#ありもしないはなし 19.8.4~19.10.20

今居群新沼付近で採取したふしぎな話
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楊枝の間

坂鴨禾火 @with_NEGI

臨海学校の定宿に楊枝の間という部屋があり、本当は柘植の間だったのだが、曰く因縁もなく気づくと楊枝が落ちているという部屋だった。もちろん刺さると痛いのでみんな気を付けていたのだが、気付くと障子の冊子につまようじが挟まっていたりなどする。 #ありもしないはなし

2019-08-26 20:30:21
坂鴨禾火 @with_NEGI

半日もすれば慣れる。磯でとってきた蟹や小魚を、砂を落とす盥に入れて眺めたりするそばにも落ちているので、餌にやろうと昼飯に食べ残した飯粒を楊枝に差してやるなどしていた。一晩あけて、盥の生き物はみな死んでいた。

2019-08-26 20:35:07
坂鴨禾火 @with_NEGI

魚が死んだのは真水のせいである。

2019-08-26 21:03:13

くらげ

坂鴨禾火 @with_NEGI

くらげを拾ったから車を出してと子供が言った。ここから海へ行くには車で2時間を少し切るくらいで、電車ならばさらにかかる。とりあえず洗面器に水を張って塩をまいてから、くらげを入れて持って乗れと言った。今年の夏の思い出である。 #ありもしないはなし

2019-09-03 21:38:19
坂鴨禾火 @with_NEGI

夕立が上がった後にはくらげが落ちていることがあって、上手く乾かすと夜光貝の光るところだけはぎ取ったような皿になる。信号待ちの間に浮かんでいるだけになったのを掬って捨てる。悪くなったくらげは海に返しても死んでしまうし、乾かしてもできそこないの灰皿みたいにしかならない。

2019-09-03 21:43:52
坂鴨禾火 @with_NEGI

結局一時間ほど車を走らせたところでほとんどのくらげが息絶え、残りのくらげはせめての希望を託すように川へ捨てた。海へと続く川だ。だいぶ河口も近くなっていたが汽水域にはまだ遠く、流れは車の速さよりはるかに遅かった。くらげが流れていく。いつかここも海につかるんだろうねと子供が言った。

2019-09-03 21:48:55

鶏の名人

坂鴨禾火 @with_NEGI

役場の北の蕎麦屋は、矢鱈広いので大体空いている。今居森坂に家がある知人が役場近くで仕事を終えて、この蕎麦屋で夜中まで引っかけていたことがあった。バスで帰る予定だったが、次のバスまで間があるので酔い覚ましを兼ねてバス通りを北へ歩くことにした。 #ありもしないはなし

2019-09-13 23:21:24
坂鴨禾火 @with_NEGI

とはいえ役場の北にあるものは煙草屋とコンビニが一軒、あとは小学校くらいなもので、後はひたすらに野原ばかりだ。袖留の交差点を過ぎ、いくつか目の自販機を過ぎたところで竹箒の音を聞く。はてなと思ったそうだ。満月にほど近い月は天頂にあって、時刻は夜中だ。庭を掃くような人影もない。

2019-09-13 23:27:01
坂鴨禾火 @with_NEGI

仙授院下を過ぎた所で完全に人通りが絶えた。ざっという箒が聞こえる。気味が悪くなって早足になるとまたざっときこえて、どんどん近づいてくる。この頃には酔いは完全に醒めていた。次のバス停が見えるが無人だ。

2019-09-13 23:33:06
坂鴨禾火 @with_NEGI

停留所の横を走って通り過ぎ、ひた走りに走りに走ったが竹箒は間を詰めるように鳴り響き、却って近づくように思えたので道から少し外れた所の小さな地蔵堂に隠れることにした。必死に息を殺して聞き耳を立てると、竹箒の音は止まって、否、じりじりと小石を拾うように鳴って知人の行方を捜している。

2019-09-13 23:39:31
坂鴨禾火 @with_NEGI

ざっと竹箒が鳴った。ざっ、ざっ、ざざっざざざざ、道を降り地蔵堂の前へ到り通り過ぎて引き返しぐるりと回ってざざざと何度も道を掃き続けている。時計を見るともうじき先程の停留所にバスが着く時刻だった。近くにあるのは野原ばかりだ。竹箒は相変わらず鳴っている。外には出られない。

2019-09-13 23:46:03
坂鴨禾火 @with_NEGI

考えに考えて考え込んだ挙げ句、知人は鶏の真似をしてどうにか逃れようと思ったそうだ。昔家で鶏を飼っていたそうだ。朝が来れば魔物は退散するだろうから、それを真似すれば逃げられるかもしれない思ったらしい。

2019-09-13 23:50:32
坂鴨禾火 @with_NEGI

こけこっこうと長く音をひきながら、バスが角を曲がって停留所に着く直前地蔵堂から走り出た。道まで戻ってバスに飛び込む。運転手はすぐに扉を閉めて出発させた。竹箒はもう着いてこなかったらしい。

2019-09-13 23:52:23
坂鴨禾火 @with_NEGI

想定外だったのは、なにもないと思っていた地蔵堂の近くに民家が一軒あった事でこけこっこうの大音声が聞こえていたことだった。そういうわけで、知人は鶏の鳴き真似名人として近所で名が通る事になった。

2019-09-13 23:54:26

呪詛返しと顛末

坂鴨禾火 @with_NEGI

午後になってから降り始めた雨が下校時刻まで降り続いて、めいめい置き傘だのを開いて帰る途中生臭い臭いが舞い上がった。向こうの方には置きっ放しにしていたと覚しい傘を開きかけて固まっている女子生徒の一団がいる。 #ありもしないはなし

2019-09-18 23:32:05
坂鴨禾火 @with_NEGI

傘の骨が錆びていたのか、開くのに随分手こずっていた。ようやく開いた傘の布地を乾燥して固まった何かが滑り落ちていくのが遠目に見えて、怒声が膨らむまで一秒、傘を掴んだ女子生徒がものすごい形相で教室へ駆け上がってゆくまで七秒、傘で打ち据える音がするまで十六秒。

2019-09-18 23:39:45
坂鴨禾火 @with_NEGI

石突は木で出来ていてさほど尖ってはいないようだった。見ていた生徒の話によると、急に現れて突こうとした傘を手で押しやろうとして、やや逸れたが脇腹にあたった所からあり得ない量の血が迸り出たそうだ。呪詛返しだと誰かが言った。倒れた生徒が運ばれていくまで傘の生徒は黙ってみていた。

2019-09-18 23:49:34
坂鴨禾火 @with_NEGI

それは倒れた生徒のやり方が悪かったんだろうねと知り合いが言った。呪いとは弱いところから狙うものだそうだ。いじめられていたんだろうと彼は言って、それからまたやり方が悪かったんだと言った。

2019-09-18 23:55:08
坂鴨禾火 @with_NEGI

倒れた生徒はそのまま死んでしまったらしい。傘の傷のせいではないそうだった。墓参にでも行こうかと思ったが、墓石が引き倒されて荒らされていたという話を聞いてやめた。墓を荒らしたのは、誰とも知れない。

2019-09-18 23:58:34

一辻

坂鴨禾火 @with_NEGI

西原に一辻という五叉路がある。この交差点とそこに続く道路廻りの土地に比べて盛り上がっている。一説によると一辻は人辻であり、この五叉路には人が埋められているそうだ。 #ありもしないはなし

2019-09-26 22:56:58
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