撃ち殺すわよ?」 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:02:05
深海さかな @dzurablk_kai

今度は無く子も黙る公安警察の声だった。このままだとパンツスーツの上着の腋に吊られたシグ・ザウエP230が本当に火を吹きかねない。 身を守るべく俺は話題を移した。 「こんなことなら公安なんか入るんじゃなかったなあ。外回りばっかなんて聞いてなかったのに」 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:06:50
深海さかな @dzurablk_kai

昭和の頃ならいざ知らず、今時の若者は政治活動絡みのテロなどには早々手を染めたりはしない。テロリズム界隈において今時のトレンドは、宗教戦争絡みの自爆テロばかりだ。 だが幸運にもこの国は公用語が他国と独立しているためか、そうした思想の流入もほとんど起きていない。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:10:09
深海さかな @dzurablk_kai

となると公安が目を光らすのは他国から輸入されてくるテロリストと武器だが、後者については暴力団追放運動の過程でその経路はほとんど壊滅。外国人居留者も、わが国の排他的な国民性と時として”過剰に仕事をしすぎる”きらいのある入国管理局により、数はとても少ない。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:12:22
深海さかな @dzurablk_kai

俺たちが公安に入ったのは、そんな時代だった。だから仕事といえば防諜活動と資料整理、そんな地味なデスクワークばかりだった。就活時の予想通り、インドア派なオタクには絶好の業務内容。自分にピッタリな部署がそこにはあった。 そう、”あった”のだ。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:14:52
深海さかな @dzurablk_kai

状況が変わったのは今から数年前のこと。東京湾に『パンドラ』と呼ばれる超時空ゲートが開いてからだった。 「あれさえ無かったら今頃は内勤に…」 「その話もう何度目なのよ。今度言ったら課長に報告して、三係に飛ばしてもらうから」 公安三係、対ロシア絡みの捜査班だ。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:19:24
深海さかな @dzurablk_kai

「ロシアか…こないだ観たAVで、美人で胸の大きいロシア人が出てたな…」 「あ”? なんか言った?」 「…なんでもないです」 今度バストサイズの話をしたら東京湾の奈落に突き落とす。リサの切れ長な瞳はそう物語っていた。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:21:03
深海さかな @dzurablk_kai

東京湾に開いたパンドラは、直径5キロの円形で、上空から見ると真っ暗な穴のようになっている。『ようになっている』というのは、そこが穴であり穴ではないからだ。縁からは海水が瀑布のように流れ落ちているが海の水位は変わりはない。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:22:56
深海さかな @dzurablk_kai

流れ落ちた水がどこか別の場所から帰ってきてるのだろう、というのが通説だ。そして何よりも特異なのは、そのパンドラという穴には落ちることができない点。海路なり空路なりでその穴に踏み込むと、その対象は名実共にこの世から消えてしまうのだ。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:24:30
深海さかな @dzurablk_kai

行き着く先は、異世界だ。 地球と同じ大気組成で、地球と同じ土壌、水質。温帯かつ温暖湿潤気候と推測される気温と植生。 だが唯一違うのは、そこに住む生物だった。人間もいれば、竜もいる。子供の頃にゲームで見たゴブリンやスライムのような魔物に、剣士や魔法使いが立ち向う。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:28:23
深海さかな @dzurablk_kai

ちょうどさっき話題に上ったロシア美人を思わせる耳の尖ったエルフや、背中に鳥の翼を生やした羽根ッ娘などは、一部界隈から猛烈な人気があるとも聞く。 そんな、剣と魔法と冒険の世界が、パンドラの先にはあった。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:30:24
深海さかな @dzurablk_kai

だがこのパンドラは、多くの問題ももたらした。大きなところだと、パンドラの先の異世界を調査する上での諸外国との摩擦、卑近な例では先の羽根ッ娘族やエルフ族にまつわる人身売買など。特に後者は暴力団や海外のマフィアも巻き込んでの大問題となったのだ。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:48:21
深海さかな @dzurablk_kai

そこで公安警察に新たに作られたのが俺やリサの属する六係だった。パンドラ絡みの犯罪や諸外国からの干渉を防ぐ目的で新設されたこの部署と、パンドラを覆うコンクリート製の石棺(これは専ら箱舟と呼ばれた)の建設により日本政府は異世界問題に文字通り『蓋をする』ことができた。 #突発羽根ッ娘SS

2019-01-05 21:50:57
深海さかな @dzurablk_kai

そしてその結果、俺たちは年明け早々の寒空の下、今この現場にいる。 「踏み込む名目はどうする? 令状は無いが」 「課長は偵察だけしてこいって言ってたよね?」 「それ絶対、威力偵察って意味だからな」 #突発羽根ッ娘ss

2019-01-05 21:59:37
深海さかな @dzurablk_kai

要は怪しい人物を見かけて職務質問なりをけしかけ、逃亡ないし攻撃を企ててきたら即刻拘束、現場も押さえて応援を待て。そんな意味合いだろう。かつて組織犯罪対策室にいたという強面の課長が言いそうなことだ。 「じゃ、年末年始の特別警戒期間なので見回りに来ましたってことで」 #突発羽根ッ娘ss

2019-01-05 22:02:15
深海さかな @dzurablk_kai

「予備弾倉は?」 「んー、二本ずつ?」 「了解」 シグザウエルのマガジンには八発しか弾が入らない。百年以上前の自動拳銃ガバメント並みだ。暴力団絡みの家宅捜索モドキにはいささか以上に心許ない。 「じゃ、どっちが先行する?」 「こないだ俺行ったから、リサお願い!」 #突発羽根ッ娘ss

2019-01-05 22:04:56
深海さかな @dzurablk_kai

「…さっき言ってたロシア人AVって、どこに仕舞ってあるのかな? ベッドの下はこないだ捜索したし…ロフト?」 「はい行きます俺行きますいやーちょうど踏み込みたい気分だったんだよなー!!!」 これだから女には敵わない。 俺は嘆息すると廃工場の玄関に向かった。 #突発羽根ッ娘ss

2019-01-05 22:06:36
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