『テイク・ア・チャンス、エヴリーシングズ・ア・ゲーム:再投下版』

手直しあり
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ジュセー @shiroboshi2

「……」「実際安いです!合法な!」「……」「刺激的!」呼び込みをする2人のメイド・オイラン。アケシ・ノノミと、サベジ・ヤチである。とはいえ、ノノミは全く声を出していない。『良いサービス』と書かれたノボリを掲げているだけだ。時々それを揺らすなどはしているが。20 #S57Ninja

2019-02-25 21:00:44
ジュセー @shiroboshi2

(ねえ、ノノミ=サンも声掛けしてよ!)サベジが小声で話しかける。「わかりました」ノノミは短く返すと、ノボリを持ったまま通行人の1人の元へ歩いていく。「『モモ夢』。安いです。来てください」通行人はノノミの着る刺激的なメイド・オイラン服を一瞥し、去っていった。21 #S57Ninja

2019-02-25 21:03:36
ジュセー @shiroboshi2

ノノミはそれを見送ることなく、次の通行人の元へ歩いていく。「『モモ夢』。安いです。来てください」だが通行人は何ら反応を示さず、通り過ぎていく。「ノノミ=サン……それはちょっと効率が……まあいいか」サベジは溜息を吐いたが、またすぐに呼び込みを再開させた。22 #S57Ninja

2019-02-25 21:08:00
ジュセー @shiroboshi2

……「ノノミ=サン、もう少しで交代だよ」サベジがストリートで通行人に声をかけ続けるノノミに言葉を投げかける。「ハイ、わかりました。交代時間になったらもう一度言ってください」ノノミは抑揚のない声で返すと、また新たな通行人に声をかけた。23 #S57Ninja

2019-02-25 21:10:35
ジュセー @shiroboshi2

ノノミが声を掛けようと近づいたのは、ハンチング帽を被り、トレンチコートを着た背の高い男だ。「『モモ夢』。安……」彼女はいつもの通りに売り文句を言おうとしたが、言葉に詰まった。男の纏うアトモスフィアに、何か不穏なものを感じたからだ。24 #S57Ninja

2019-02-25 21:15:28
ジュセー @shiroboshi2

「……」ノノミは男を見上げる。そして、その顔を無言で凝視した。その顔には明らかな疲労と焦燥がある、本人がどう感じているかはわからないが……。「……」男もまた、ミリピードの顔を無言で凝視する。2人のいる空間だけが、周りと切り離されているかのような静寂。25 #S57Ninja

2019-02-25 21:19:01
ジュセー @shiroboshi2

「……い……」やがて口を開いたのはノノミだ。「……安いです。来てください」「いえ、結構です」男は奥ゆかしく断ると、彼女の側を通り過ぎようとした。ノノミは振り返り、彼を引き止める。「これ。チラシです。ドーゾ」「……ありがとうございます」男はそれを懐にしまう。26 #S57Ninja

2019-02-25 21:22:23
ジュセー @shiroboshi2

そして、歩き出した。ノノミはその背を無言で見送る……。「ノノミ=サン、交代だよ!」サベジの声。ノノミは夢から覚めたような感覚で、彼女の方へと赴き、共に店内へと入った。サベジが話しかけるが、ノノミは上の空だ。((……間違いないですね。あの男の人も、私と同じだ))27 #S57Ninja

2019-02-25 21:26:42
ジュセー @shiroboshi2

彼女は男の全身から漂う濃厚な『死』を感じ取っていた。同時に、凄まじいカラテを。「……ノノミ=サン?ダイッジョブ?」サベジが心配そうな声を発する。ノノミは彼女の顔を見つめ、「実際問題はないです……呼び込みは初めてだったので」ノノミはもっともらしい理由をつけた。28 #S57Ninja

2019-02-25 21:30:38
ジュセー @shiroboshi2

店内は、やはり活発だ。ノノミは所定の位置につく。新たな客が入れば、いつものようにする。売り上げが伸びる。給料が良くなる。尚、階級などはないため、売り上げ成績が一番だからといって飛び抜けた給料を貰えるわけではない。みな平等に与えられる。29 #S57Ninja

2019-02-25 21:37:14
ジュセー @shiroboshi2

売り上げが伸びれば伸びるほど、平等に給料が上がっていく。下がることはない。これは給料の差によるメイド・オイラン達の不和を緩和し、店内を常に明るいものにするためのものだ……と店主であるアナカナは言う。常識に欠けるノノミには、よくわからなかったが。30 #S57Ninja

