ア㊙️イさんのお尻と学ぶナチス(全26回)

ここ10年ぐらいのナチスに関する実証論文をまとめたのだ。 史実に関する部分での誤りは可能な限り訂正しているけど、お尻さんはドイツ史もナチスも専門ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ナチスは政権を奪取する以前の1932年時点で120万人、1933年末までには390万人もの党員がいたのだ。1920年には100人ちょっとだった党員が何故ここまで増えたのか?その答えに「社会関係資本」の視点から迫った研究があるのだ。 (1/15) pic.twitter.com/ACX55v35Yv

2019-05-20 06:37:47
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル:以下、SCと略すのだ)という概念を一躍有名にしたのはパットナムの2冊の本なのだ。それぞれイタリアとアメリカの地方政治を分析しているんだけど、要は「市民社会」が良い暮らしには必要、ということを言っているのだ。 (2/15) pic.twitter.com/pLmFzyOSUX

2019-05-20 06:38:34
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

SCは社会関係の充実度合を表していて、自発的に作られた水平的なグループ(メンバー間は平等な関係)やネットワークのような “人々の豊かな繋がり”が “豊かな社会”をもたらすのだ。その主張自体は大いに納得できるけど、この研究はSCの “ダークサイド”に注目しているところが面白いポイントなのだ (3/15) pic.twitter.com/k5sDJuECDk

2019-05-20 06:39:42
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ドイツでは19世紀初頭以後、色々な「クラブ」が都市部を中心に形成されたのだ。中には政治的・宗教的なグループもあったけど、例えば労働者による歌唱クラブやスポーツクラブ、ペットの為のクラブのような趣味の集まりも沢山あったのだ。 (4/15) pic.twitter.com/fVhRlcmTPl

2019-05-20 06:43:29
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では19世紀以後のドイツの各都市(町村含む)のクラブの数を、膨大な資料を元に手作業でカウントしたのだ。その結果、1920年代の時点で2万以上のクラブが存在していたことがわかったのだ。最も多かったクラブは非政治/宗教的な団体(スポーツクラブとか)で、約半数を占めたのだ。 (5/15)

2019-05-20 06:44:10
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

社会関係資本のナイーブな見方に沿うと、自発的かつ水平的なグループの形成により市民社会が成熟し、民主主義を脅かすような過激な思想に感化されづらくなるのだ。ドイツの文脈で言えば、人々の繋がりが濃い地域ほど、ナチスに入党したり投票する人は少なくなる、という予測が立つのだ。 (6/15)

2019-05-20 06:44:50
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でも著者達によれば、実はこうしたクラブはナチスへの勧誘に格好の場を提供していたのだ。クラブの中に1人ナチス党員がいると、クラブ内のネットワークを活かしてどんどん党に勧誘されていくのだ!カルト宗教やア●ウェイの人が全然関係無い集まりに現れる状況に超似てるのだ! (7/15) pic.twitter.com/EUep28qwdF

2019-05-20 06:45:48
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果、クラブの数が増えると、ナチスの入党者も増えていたことがわかったのだ! この結果は、クラブを非政治的な団体に限定した分析や、様々なその他の要因を統計的に排除した分析でも一貫していたのだ。 (8/15) pic.twitter.com/457VarVnnK

2019-05-20 06:47:03
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらなる統計分析の結果、クラブの増加はナチスの入党者の増加を通じてナチスへの投票を増やしていたこともわかったのだ(媒介分析という手法を使っているのだ)。クラブは党員の拡大だけじゃなくて中央政界でのナチスの台頭をきっちり手助けしていたのだ〜!! (9/15) pic.twitter.com/LyveGNpEwR

2019-05-20 06:48:48
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でもパットナムは社会関係資本の「負の側面」にちゃんと気づいていたから、SCを2つに分けていたのだ。 1つは「橋渡し型」と呼ばれ、異なる背景をもつ人々を繋ぐ “外向き” のもので、例えばチェスクラブみたいな趣味人の集まりや、誰でも参加できるボランティア団体なんかを指すのだ。 (10/15)

2019-05-20 06:49:45
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

もう1つは「結束型」で、排他的で内向きなもので、一部の人しか入れない団体を指すのだ。外に開かれた「橋渡し型」は豊かな社会をもたらすけど、「結束型」はそうではなく、内向きの忠誠心を喚起するテログループなんかが利用するSCとされているのだ。 (11/15)

2019-05-20 06:50:48
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

…でも!!より詳細な統計分析によると、橋渡し型でも結束型でも、とにかく数が増えればナチスの入党者が増えていたのだ〜!! よく言われるような、「ナチスは大衆社会で周縁化された人達に支持された」という考えには疑問符がつくのだ。実は陽キャの集まりだった可能性があるのだ! (12/15)

