日向倶楽部世界旅行編第83話「前へ進むもの」

拭き荒む嵐の中、足柄と利根の激闘が続く。強さと強さがぶつかり合う中、両者の瞳に映るものは。
0
三隈グループ @Mikuma_company

「何故位置が割れた…!?」 「上へ上へ、次へ次へ」 「なんじゃ此奴は…!」 「迷いは無かった」 「分からぬ!此奴が分からぬ!」 「私は手を伸ばした」 「此奴には今、何が見えておるのだ…!?」 「足柄、それが私の新しい名前」 日向倶楽部、この後21:00! pic.twitter.com/y78je538RZ

2019-05-07 20:45:51
拡大
三隈グループ @Mikuma_company

【前回の日向倶楽部】 夢を見ていた、激しい嵐の中で、戦う夢だ。 否、それは夢ではない、現実だ。記憶の底に在り続ける、決して忘れ得ぬ過去、確かにあった現実。 夢を見ている、未だ終わらない夢の中。 否、これは夢ではない。これは私の先にある、確かな未来。

2019-05-07 21:00:51
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 私が生まれたのは、日本に1%程いる、所謂富裕層の家、私はそこの一人娘だった。 特別な家柄ではなかった、単純に所得の多い家というだけ。でも、家柄に関係なくそういう家庭は、大抵子供の教育に力を入れる。 私もそうやって育ってきた、同じ富裕層の子供達に囲まれながら、育って来た。

2019-05-07 21:01:42
三隈グループ @Mikuma_company

その中にあっても私は、勉強もスポーツも、人より数段上手くこなして来た。名前を出せば人が驚く、そういう箔のついた経歴を提げて生きてきた。 嫌いではなかった、それが「当たり前」だったから。周りから頭一つ抜けた位置に居る事は、私にとって当然の事だった。

2019-05-07 21:02:59
三隈グループ @Mikuma_company

上へ上へ、次へ次へ、そういう当たり前の日々、別に何とも思わなかった。 大学に入っても同じだった、早々に就職先も決まって、婚約者も出来た。その感覚は、大学受験をした時とそんなに変わらなかった、やってみたら上手く行った、いつも通りに事が運んだ。

2019-05-07 21:04:55
三隈グループ @Mikuma_company

深海棲艦が現れたのはそんな時、奴等と戦う戦士を公に募り始めたのは、その少し後だ。 私が居た場所に、それになりたいという者は居なかった。皆裕福な家庭の子供達、健やかに生きる事が当たり前の者達、わざわざそんな危険を冒す必要なんて、何処にも無かったのだろう。

2019-05-07 21:06:44
三隈グループ @Mikuma_company

でも私は、興味が湧いた。 深海棲艦…怪物の現れた海、そこは未知の世界だ、誰も知らない世界だ。未知の世界で、得体の知れぬ怪物と戦う…私はそれに興味が湧いた。 私の中では当たり前の感覚だった、次へ次へ、上へ上へという、いつも通りの感覚だった。

2019-05-07 21:07:52
三隈グループ @Mikuma_company

だが、家族や周りの人間はそれを止めた。就職はどうするんだ、結婚は、何故そんな事を、まるで狂人でも見るかの様に彼らは言った。 何故?上へ上へと、次へ次へと、私はそういう風に育って来たはずよ。私のやろうとしている事は別にいつもと変わらない、大学や会社が、未知の海に変わっただけ。

2019-05-07 21:08:51
三隈グループ @Mikuma_company

その時になって、周囲の人間を見渡して、私は初めて気付いた。 彼等には初めから、上へ上へ等という考えは無かったのだ。エリートの上昇志向に見えていたそれは、今ある生活を維持したいというだけの事。彼等の頭は、ピラミッドの天辺にある、僅かなスペースにしがみつく事だけに向いていた。

2019-05-07 21:10:11
三隈グループ @Mikuma_company

私の婚約者もそういう男だった、だから別れ話を切り出すのに、躊躇いは無かった。 自分が如何に小さな世界にいたのか、あの時全て理解した。しがみつく事がそんなに楽しいか、見上げれば次がある、空には月があるというのに、その手は伸ばされず、しがみつくだけ。

2019-05-07 21:11:54
三隈グループ @Mikuma_company

迷いは無かった、私は手を伸ばした。 天道千聖としての人生、嫌いでは無かった。でも次があるなら、目指す場所があるなら、私はそこへ行く、そうして来たのだ。 未知の海、そこが私の新しい場所。 足柄、それが私の新しい名前。 そして今、私は… 〜〜

2019-05-07 21:13:02
三隈グループ @Mikuma_company

日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第83話「前へ進むもの」

2019-05-07 21:14:05
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 「私は敵だァァッ!!」 嵐の中、足柄の咆哮が響く。 そして利根は驚愕した、嵐の中から足柄が現れたのだ。 「何故だ、何故位置が割れた…!?」 大それた事はしていなかった、細心の注意を払い、隠密と共に波紋弾を送り込み続けた。

