台東区長選に出馬したとある男性「自宅｣を訪れた新聞記者さんがツイートしていました。

抜井規泰 @nezumi32

台東区長選に立候補の意思を示した二人を取材。 一人は引退を決めていた共産区議。 もう一人は昨秋に家を失ったホームレス男性。立候補に必要な供託金100万円は、生活保護費を貯めて工面したという。思わず尋ねた。「そのお金で、暖かい部屋を借りようとは思いませんでしたか？」。その質問に男性は…

抜井規泰 @nezumi32

続きは、近日の朝日新聞をご覧ください。 ただ、ひとつ強調しておきたいのは、公民権の行使は、国民の権利です。

抜井規泰 @nezumi32

台東区長選は、服部征夫氏（自民・公明推薦）が再選を果たしました。他に、ともに無所属新顔で、前区議の小高章氏（共産推薦）と、元演奏家の武田完兵氏が立候補していました。 候補者の有利不利にならないよう、告示後は一切ツイートしていませんでしたが、とてつもなく気になっていたのが、武田氏。

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告示日の直前に武田氏の立候補を知り、本人同意の上で選管が発表した連絡先に接触をーーと思ったのですが、固定電話も携帯電話もないとのこと。 そこで、住所地を訪ねました。そこに、いや、正確にはその番地の目の前の路地に、ブルーシートで覆われた荷がありました。武田氏は、ホームレスでした。

抜井規泰 @nezumi32

現れた、ひげぼーぼーの老人。 一般的に、「首長選挙」の立候補予定者は、選挙事務所や支援者の事務所などで、報道各社を集めて立候補会見を行います。そこで、我々は抱負や市政区政運営の課題、公約などを取材します。 選挙に出れび、公人です。公人となる武田氏にも、同じ対応を求めます。

抜井規泰 @nezumi32

しかし、事務所などはありません。支援者もいません。ブルーシートの荷物の前で、話をうかがいました。 出馬会見の際に、顔写真も撮影します。背景を白くするため、会議室の白い壁をバックに撮影します。 武田氏の会見は屋外です。白く見えるコンクリ壁を探し、そこに立ってもらい、写真を撮りました。

抜井規泰 @nezumi32

その日は雨でした。 かっぱを脱いでもらい、マフラーを外してもらい、撮影しました。雨だったので、屋外でも、晴天時のような陰影がつかない写真が撮れたので、よかったです。

抜井規泰 @nezumi32

で、だ。 尋ねたいことが、山ほどあります。 ーーおととしの都議選にも出馬しましたよね？ あれは、今回の区長選に出るための売名です ーーその時の肩書きは「元演奏家」でしたが、いまは？ ご覧の通り、ホームレスです。都議選の時はそこに家がありましたが、去年の秋、追い出されました。

抜井規泰 @nezumi32

いま、70歳。これまでの身の上話をうかがいました。入学と退学を何度となく繰り返した定時制通信制の高校のこと。いつ始めて、いつやめたか時期は思い出せない、自動車組み立て工場の期間工の話。亡くなった兄が払ってくれていた借地の家賃。本名と異なる「武田完兵」の名の由来、などなど。

抜井規泰 @nezumi32

昨秋から、ホームレス。持ち物は、ここにあるブルーシートの中のいくつかの楽器や、壊れかけのアンプのほか、借りたロッカーにしまっているものがあるそうだ。 夜は、ビニールシートの中の椅子に腰掛け、休む。寒さと、寝返りのうてない、やり場のない体の痛みで、眠れないという。

抜井規泰 @nezumi32

仕事は、長いことしていないという。 「仕事をしていたら、生活保護なんて受けていませんよ」 生活保護を受けながら、家も借りずにホームレスを続け、区長選に出馬する、というのだ。 選挙に立候補するには、「供託金」が必要だ。区長選なら、100万円。得票が一定数に達しなければ、没収される。

抜井規泰 @nezumi32

今回の供託金は、どうやって捻出したのかーー。 生活保護のお金を蓄えたそうだ。 その100万円の供託金は、戻ると思うか、尋ねた。 「戻らないでしょうね。これまで8回選挙に出て、全て没収されています」