2019-02-25 21:40:01
ジュセー @shiroboshi2

「サインをお願いします。イヤーッ!」「グワーッ!アイエエ……」ノノミはいつも通りのやり方で売り上げを伸ばす。常識に欠ける彼女ではあるが、流石にこの行為が合法であるかそうでないかはわかる。マッポが入れば即検挙であろう。だが、実際のところマッポは来ていない。31 #S57Ninja

2019-02-25 21:44:32
ジュセー @shiroboshi2

通報は確実にされているはずであろうが、マッポは一切介入してこない。『モモ夢』の前を時折マッポ・ビークルが通るが、お咎めなしだ。ノノミはその辺りがよくわからないが、ここはネオサイタマだ。自分の知らぬ闇社会のルールでもあるのだろう、とノノミは考えている。32 #S57Ninja

2019-02-25 21:50:14
ジュセー @shiroboshi2

ともかく、安定した生活が送れているのだから、深く考える必要はないのだろう。ノノミは無心でメイド・オイランとして振る舞う。かつての自分と比べると、なんと安らかな毎日であることか。クロスカタナのエンブレムを持つ追っ手は、失われて久しい。33 #S57Ninja

2019-02-25 21:56:36
ジュセー @shiroboshi2

自分を執拗に狙っていたあの男の顔も、見なくなった。それはそれで、何処か退屈な気はするが。「……私は、私の好きなように、生きていく」「ん?ノノミ=サン、何か言った?」サベジがノノミの色の無い表情を覗き込んで言う。ノノミは首を横に振り、また仕事に戻る。34 #S57Ninja

2019-02-25 22:00:25
ジュセー @shiroboshi2

営業時間が過ぎた後の余韻が残る店内。「招き猫ベルとか入り口に置いてみない?」「良いね!見た目もカワイイだし!」……既に店内のボンボリの光は営業時の派手な光ではなく、通常の光だ。入り口付近に集まっているのは、従業員のメイド・オイラン達である。最も、みな私服であるが。36 #S57Ninja

2019-02-25 22:06:16
ジュセー @shiroboshi2

サベジもその中にいる。彼女らは招き猫を入り口に置くと、そのデザインの良さを賞賛し始めた。「元気だねぇ、本当に」「そうですね」その様子を遠目で見るは、店主アナカナと、アケシ・ノノミの2人だ。ノノミも私服であるが、その手には箒が握られている。37 #S57Ninja

2019-02-25 22:09:54
ジュセー @shiroboshi2

まだ『モモ夢』に勤めて日の浅い彼女は、後片付けをせねばならぬ。「「「オタッシャデ!」」」メイド・オイラン達が手を振って退出した。サベジがノノミに向かって手を振る。ノノミは手を振り返した。そして黙々と箒を掃く。「あと5分ほどしたら、帰っていいからね」「ハイ」38 #S57Ninja

2019-02-25 22:14:04
ジュセー @shiroboshi2

ノノミは掃除を続ける。時刻はウシミツ・アワーへと近づいていく。こういったサービス施設は通常、夜間から動き出す物であるが『モモ夢』は違う。合法を謳い、未成年を多く雇っている以上、仕方のないことだ。「フゥーッ……」アナカナが憂鬱そうに溜息を吐く。39 #S57Ninja

2019-02-25 22:17:50
ジュセー @shiroboshi2

店主である彼女には、抱えるストレスが多いのだろう。ノノミは深く考えず、箒を動かす。40 #S57Ninja

2019-02-25 22:22:53
ジュセー @shiroboshi2

「もう上がっていいよ」「ハイ」ノノミはアナカナが言葉を言い終えるまでに、更衣室へと入った。自分のロッカーの前に立ち、鍵を開け、鞄を取り出す。「……」彼女は今日一日を振り返った。特に問題はなかった……あのトレンチコートにハンチング帽の男を除いて。42 #S57Ninja

2019-02-28 21:38:20
ジュセー @shiroboshi2

「……まあ。特に何かされたわけでもないので」彼女は虚空に向かって呟くと、鞄を肩に掛け、更衣室を出ようとした。その時。『ミャオーウー!』招き猫ベルの音が鳴り響いた。更衣室の扉を挟んでいるが故に、籠ってはいるが……兎も角、店内から聞こえてきたことは明確だ。43 #S57Ninja

2019-02-28 21:41:41