ちっさくなった兄様 勇尾 原作軸
- natumeitika
- 4213
- 36
- 0
- 0
弟は唇を離すと、今度は泣いた。 「申し訳ありません、勇作がいけなかったのです。兄様から目を離したばっかりに、こんなことに……。勇作はもう二度と兄様を離しません!」
2019-03-13 23:15:11弟が手のひらに乗せた兄に頬を寄せるので、兄は弟の涙で濡れたし、弟の顔には、兄の手についていた泥や血がついた。 「勇作さんは勘違いをしています。俺ははぐれたんじゃありません。俺の意思であなたから離れたんです」
2019-03-13 23:19:54「書置きを残しておいたでしょう。見てないんですか?」と兄が言っても弟はきょとんとしている。「俺がいつも入ってる胸ポケットの中です」 弟がポケットを検めると、小さな紙切れが入っていて、そこには『探さないで下さい』と書かれていた。
2019-03-13 23:29:38「こんなもの、いつ用意したんですか?」 「前に『その時が来たら俺を捨てて下さい』と話したでしょう。あのすぐ後です」 「そんなに前から……。あの頃大切な書類を破いてしまって、書き直すにもいろんな方の署名をいただかなくてはいけないくて、勇作は随分怒られたのです。兄様がやぶいたんですね」
2019-03-13 23:44:17「適当に近場にあった紙をやぶいたんですが、悪いことをしましたね」 「いえ、それはもういいんです……」 それきり弟は紙切れを見つめたまま黙り込んでしまった。
2019-03-13 23:47:01「だったら何故! 何故勇作から離れようとなさったのです!」 弟はまた泣き出した。 「お願いです、兄様。勇作を捨てないで下さい。勇作は兄様なしでは生きていけません。兄様をお慕いしているのです……」
2019-03-13 23:59:37「そんなに泣かんで下さい。俺はただ、あなたを元いた場所に返して差し上げたかっただけなのです。今からでも遅くありません。俺を捨ててあなたは軍に戻って下さい」
2019-03-14 00:04:55「嫌です! 勇作は兄様を愛しています! 兄様より大切なものなどこの世にありません! 兄様だけが大事なのです! 兄様のお傍にいられるなら、勇作は何もいりません、兄様どうか! どうか勇作をお傍に置いてやって下さい……!」
2019-03-14 00:13:26「本当ですか、兄様! ずっと一緒ですよ、約束しましたからね!」 握り込むのはやめてもらえたが、また頬に押し付けられたので、兄は結局苦しい思いをいた。
2019-03-14 00:29:53「勇作もです! 帰りにどこかで持ち帰り用の弁当を作ってもらいましょう。ああ、でも兄様は食事の前にお風呂と傷の手当てしなければいけませんね」 弟は兄を胸ポケットに入れて、兄が書いた書置きを兄が入っていない他のポケットにしまった。
2019-03-14 00:39:54宿へ帰る道すがら、弟はポケットの上からずっと兄を撫でていた。兄がこうしてまた自分の元に帰ってきてくれたことが嬉しかった。 ポケットの中で兄があくびをする。
2019-03-14 00:42:47「今日はお疲れになったでしょう。お休みになれてていてもいいですよ」 「そうさせてもらいます。あ、弁当にしいたけは入れんで下さいね」 それだけ言って、兄はすぐに寝息をたてはじめた。
2019-03-14 00:44:40ふぁ~っとあくびをしてから、兄がポケットから出てくる。弟は兄を手のひらで受け止め、貫頭衣を脱がしてやる。 「ああ、兄様。こんなに傷だらけになって……」
2019-03-14 00:51:45「傷にしみるかもしれませんが、我慢して下さいね」とことわってから、兄を茶碗風呂に入れてやる。 「お湯加減はいかがですか?」 「ちょうどいいです」
2019-03-14 00:55:09弟はガーゼで兄の体を隅々まで綺麗に洗ってやる。 「そう言えば先ほど勇作さんは俺の顔に唇を当ててましたが、あれは俺の口を吸おうとしたのですか?」 「えっ!」
2019-03-14 01:00:35弟が新しく入れた茶碗風呂でくつろぐ兄。 「鼻と口を塞がないなら、どこでも好きなところを舐めるなり、吸うなりしていいですよ」 「兄様、そのようなお戯れはお止めください」 「真面目に言っているのです。俺はこの体になってから誰とも寝ていません。もう自分でするのには飽きました」
2019-03-14 01:13:15