【シナリオ】深海棲艦となって提督を襲う神通

深海棲艦となって提督を襲う神通の話
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@akuochiken

「提督は私にヒトの愛し方を教えてくれました。だから今度は私が提督の愛に応える番です」 確かに聞こえて来た声は、私が愛した秘書艦のもの。 だが、目の前に立っているそれは、顔面を奇怪な仮面で覆った、白磁器のように白く滑らかで冷たい皮膚の上に、黒く染まったセイラー服を身に着けていた。

2019-05-01 12:01:31
@akuochiken

「私は提督に気持ちよくなってほしい。もっと、もっと気持ちよくなって、提督に幸せになってほしい」 目の前にいるそれは、私の左腕と右肩を掴んで地面へと押し倒してきた。 掴まれた左腕が動かなるほどの握力、腕力に加え、何よりその手が氷を押し当てられたように冷たく、耐えようない恐怖を感じた。

2019-05-01 12:12:36
@akuochiken

私はこの状況を知っている。 もし目の前にいるそれが彼女だとしたら、彼女の言葉から推測するに、この後、私を待ち受けているのは愛のある性交ではなく、容赦のない搾取。 深海棲艦が人間との性交に満足できるはずがないのだ。 いつまでも満たされず、相手が尽き果てるまで行為を続けるに違いない。

2019-05-01 12:18:44
@akuochiken

なんとか振りほどかなければ、という一心で床に転がっていた分厚い本を必死の思いで掴み、目の前に迫っていた顔面へとぶち当てた。 パキン、とても生物とは思えない破壊音を立ててその全身が私の左側へと崩れ去った。 不意を突かれたのだろう、私の左腕を掴んでいた右手も離して自らの顔面を押さえた。

2019-05-01 12:23:30
@akuochiken

「あっ! んんっ! ああっ、ががっが、が……てい、と、く……!」 割れた仮面の一部分が、どしゃんと地面へと落ちる。 その音から、仮面ですら偽装と同じく重量のある金属で構成されているようであった。 「てい……とく……!」 右手を地面に突いて身を屈めて俯き、左手で顔面を押さえているそれ。

2019-05-01 12:29:20
@akuochiken

着けていた仮面は三分の一付近で割れており、普通の人間であれば頭部を負傷して血が流れているところだろう。 だが、左手を離したそこにあったのは、虚無。 まるで瀬戸物の壷に球がぶつかって割れたときのように、壺の形をかろうじて残しながら砕け散る、あれ。

2019-05-01 12:35:30
@akuochiken

それは頭部の形状を残しながら、割れた陶磁器のような外見をしており、ピシリ、ピシリと亀裂が目元から下へと進行していき、口元、顎を経て首を通過し、肩や胸まで進行して止まった。 「……痛いです、提督」 ゆっくりとこちらを向きながら、落ち着いた声で語り掛ける、それ。

2019-05-01 12:40:11
@akuochiken

頭部は仮面が着けられたままであったが、先程破壊された部分、左目の周囲がまるごと砕け散っており、顔面には何本もの亀裂が入っている。 そして元々左目があった部分は真っ黒な陰となっており、中がどうなっているかは分からなかった。 「どうして? 私は提督に気持ちよくなってほしいだけなのに」

2019-05-01 12:44:51
@akuochiken

左手で再び自らの顔面をなぞり、破断面を自らの手で確認した。 「提督が殴るから壊れちゃったじゃないですか。これ治るのに時間が掛かるんですよ」 もはや自分自身をヒト、もっと言えば艦娘と認識していないのは確実だった。 それはもう神通ではなく、私への歪んだ想いだけが宿った無機物なのである。

2019-05-01 12:53:55
@akuochiken

「ごめんなさい、提督。少し、私の形が保てないかもしれません」 見ると、亀裂が入った箇所から、ねっとりとした青い液体が体表を伝って下へと流れ落ちようとしていた。 「ふふ……ふふ……」 それは、艶めかしい声を漏らす緩んだ口元からも同じく、その声に合わせて湧き出し、流れ落ちていた。

2019-05-01 13:05:47
@akuochiken

不意に、地面にうずくまっているそれの左目が、いや、左目がないことは先程から分かっているのだが、左目が地面に落ちている仮面の欠片へと視線を移したように見えた。 そして右手でゆっくりとその破片を掴んで、左目部分に押し当てた。 「大丈夫です。すぐに元の身体に戻りますから安心してください」

2019-05-01 14:18:43
@akuochiken

元の身体……それにとって、仮面すらも身体の一部になっているということを宣言する発言だった。 仮面を左目付近に装着したそれは、その状態でゆっくりと立ち上がろうとした。 しかし、どしゃん、と先ほどと同じ音を立てて破片は地面へと鈍い音を立てて落下した。 「……大丈夫、大丈夫ですから!」

2019-05-01 14:25:57
@akuochiken

それは凄まじい速度で左手を振り下ろす。 左手ごと地面にめり込むようにして、仮面の破片は粉々に砕け散った。 「もう、これは要らないです。こんなものがなくても提督は私のことを信じてくれるって」 それはこちらを向いたままゆっくりと立ち上がる。 「だって私は“神通”なのですから」

2019-05-01 14:29:07
@akuochiken

顔面から、そしてひび割れた上半身から、まるで封を壊された機械油のように今も湧き出し続ける青い液体は、いまやその足元を水溜りのように濡らしていた。 留まることなく体内から湧き出し続ける液体は、脚を伝って地面へと流れ落ち、一歩ずつ歩むごとにひたり、ひたりと鈍く響く足音を立てていた。

2019-05-01 14:35:03
@akuochiken

やがて着ている服も液体に浸かったように濡れ、それの体表に吸い付いて滑らかに身体の輪郭をなぞるとともに、一挙手一投足ごとに服と皮膚が擦れて、ぴちゃり、ねちょりと艶めかしい音を響かせていた。 「提督、知ってます? 油って粘度が高くて身体に纏わりつきやすいから温度を伝えやすいんですよ」

2019-05-01 15:08:58
@akuochiken

仰向けに倒れたままの私に覆い被さるようにして立つ、それ。 全身を濡らす青い液体は両脚から地面へと流れ落ちるだけでなく、それのスカートの下の股間部からもぴちゃり、ぴちゃり、と私の身体へと滴り落ちていた。 それは私の視線の先へと、青い液体にまみれた両手を見せつけるようにかざした。

2019-05-01 15:15:07
@akuochiken

そしてそれは渡しに馬乗りになるようにゆっくりと腰を下ろし、私の衣服に手を掛けた。 彼女の宣言通り、油であろうか、青い液体に浸された両手が触れるごとに、凄まじい冷気にこちらの正気が飛びそうになる。 「提督、気持ちいいですか? 私の体温を感じてくれていますか?」

2019-05-01 15:17:11
@akuochiken

目の前の顔面のうち、唯一人間らしい部位を覗かせている口元が緩み、笑みを浮かべた。 だがそれとは裏腹に私を覆い尽くす冷気という冷気と再び遅い来る恐怖の感覚。 間もなくその手は私のズボンへと掛けられ、想定される最悪の事態へと流れる。 その前に逃げ出さなければ……

2019-05-01 15:22:22
@akuochiken

「逃しはしませんけど」 馬乗りになっているそれをどかそうと思い切り力を込めた右手は軽く左手に受け止められ、返す刀として次の瞬間には、それの右手が私の首を締め付けていた。 「こうした方が気持ちよくなれると伺ったものですから」 薄れゆく意識の中で、搾取に走る彼女の嬌声が響いていた。

2019-05-01 15:26:00