抜井規泰 @nezumi32

生活保護を受けながら、ホームレス生活を続け、100万円を納めて区長選に出るという武田氏。 僕の心の中に、次から次へと疑問がわく。それを尋ねると、武田氏は明確な言葉で答えてくれる。だが、その答えを聞くと、質問する以前よりも大きな疑問が現れる。 聞けば聞くほど、何も分からなくなってくる。

抜井規泰 @nezumi32

ーー本当に、供託金は没収されると思うか 「間違いなく、没収されるでしょうね」と武田氏。 思い切って、尋ねた。 そのお金で、暖かい部屋を借り、美味しい、栄養のあるものを食べようとは、思わないか、と。 なんか、疲れました。 続きは後日ーーって、誰かに読んでもらっているのだろうか、この話

抜井規泰 @nezumi32

じゃあ、もう少し、続けますか。

抜井規泰 @nezumi32

没収されるであろうと本人も確信している、100万円の供託金。そのお金で、暖かい部屋を借り、おいしいもの、栄養のあるものを食べようとは、思わないのかーー。 武田氏は、言った。 「みんな、そう言います。区役所も、知人もみんな、そう言います。でも、宝くじと同じでしょ。買わなきゃ当たらない」

抜井規泰 @nezumi32

そうは思いませんか、と逆に尋ねられたので、正直に答えた。 「宝くじは買えば当たるかもしれませんが…」 そこまで言うと、武田氏は僕の言葉を遮るように、こう言った。 「絶対に当選しないことは、分かっているんです。でも、私にはーー」 その瞬間、こう察した。 《何かがある、と言うんだろうな》

抜井規泰 @nezumi32

その言葉を聞いた瞬間、失礼ながら、「キング牧師じゃないんだから」と、全身から力が抜けてしまった。 なんというのか、さっきも書きましたが、疑問が浮かぶ→尋ねる→答えを聞く→さらに分からなくなる この繰り返しに、なんだか分からなくなっていた。早く、その場から立ち去りたくなっていた。

抜井規泰 @nezumi32

「私には」 その言葉に続けて、武田氏は、こう言った。 「夢がある」 そうですか。 僕は、そう言ったきり、思考が凍結してしまい、次の言葉を紡げなかった。 「どんな夢ですか」 と尋ねれば良かったんだと、いま思えば、なんでそんな社交質問すら出なくなってしまったのか、自分でもよく分からない。

抜井規泰 @nezumi32

武田氏はセルロイドの眼鏡をかけている。 ツルが左右とも根元が折れているらしく、ガムテープで巻いている。 100万円で、その眼鏡を直そうとはーー そうは思わないから出馬するのに、また僕は無駄なことが気になり、その疑問を潰そうと無駄な質問をしようとしている。そんな自分に、いらだち始めていた

抜井規泰 @nezumi32

いま思えば、なんでこんなことを聞いたのか、自分でも分からない。ただ、最後に僕はこう尋ねた。 幸せですか、と。 これまでの質問と同じように、武田氏は穏やかに、訥々と、簡潔に、こたえたーーのだが、その時、路地のすぐそこをバイクが走り抜けていった。

抜井規泰 @nezumi32

僕は片耳が聞こえず、多方向から音がすると、何も聞こえなくなってしまう。 武田氏のこたえは、聞き取れなかった。 聞き返そうと思って、やめた。幸せでも、不幸せでも、それを聞き返してはいけないような気がした。ただ、その時、武田氏が初めて笑った。

抜井規泰 @nezumi32

区長選は、有効投票総数の10分の1を獲得できなければ、供託金は没収される。武田氏が生活保護のお金をためて作った100万円は、没収される。 《いま、幸せですか》 もう一度、僕がそれを尋ねたとして。 またそのこたえが聞き取れなくてもいいのだが、笑顔だといいな。

抜井規泰 @nezumi32

台東区長選の一連のツイートで、随分フォロワーさんが増えてしまいましたが、おそらくみなさんが期待するようなことは、もうツイートしませんよ、僕は。 どかっとフォロワーさんが増えた時に必ず言いますけど、僕の専門は相撲です。 「インディーズ候補」の情報が知りたいなら、よそをあたってください