2019-05-07 21:14:39
三隈グループ @Mikuma_company

にも関わらず、足柄は現れた、間合いを詰められた。 (距離は離れていた、そう簡単に目視出来るはずがない!我輩とて、波紋の光を目印に探っておったのだ、此奴がこうも簡単に気付くはずが無いのだ!) 足柄の砲撃を避け、波紋弾で応戦しつつ利根は息を呑む、状況が理解出来なかった。

2019-05-07 21:16:03
三隈グループ @Mikuma_company

ここまで圧倒的な力で勝ち進んできた利根、筑摩の事以外では一切の動揺がなかった、不動の自信を持っていた。 そんな彼女は今、この大会で初めて、激しく動揺している。 (なんじゃ此奴は…!) 鬼気迫る、いや、鬼そのものと言って良い表情の足柄に、利根の呼吸が僅かに乱れる。

2019-05-07 21:16:42
三隈グループ @Mikuma_company

「何処にいる!?私の探すあんたは、何処にいるッ!」 足柄は叫びながら攻撃を加え続ける。利根にしてみれば、彼女の言動は意味が分からなかった、それだけではない、何もかも意味が分からなかった。 (分からぬ!此奴が分からぬ!一体何なのだ!) 捌きつつ、利根は足柄の目を見る。

2019-05-07 21:17:33
三隈グループ @Mikuma_company

その目は鋭い眼光を放ちながら、利根を…いや、利根の向こう側を見つめていた。 (此奴には今、何が見えておるのだ…!?) しかし、利根の動揺は長く続かなかった。彼女は素早く気持ちを切り替え、冷静に足柄と対峙する。 (怯えるな利根!此奴が狂人というなら、その様にあしらえば良い!)

2019-05-07 21:18:27
三隈グループ @Mikuma_company

利根は素早く決断し、水面を蹴り、キラキラとした赤い残光と共に空へ跳んだ! 「狂った艦娘に対空戦闘など出来まいッ!」 彼女はそう言い切ると、両手を合わせて波紋弾を放つ!空中を飛び回りながら、足柄目掛け光弾を次々と降らせる! 足柄はこれを避ける、ひたすらに避け続ける!

2019-05-07 21:19:45
三隈グループ @Mikuma_company

(動きは変わらず早い…だが、いつまでも避け切れるはずがあるまい!) 誘導弾と高速弾、それらを織り交ぜながら放ち続ける。変わらず変則的な軌道で空中を蹴り飛び、足柄を着実に追い詰める! その時だ 「…見えた」 足柄が利根をはっきりと、見上げた。 「見える、見えるッ!」

2019-05-07 21:20:56
三隈グループ @Mikuma_company

足柄は主砲を空に 何も無い虚空に向けて、放った! 「そこだァァッ!!」 弾丸は虚空に飛び、そしてある一点で爆発した! その一点は! 「なっ…!!」 空中を蹴り飛ぶ、利根の足元! 利根の足の向かう先が爆ぜる、それと同時!彼女は水面へと落下を始めた!

2019-05-07 21:22:17
三隈グループ @Mikuma_company

その、落下する利根に足柄は主砲を次々撃ち放ち、接近する! 「あんたがどうやって空中を飛び回るのか…フフッ、原理は那珂と同じだったなァッ!」 利根がどうやって空中を蹴り跳んでいたのか、理屈は極めて簡単だった。彼女は波紋エネルギーを空中に放ち、それを弾けさせる事で跳んでいたのだ。

2019-05-07 21:23:24
三隈グループ @Mikuma_company

もっとざっくばらんな言い方をするなら、彼女は空中で蹴り跳ぶ為の足場を作り続けていたのだ。 それは一瞬だけ現れ、即座に爆ぜ、彼女を跳ばす足場。残るのは晴嵐の波紋が放つ、僅かな赤い残光だけ…だから彼女は、キラキラと光を放ちながら飛んでいるように見えるのだ。

2019-05-07 21:24:27
三隈グループ @Mikuma_company

足柄はその、一瞬だけ現れる足場を撃ち抜いたのだ!だから利根は跳べない、墜ち行く定め! (馬鹿な!この技が見切られるなど…!) 利根がこの技を体得したのは、那珂との戦いが終わった後。彼女の爆雷を使用した空中軌道からヒントを得たものだ。

2019-05-07 21:25:24
三隈グループ @Mikuma_company

(爆雷を使用する破空術と違い、我輩は無限に飛び続けられる、仕掛けも見えぬはず!何故見切られた、波紋も使えぬただの艦娘に!) 利根の不運はいくつかある。 一つ…吹き荒ぶ嵐の中、晴嵐の波紋が放つ光は、晴れ空のそれよりもはっきりと見えてしまっていた事。

2019-05-07 21:26:15
三隈グループ @Mikuma_company

二つ、はっきり見えるとはいえ、普通は捉えられない程の僅かな残光を、足柄が正確に見ていた事。 三つ、読めるはずのない空中軌道を、足柄という艦娘は読み切れてしまっていた事。 四つ、再三に渡る猛攻を足柄という艦娘は全て凌ぎ切り、ここまで試合が長引いた事。

2019-05-07 21:27:05