2019-05-20 06:52:52
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ただ、このクラブの数がナチス入党に与える影響は、「政治的に安定している地域」だと弱くなることもわかったのだ。地域行政/政治がしっかりしていれば、例え勧誘されても政治的に極端な方向に感化される人は減る、ということを示唆しているのだ。 (13/15) pic.twitter.com/k9caVUqVtK

2019-05-20 06:53:30
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究は、”人々の豊かな繋がり”それ自体が何か良い結果を生む訳ではない、ということを示唆しているのだ。そりゃそうなのだ。ネットワークを利用して何かに動員しようとする人間が絶対出てくるのだ!どんな集まりでも関係無く起こることだと思うのだ。 (14/15) pic.twitter.com/toyMZqHZmB

2019-05-20 06:54:59
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は journals.uchicago.edu/doi/abs/10.108… からなのだ。タイトルがパットナムの本のもじりになっていてオシャレなのだ。 社会関係資本は一時期めちゃくちゃ流行った記憶があるけど、最近はダークサイドに注目した研究も増えているから陰キャのお尻さんには嬉しいばかりなのだ😊 (15/15)

2019-05-20 06:56:45

ナチスの横顔:下士官データの分析

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

最終的に膨大な数の党員を抱えることになったナチスだけど、党の他にもナチスには色々な組織があったのだ。 前回はナチスの党勢拡大の話だったけど、今回はどんな人がどんなナチスの組織に加入しやすかったのかを分析した研究(進行中)の一部を紹介するのだ。 (1/10) pic.twitter.com/Ja0TGCMTWL

2019-05-21 17:10:28
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

そもそもナチスは党(NSDAP)のほかにも突撃隊(SA)、親衛隊(SS)、ヒトラーユーゲント(HJ)という組織をもっていたのだ。NSDAPとSSはナチスの中でもエリート組織で、入るには一定の基準を満たしている必要があったのだ。SSなんかは見た目がもうエリート感あるのだ。 (2/10) pic.twitter.com/NpgU8IMSc4

2019-05-21 17:16:25
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

一方で突撃隊(SA)は誰でも入れる武闘組織なのだ。ヒトラーユーゲント(HJ)は元は突撃隊の管理下にあった青年部隊で、1936年以後10-18歳の青少年の加入が義務付けられたのだ。ヒトラーと党とSSとSAの関係は権力闘争とかでかなりごちゃごちゃしてるから詳細は省くのだ…。 (3/10) pic.twitter.com/pLn7Ugfnnz

2019-05-21 17:17:50
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さて、この研究では、第二次世界大戦に従軍したドイツ軍の下士官のうち1万人以上の入隊時の健康診断のデータを入手したのだ。なんと本人の年齢や出身地、職歴だけでなく、父親の職業というバリバリの個人情報も含まれているのだ。 (4/10)

2019-05-21 17:20:09
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ヒトラーは1935年にヴェルサイユ条約を破って再軍備宣言をし、徴兵制を復活させたのだ。性別(女性は含まれない)や年齢(基本的に若年層)の偏りがあるとは言え、この下士官データは徴兵制のおかげである程度当時のドイツ国民を代表するサンプルとして使うことが出来るのだ。 (5/10) pic.twitter.com/9WeVbzSsvq

2019-05-21 17:22:16
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果「父親の職業の社会的地位が高いほど」そして「本人の学歴が高いほど」、党(NSDAP)と親衛隊(SS)に加入しやすいことがわかったのだ。つまり社会的にそこそこエリートだった人は、ナチスでもエリートになっていたという事なのだ。 (6/10) pic.twitter.com/DrXPioY3Ax

2019-05-21 17:23:38
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらなる分析の結果、後にナチスに加入する人は、職業キャリアの初期(最初の職)から既に父親よりも高い職業的地位に就いていた傾向にあったのだ。著者達の解釈によれば、彼らは「社会的な上昇志向の強い人」と考えられるのだ。 (7/10)

2019-05-21 17:25:10
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ただ、ナチスへの加入が「より良い職」の獲得に繋がったかというと、少なくとも統計上はそういう関係は確認できなかったみたいなのだ。もちろん他にも入党のメリットは考えられるから、そこら辺は今後の研究に期待なのだ。 (8/10)

2019-05-21 17:26:57
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この分析から現れる人物像は、 ・父親も自分もそこそこのエリート ・かつ社会的上昇志向の強い人 とまとめられるのだ。 戦間期のドイツで立身出世や社会的威信を望む人には「いまナチスがアツい!」と思えたのかも知れないのだ。 (9/10)

2019-05-21 17:30:11
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