今も峡谷を挟んであちらとこちらに石垣がある。地学の教師をやっている知人は火山だろうといっている。噴火の爆発で城は吹っ飛び、山も崩れて体を成さなくなった。地元の人間は虫山の虫が羽化したのだろうと言っている。動くだけ動いて今の場所で動かなかったのは、蛹になったからなのだろう。
2019-05-14 22:14:29天国へ行けるまじない(ゼニアゲ)
天国に行けるまじないというのがあった。ゼニアゲと言って、どちらかというと天気のまじないとして通っていた。月も見えないような夜に、硬貨を宙に向かって投げると晴れるという。硬貨の種類は不問だが、よく五円、百円が用いられた。 #ありもしないはなし
2019-05-11 11:11:59このゼニアゲをするとき、何か人の手のようなものが手をかすったりすることがある。これを掴むことが出来れば天国に行けるのだとまことしやかに言われていた。そのまま天国に引っ張って行かれるのだろうか。何だか腕が抜けそうである。
2019-05-11 11:16:45天国へ行く方法を知っているのは、ゼニアゲを知っている子供の内のごく一部だった。局所的に流布した噂らしい。誰か天国へ行ったのだろうか。
2019-05-11 11:20:00蟹
雨が降ったりやんだりの日は蟹が上がってくるそうだが、この話を聞いた市街地から川は若干遠い。なので気にとめていなかったが、つい先日蟹らしきものを見た。傘をさしてまっすぐ歩いているが、顔が横を向いたまま動かない。 #ありもしないはなし
2019-05-06 21:14:33鋏は持っているかどうかは知らなかった。何も持っていないように見えた。白っぽい服を着ていた。足はサンダル履きで水がはねて汚れていた。
2019-05-06 21:16:33バスセンター
バスセンターの建物から出てそろそろ来るはずのバスを待っている。強い百合の匂いが辺りに漂っていたが、バスセンターの周りに花壇はないし、誰も花束を持っていない。香水をつける風な人間もいない。 #ありもしないはなし
2019-05-05 19:23:43地獄を覗く
昔流行ったまじないに、夜中カーブミラーのある四つ辻へ行き、数分間ライトで照らして帰るというものがあった。なんのまじないかは忘れた。カーブミラーのある四つ辻は近所では一か所しかなかったから、まじないをやろうとした近所の子供は皆そこに行っていたはずだ。 #ありもしないはなし
2019-04-28 21:27:56そんな話を久方ぶりにあった昔馴染みにしたら、そんなこともあったねと言ったきりしばらく無言になって、それから、願い事を叶えるまじないではなかったよと言った。では何のまじないかと聞くと、地獄を覗くまじないだという。
2019-04-28 21:30:50カーブミラーの中には凝集された地獄があって、昼間は歪んだただの道を映しているが夜に照らすと地獄の様が透けて見えるという。初めは自分も願いが叶うと言われた気がするんだと昔馴染みは言った。それから、だれがあんなうわさを流したのだろうとも言った。話はそれきりになった。
2019-04-28 21:34:05氏か名か(鍵畠)
今居森坂には鍵畠という場所があり、その集落には双子が多い。人によって区々であるそうだが、そうした人たちには一定の年限を区切り氏か名かを選ばせる作法がある。 #ありもしないはなし
2019-04-22 23:39:53氏を選んだ場合はその家に残り名を変え、名を選んだ場合は家を出て旅に出すそうだ。今居森坂には昔から六部や旅商人が通る場所であったからら二人とも名を選んでも散り散りに散っていったし、二人とも氏を選んだ場合にはそれぞれ名を変えて暮らしている。今いる双子はそれぞれ氏を選んだ双子だ。
2019-04-22 23:45:00子供の双子はほとんどいない。少子高齢化かと思って聞いていたら、そうでもないようだった。双子はある日突然出来るのだそうだ。話を聞いたのは初老の老婆だったが、彼女の場合は畑仕事にあさ出たら、既に鍬を担いでぼんやり立っていた双子と会ったのがはじめだという。
2019-04-22 23:49:48老婆に与えられた猶予は三週間だったそうだ。行く当てもないから氏を選んだら、相手も同じように氏を選んだのでそれぞれ名を変えて住んでいる。生まれたときからの双子というものはどのようなものかと不思議がっていた。名もないときから双子であれば、名を捨てることもなかっただろうにとも言った。
2019-04-22 23:55:02西の原の提灯
西の原の城跡は花見の名所だが、提灯が変わっているので行きたがらない人も多い。人の頭に張り子をして、半開きになった目鼻を描いたのを桜の木の多いあたりに張り巡らせている。今に始まったことでは無い。 #ありもしないはなし
2019-03-28 23:45:57昔誰彼も嬲った挙げ句に殺して楽しむようなひどい殿様がいて、その殿様が花見をしたいと言ったから、家臣共が死に物狂いで考えた挙句、殿様の手にかかって死んだ人間の首を吊したことによる。下手をすると自分の首を刎ねられかねないから、過去刎ねた首で勘弁して貰おうという算段だ。
2019-03-28 23:50:09次のまとめ