一つ前のまとめ
水、水
逃げ水の中から人影が涌いて、水、水、と言うのは、水をくれてやると水をこぼして消える。汲むのはたまり水でも良いと言われているが、与えるならなるべくきれいなものの方が良いような気がする。 #ありもしないはなし
2019-08-04 21:18:21この風は親から聞いて覚えた。子供の頃にも会った。あるとき水をやる一部始終を祖母が見ていおり、消えた後に、水をやるのはいいが火にあたらせてくれと言うのは入れるのではないよと言った。火にあたらせてくれというのは良くないものなのだそうだ。
2019-08-04 21:22:04小さい人たちの葬式
公園に住んでいる人がいるという公園の近くを通ったが、誰も子供がいなかった。公園に住んでいる人というのは、文字通り公園に住んでいる人のことで子供向けに作られた小さな椅子や机を使って生活している。普段は瓦やタイルの下に住んでいるそうだ。 #ありもしないはなし
2019-08-04 21:32:33この話をしたのはこの公園で遊んでいた子供である。また話を聞こうと思っていたのだが、炎暑のせいか誰もいないので諦めて帰ろうとしたところすれ違った。話を聞くと、最近その公園に住んでいる人のお葬式があったのだという。
2019-08-04 21:34:52小さい人達が死んでしまった小さい人を担架に乗せて、時折立ち止まって担架の亡骸を揺するようにしながら道を歩いて行く。これは葬式であるという話をしたのは担架の列の後ろにいた小さい人で、席が空いたから来るかいと聞かれた。そんなことがあって以来、公園には寄りつかないのだそうだ。
2019-08-04 21:48:23葬式の列はどうなったのか聞くと、何度か揺する動作をして、ぽーんと亡骸を空に投げ上げたところ亡骸が消えてしまい、解散になって、めいめい瓦の下や側溝の中へ帰って行ったそうだ。
2019-08-04 21:50:38公園遊具
公園に住んでいる小さい人達の話を何人かにしたところ、妙な顔色になったのが一人いたので、つかまえて話を聞くと公園の方に反応したらしかった。 #ありもしないはなし
2019-08-09 23:08:15理由を聞きに指定された場所に行ってみると、オフィスビルを案内された。一角を倉庫にあてており、その中に資料室と書いてある部屋がある。開けると確かに書類棚が壁際に並んでいたが、床の大半は公園遊具に埋められていた。床にしっかり固定してある。
2019-08-09 23:20:33公園に住んでいる小さい人達の話を聞いてこの部屋のことを思いだしたのだといった。何の理由かは知らないが、たまに使い古された遊具が運び込まれるのだそうだ。誰が遊ぶわけではない。遊具の会社でもない。ただ土地の売買をする部署があって、遊具はその部署が持ってくるらしい。
2019-08-09 23:25:28狸の越境
狸が越境を試みるのか、近頃怪音が線路のあちらとこちらで聞こえる。狸がいるのは今八幡寄り、線路以南の新沼にはいない事になっている。昔勢力を広げようとしたことがあったそうだが、汽車にはねられてしまって駄目だったそうだ。 #ありもしないはなし
2019-08-07 23:09:24はじめに線路の北でどーんという大きな音が聞こえる。ほんの少し間を置いて、次にばーんという音が線路の南で聞こえて、見ると線路沿いのフェンスや、看板や、窓がへしゃげている。無論幻覚だ。
2019-08-07 23:11:39ただどさくさに紛れてどーんという音で線路の北を発ち、ばーんという音をたてながら落下してゆく狸を見たという話もあるから油断がならない。
2019-08-07 23:13:41狐小町の彼氏
狐小町に彼氏がいるという話は前々から聞いていたが、何となく現場を見たような気がする。狐小町は昔テレビに出ていたが、テレビが今居に来たときに狐に化けられて、置いて行かれた人間の女だ。テレビには狐が出ているから帰るところがなくなってしまって、そのまま居る。 #ありもしないはなし
2019-08-15 21:18:17狐小町の住んでいるアパートの前を夜に通りかかったとき、狐小町が丁度やってきて、アパートの中に入る直前にひらひらと中空に向けて手を振って中に入っていった。手の先なはなにもない。電信柱にくくりつけられた街灯が辺りを照らしているだけだ。
2019-08-15 21:21:15禿
八幡下のトンネルを出て車で新沼へ向かっていた所、元八幡の廃社から少し下ったところに巨大な禿が立っていた。禿の上に月が出ていていた。表情は暗くて見えなかった。口と、鼻の輪郭が頭上の月に照らされてぼんやり浮き上がっていた。 #ありもしないはなし
2019-08-26 12:39:39着物の丈は少し短く、端折りがあってすっくと足が伸びていた。足が見えていた。山の向こうにいるのではなかった。確実にこちら側にいて、元八幡の廃社のある山道の下に立っている。怖かったので、以降そちらの方は見ずに走った。
2019-08-26 12:45:47