ギガベース日誌 2019年新春ほのぼの閑話

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再す誕ふ者ん🍜🍬 @hfsm_ABIDING

かつて栄華を誇った大都市の殆どは海水にその身を浸し、天を穿っていた摩天楼が海面から頭を覗かせる。 抽象画を現実に持ち出したようなその光景は、大陸そのものの大規模な沈下を引き起こしたコジマ関連施設の事故によって齎されたものである。 #ギガベース日誌

2019-01-12 00:50:40
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全体の水没や崩壊に至らなかった建造物は、さながら都市の墓標と形容できるだろう。 そんな人類の栄光と愚かさを抱く海域の片隅に、一機の第二世代ノーマルが侵入した。 #ギガベース日誌

2019-01-12 00:55:29
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「へへっ、き、来たか。傭兵。時間に正確なのは何よりだ。くひっ」 「……そりゃどーも。あんたが今回の依頼主か?」 「そ、そんなわけあるか。俺は、こっ、小間使いみたいなもんだ」 「そうかい……依頼内容は現地で確認するって話だったな?聞かせてもらおうじゃないか」 #ギガベース日誌

2019-01-12 01:01:41
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比較的形状を保ったビルの屋上に着陸している大型ヘリ。そのコックピットに座している男は、傭兵のもっともな質問に対ししどろもどろながら返し始める。 「今回のたげっ、ターゲットは……艦隊だ。20分後にこのエリアを通過する」 「……チッ、艦娘か」 #ギガベース日誌

2019-01-12 01:35:40
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「なんだ?なんでっ、何で残念そうにする?ACなら楽な仕事だろう?」 「楽な仕事は楽しくないんでね。まぁ、今回の目的はあくまで金だけだ。黙ってやるさ」 「あぁ、そ、そういう手合いか。たまにいるよな。こっちは気にしない。ただ……」 #ギガベース日誌

2019-01-12 01:41:25
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「旗艦の日進だが……殺さずに鹵獲して欲しいんだ。殺さずっていうのも、できるだけ傷もつけず、だ」 「はぁ?」 傭兵は態度を豹変させ、依頼主側の男に食って掛かる。 「ACで艦娘を生け捕りにしろだと?チェーンソーで峰打ちしろって言うのと変わらないって自覚しているのか?」 #ギガベース日誌

2019-01-12 01:48:23
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「そういう大事な概要は呼びつける前に知らせろというんだ。そっちの都合なんか関係無い。見た所、鹵獲装備の用意も無いんだろう?お粗末にも程がある」 「ええっ?!じゃあ、む、無理なのか??そんな……」 「普通の傭兵だったら断っているだろうな」 #ギガベース日誌

2019-01-12 01:53:04
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「それって……」 「切羽詰まっているのはこちらも同じという事だ。できる限りの事はするが、殺しちまっても賠償とかはしないからな」 「あ、ああ、なんか頼もしいなあんた。た、頼むよ本当に。俺がオーナーに殺されちまう」 #ギガベース日誌

