ちっさくなった兄様 勇尾 原作軸
- natumeitika
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兄のほうも、昼間弟がいない間はすることがなくて暇でしょうがないが、弟が戻ってくると、なにかとわがままを言っては自分の面倒をみさせたたり、わざと卑猥なことを言ってからかったりして、それなりに楽しくこの生活を送っていた。
2019-03-13 19:50:20今までも演習などで弟が数日帰れないときもあったが、出兵となるわけが違う。 兄は「その時が来たら俺を捨てて下さい」といって、弟を泣かせた。
2019-03-13 19:58:38弟は兄の前では明るく今までと同じように振る舞っていたが、それでも兄は弟が思い詰めていることに気づいていた。 兄は自分が弟の負担になっていることはわかっていた。弟のために自分が消えるのが一番だとわかっていたけど、それができずにいた。離れがたかった。
2019-03-13 20:10:10「勇作さん、どこへいくのですか?」 「わかりません。もう北海道の寒さにはこりごりです。とりあえずは暖かいとこに向かいましょうか。そしてどこか静かで落ち着けるところを見付けたらそこで暮らしましょう。勇作は兄様とずっと一緒です」
2019-03-13 20:23:54軍を抜けたことは微塵も後悔していない。兄がいてくれる、それだけで弟にはこの先の不安なんて何もなかった。 ポケット越しに伝わってくる兄の体温が温かくて、それだけで満ち足りた気持ちになった。
2019-03-13 20:31:46ここまで追手は見当たらない。少しくらいゆっくりしてもいいだろうと街に宿をとり、名所を見て回ったりしながら、のんびり過ごしていた。
2019-03-13 20:46:53地元の人に教えられた景色の良い丘で二人きり、旭川で休日を過ごしていたときと同じように一人前の弁当を二人で食べた。 「たくさん歩きましたが、来て良かったですね。ほら、街があんなに遠くに見えます」
2019-03-13 21:08:19「ちょっと用を足して来ます」 そう言って兄は弟のそばを離れた。背を向ける兄に弟が声をかける。 「あまり遠くへは行かれないで下さいね」 兄は振り返らずに「わかっています。声の届く範囲にはいますから」といって茂みに消えた。
2019-03-13 21:23:15辺りから弟の気配がなくなるのを待ってから、兄は物陰から出た。 日はどっぷり暮れていた。 明るくなったら、また弟が探しにくるかもしれない。 今のうちに少しでも遠くに行こうと思ったが、もう自分がどこから来たのかもわからなくなっていた。
2019-03-13 21:51:59小さな体では何もかもが巨大で、草が生えているだけで迷路の中にいるようなものだった。それでも草の根元を縫うように進む。 弟から離れて、もうどこにも行く当てはなかった。
2019-03-13 22:05:00歩き始めて一刻も経っていないのに、もう兄は野犬に襲われ生命の危機に陥っていた。 命からがら若木に登ってとりあえずは窮地を脱したものの、こんな細木じゃいつまでもつかわからない。
2019-03-13 22:19:44弟が野犬を追い払う間、兄は枝にしがみついたまま、一言もしゃべらなかった。 「もう大丈夫ですよ」と弟が兄を手のひらに抱こうとしたので、兄は枝に抱きついて抵抗したが、あっけなく弟に剥ぎ取られてしまう。
2019-03-13 22:59:36