【シナリオ】スライム娘④

スライム娘の話
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@akuochiken

地面へと着地した左腕分の液体は、意思を持ったように私の左足に集ってその表面から吸収されていく。 意思を持った、というのは当然である。だってどの液体も、私から滴り落ちた液体は全て私なのだから。 私が私となって私から分離して、私となるために私へと還る。 私はそれを無限に繰り返すのだ。

2019-05-23 21:36:58
@akuochiken

ずるり、と溶け去った左腕が元通りになる。 青く透明な液体で構成された左腕は、私の意識の呼び掛けに応じて一瞬にして人間の肌と同じように擬態されていく。 そしてまた、右手で左腕を愛おしく撫でる。 紛れもない滑らかな人間の肌。 であるからして、私は裸の姿でここに存在しているのである。

2019-05-23 21:42:41
@akuochiken

「(満足したかしら?)」 どこからか声が聞こえる。 でも、それがどこから聞こえた声で、誰の声か、など、そういう疑問は全く抱かない。 「ええ、これならとても愉しめそう」 会話をした認識はない。 でも、その声、その人は、私のとても大切な人だった気がして、自然と受け答えを行ってしまった。

2019-05-23 22:10:58
@akuochiken

「(よかったわ)」 何故か、その声の主は私の回答に満足し、このまま消えてしまいそうな予感がした。 でも、それに対して不思議と寂しい想いはしなかった。 またいつか会えるから、ではない。 その声の主自身が“私”であるという、そんな不自然な自信があった。

2019-05-23 22:15:47
@akuochiken

「あは」 私が両腕を広げると、瞬時にして私の表皮に張り付くように、私の身体から衣服が形成されていく。 そういう私を取り巻く全ての変化が、何よりも気持ち良くて、甘い吐息が漏れてしまう。 「そうよね、せっかくこんな素晴らしい身体を手に入れたのだもの。もっと愉しまないと」

2019-05-23 22:22:10
@akuochiken

溶けて、溶かして、混ざり合って、また溶けて、お互いに溶かし尽くして、分け合って、統合する。 次は誰を溶かそうかしら? 次は誰と混ざり合おうかしら? 次は誰になれるかしら? そういった期待に胸を膨らませながら、ゆっくりと歩みを進めていった。

2019-05-23 22:32:08