2019-01-12 01:55:10
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面倒でつまらない、最低の依頼を受けてしまった。 今更覆しようの無いしまらなさを抱きかかえながら、傭兵は機体をビル群の間に縫わせていく。 目標地点に到着してから数分後。依頼側の男が言っていたように、水上機母艦日進を旗艦とした中規模艦隊が姿を現した。 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:02:27
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「確認するぞ。日進以外の艦は……」 「あぁ、あぁ!殺して構わねえ!あの売女共……海の底でくぉっ、後悔すればいいんだ……あいつら……」 男の返答に混じる違和感。まるで、ターゲットの艦娘に対する私怨のようなそれを、傭兵は鋭敏に感じ取った。 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:08:05
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だが、そんなものは仕事に関係無い。 傭兵の仕事は、ただ殺す事。 「じゃあ、始めるぞ」 戦闘モードに移行し、コアの四方から蒼炎を噴き出すAC。愛宕の電探が機体の位置を捉えると同時に、鉄の巨人は廃墟を蹴り上げ中に舞う。 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:11:28
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2発。暴力的な口径を誇る事で有名な第二世代ノーマル用のライフルから放たれた弾丸は愛宕の上半身と機関部に直撃。吐瀉物の如き無秩序な有機組織の混合物と化した愛宕の破片は、続いて巻き上がった爆炎の中に消えた。 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:15:41
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「いいっ!いいぞぉ!!」 「うるせぇ!黙って見ていろ!」 Zaraが放った砲撃を左手側に装備した実弾防壁で受け止め、ACはハイブーストで距離を詰める。通常装備の艦娘で振り切れるわけもなく、重量二脚の圧倒的質量が実現する暴力がZaraの全身に叩き付けられた。 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:20:28
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「こいつら……」 海面を転がる肉塊と既に陣形を保つ事すらままならない生き残りの艦娘を見据え、傭兵は心の底から湧いた落胆を溜息に混ぜ吐き出した。 低い練度。粗末な装備。どう見ても戦闘に慣れていない。とてもではないが海軍所属とも思えない。 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:24:25
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いずれにせよ相手が艦娘である時点で負けは無い。だが、手練れであれば、乾いた心に注がれる一滴の血ぐらいにはなったであろう。彼女達はその段階からは程遠い。 「本当、なんでこんなしょうもない依頼……」 ACは逃げ惑う峯雲の背にハンガーのレーザーライフルを向ける。 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:28:49
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ろくにチャージもせずに放たれる熱。駆逐艦一隻を焼き殺すに十分すぎる閃光に包まれ、峯雲は蒸発する。 そのまま2発目、3発目を放つAC。いずれも外れる事無く、Polaと沖波に直撃し、残る艦娘は日進のみになる。 「そこの艦娘、止まれ」 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:32:26
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「何じゃっ……?!」 傭兵がスピーカーを使うのは実に数年ぶりの事だった。メンテナンスもサボり続けていた為、まともに機能するかどうかは賭けだったが、日進が振り向き反応した事で続く言葉を吐き出していく。 「攻撃はしないからさっさと止まれ。追いかけ回すのも面倒だ」 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:36:27
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「くぅ……!」 選択肢が無い事を早々に理解し立ち止まった日進は、苦虫を噛み潰したような顔をACへ向けた。 「聞き分けが良いな。こちとら年の瀬だっつうのにしょうもない仕事をする羽目になって虫の居所が悪い。無駄に動き回られていたらキレて撃ち殺していたかもしれん」 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:42:48
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「……われ、館の差し金か。わざわざこんな所まで、わしを連れ戻しに来たのか?」 「はいぃ?」 「その通りだよ、日進」 対峙する日進とAC。その上空に、屋上で待機していたヘリが現れる。 「あんた……」 「久しぶりだなぁ、このっ、このクソアマがぁ!」 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:48:35
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「籠の外に夢でも見えたかよぉ!お前は他の艦の何倍も現実をわかってると思ってたのによお!!」 「その調子じゃあ、あのデブにこっぴどくしばかれたかのう?こがいな所までよう来たもんだわ」 「あの」 「てめえこそなぁ!だが、それも今日で終わりだ!」 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:52:57
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「あの、お二方。思い出話に花を咲かせるのはいいが、雇われの俺の存在を忘れるな」 「ああ、傭兵さんのぉ、まっこと申し訳ないんじゃが、あんたに御賃金は出んと思うよ」 「何?」 「わしを連れて帰るのが目的なんじゃろぅ?だったら……」 #ギガベース日誌

2019-01-12 02:57:16
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「わしが沈んだら、お仕事にならんじゃろ?」 副砲を自らの上半身に押し当てる日進。依頼主側の男の背筋を電流が駆け巡る一方、傭兵は至極冷静に操縦桿のトリガーを弾いた。 「っがぁあっ?!」 「あああぁっ!?!?な、何、起き」 「油断も隙もあったもんじゃないな。それ」 #ギガベース日誌

2019-01-12 03:01:16
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先に千切れ飛んだ右腕の後を追うように、日進の左腕は根元から千切れ海に没した。 「お前の言う通りだよ。だから、何が何でも死なせない。こっちも生活がかかってんだ」 「あぁぁ……お前、撃ったのかぁ?!!?お前ぇぇえぇぇ?!?!うちの商品を?!?!?!」 #ギガベース日誌

2019-01-12 03:02:49
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「喚くな!事情はだいたい把握した。顔は傷付かないようにしてやっただろう」 「でっでもってっ、あいつはうちの一番の稼ぎ頭でっ」 「腕ぐらい経費で直してやれよ。しかしあんた、どっかで聞いた声だと思ったが……ようやく思い出した。横須賀の娼館の客引きだろ」 #ギガベース日誌

2019-01-12 03:06:56