千葉雅也・二村ヒトシ・柴田恵理『欲望会議』(角川書店)すごく面白いし読みやすい。ポリコレ批判は痛快だし傷と交換の話とかもいい。なんとなく後半から読み出したのでこれから前半に戻ります。
2019-01-19 00:34:22最終章でオープンダイアローグについて触れてくれているのはありがたい。いままで批判がなさすぎたので、こうした機会は尊重したい。ただ残念ながらこの批判は実践家には届きにくいのではないか。それは何点か、ODについての誤解があるからのように思う。思考の整理を兼ねて、それについて記したい。
2019-01-19 00:36:04僕が誤解と思った部分を箇条書きにしてみる。 ・統合失調症は秘密が病理の中心にあり、秘密をなくせば寛解する。 ・オープンダイアローグのポイントは秘密を作らせないこと ・ODは無意識と向き合わない ・ODはなんでもシェアする ・ODはコミュニケーションから「深さ」を消滅させる
2019-01-19 00:36:46統合失調症と秘密について言えば、精神病理学的には「秘密が守れない病気」とされていた(土居健郎ら)。正門はがっちり守りを固めているのに、通用門から秘密がだだ漏れ、みたいな状況。秘密をなくせば寛解、というのはいくらなんでも。
2019-01-19 00:37:09ODでは「秘密をなくすこと」は目的ではない。言いたくなことを言わない権利は、まず最初に保証される。そもそも治療において秘密を暴く必要はない。ここで想定されている無意識はユング的な「心の深層」のイメージのように思う。確かにそういう無意識はODでは扱わない。
2019-01-19 00:37:53ODは、精神分析の主要なツールである「転移」「解釈」「徹底操作」を捨てた。いずれも患者の不安を喚起する恐れがあるからだ。精神分析家が「無意識の真理に近づくためなら少々の不安はしかたない」と考えるなら、ODは「安全と安心を確保しつつ、無意識の治療的作用を最大限に活用しよう」と考える。
2019-01-19 00:40:35ODではクライアントとセラピスト双方の主観世界の言語化を行う。この過程において、複数の無意識の協働、のような現象が起こってくる。無意識の作用は常に想定外の場所に生成するので、何が起こるかわからない。個人的にはODくらい無意識の潜在力をフル活用している治療も少ないと思う。
2019-01-19 00:41:32ODについて歓迎したくないイメージは、すべての主体を溶融させる「つながりによるケア」というもの。「生物都市」や「エヴァンゲリオン劇場版」的な。そういった多幸的な一体感をOD実践家は嫌悪する。エンカウンター・グループを悪用したカルトの手口だから。それはせいぜい「シンフォニー」止まり。
2019-01-19 00:43:00なぜODが繰り返し「ポリフォニー」を強調するのか。それは対話こそが主体化の契機にほかならないから。対話は調和のためではなく、差異の掘り下げをもたらす(“深い”コミュニケーション)。ODが交換不可能な「他者の他者性」を強調するのはそのため。
2019-01-19 00:43:33あるOD実践家の言葉で印象的だったのは「(対話の中で)あなたが主体的に振る舞える場所を創りなさい」というもの。國分功一郎さんの言う「欲望形成支援」はここに該当すると思う。
2019-01-19 00:44:07もし精神分析が「無意識に埋もれている真理を見出す技法」であるとすれば、いわばODは「無意識を援用して個の物語を生成する手法」。そして僕にとっては、真理よりも物語のほうに主体化の希望がある。真理は強者の占有物だが物語は万人が共有可能だから。
2019-01-19 00:45:23@pentaxxx 齋藤先生質問です。精神分析も私にとっては、個の物語を分析者との関係性のなかで見出す技法だと感じていたのですが、先生が真理であると書かれたのは、創始者が確固として存在する「心的装置」を発見しようとしたからではないでしょうか?精神分析の方達はみなさん今でもそう思っているのでしょうか?
2019-01-19 06:10:15@pentaxxx 私は最近、コンステレーションワークを契機に、対人神経生物学の本を読んで、はじめてある程度納得できる「こころ」の定義を得て、ミラーニューロン系を基盤とした共鳴システムとODの関係について考えていました。
2019-01-19 06:14:31@pentaxxx 分析的な関係は、幼児期の養育者との関係ひいては、力あるものとなきものの二者関係の再演になりえますので、自我機能の脆弱性をもつ人にとってはリスクもあります。 そういうわけで関係者全員が集まって作る真理ではなく広がりがあるポリフォニックな関係のなかで紡ぎ出されるODに可能性をみています
2019-01-19 06:16:59文脈をわきまえず質問およびコメントしてしまったのですが、もしかしたら、北の辺境の地で始まったODって、ものすごく新しかったのかもーミラーニュロン系を基盤とした共鳴システムを利用した、過去に原因を求めて遡求する物語ではなく、新たな開かれた物語の創出ーと思ってます。 twitter.com/myksrkw/status…
2019-01-19 06:39:41白川先生こんにちわ。精神分析や力動精神医学の中には物語親和性が高い流派もあるようですが、フロイト、ラカンはしばしば「真理愛」について語るので、このように対比しました。 twitter.com/myksrkw/status…
2019-01-19 09:43:09おそらくラカン派的文脈では「物語による治癒」は、自己愛的な治癒の幻想、すなわち真理の忘却に過ぎず、自我の整形手術まがいの代物、という位置づけになるかと。
2019-01-19 09:45:50@nimurahitoshi 二村さんありがとうございます。『ヘレディタリー』は「この手があったか!」というホラーの傑作でしたが、あの自助グループはいかにもという感じで気持ち悪かったですね。
2019-01-19 09:49:18千葉さんありがとうございます。ODはまさに「精神療法がいかに接続過剰を回避するか」について考え抜かれが手法だと思います。いずれお考えを聞かせてください。 twitter.com/masayachiba/st…
2019-01-19 09:51:05@pentaxxx 斎藤さん、お読みくださり、そして詳細なコメントをありがとうございました。オープンダイアローグに関する批判は拙速な面があったと思いますが、ご指摘の点に関してはTwitterでは説明できない複雑な論点がありますので、そのうち機会がありましたらお話しさせていただければと思います。
2019-01-19 01:09:35超気持ちいい一体化よりも、キモい主体化が選択されるという話ですね。 twitter.com/TT32768/status…
2019-01-19 09:52:57@pentaxxx お読みいただいた『欲望会議』では僕は、ネトウヨもリベラルも、過激なフェミニストもアンチ・フェミニストも傷ついているのだという話をしましたが、それが「真理」なのか「物語」なのかで受け取りかたも変わってくるのでしょうか。
2019-01-19 10:01:25そうした「物語」を圧倒的ドミナントにする同調圧力がポリコレ的に高まりすぎているので、だれもオルタナティブストーリーに降りられなくなっているキツさが現状ではないかと思いました。 twitter.com/nimurahitoshi/…
2019-01-19 10:10:45@pentaxxx 僕はAV男優になる前に大学でほんのちょっとだけエンカウンターグループをかじり、監督になってからAV女優さんとの間に「傲慢な治療者と弱者との硬直した関係」が作られてしまうヤバい事例をいくつか見てきました。それで現在、ODに興味と期待をもっています。
2019-01-19 10:16:58