ア㊙️イさんのお尻と学ぶ東ドイツ(全10回)

最近出版された東ドイツに関する英語の実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんはドイツ史の専門家ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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東ベルリン暴動:ラジオの大衆動員効果はあったのか?

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ドイツ民主共和国(東ドイツ)史上最初の大規模な暴動であった1953年の「東ベルリン暴動」はすぐさま全国規模で拡大するのだ。その拡散に一役買ったと言われているのがアメリカによるラジオ放送なんだけど…実は大して影響は無かったのでは?という研究があるのだ。 (1/13) pic.twitter.com/ISWzZrzoF0

2019-06-24 21:15:10
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ベルリン暴動は、東ドイツ政府による労働ノルマのアップやノルマ未達への罰としての賃金カットに不満を持った労働者のストライキが発端なのだ。東ベルリンの暴動自体は駐留ソ連軍や警察によって直ぐに鎮圧されたんだけど、抗議デモはわずか24時間で全国に広まってしまったのだ。 (2/13) pic.twitter.com/jMn29XKxi3

2019-06-24 21:16:10
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

当時、東ドイツ政府はこのデモの拡大はRIAS(Rundfunk Im Amerikanischen Sector)の放送のせいだと結論づけていたのだ。RIASは西ドイツ政府とアメリカによって西ベルリンに作られたラジオ放送局で、西側の情報を東側に(一種のプロパガンダとして)伝えていたのだ。 (3/13) pic.twitter.com/sBz3yB6Zf1

2019-06-24 21:17:45
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

暴動の際にRIASはこと細かに事態の推移を報道していたのだ。東ドイツではラジオの所有率も高く、元々RIASの番組が人気だったこともあり、多くの人がこの放送を聞いていたはずなのだ。実際、東ドイツ政府が逮捕した暴動参加者のほとんどがRIASを聞いていたと証言していたのだ。 (4/13) pic.twitter.com/FDBAivisOj

2019-06-24 21:18:36
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツ政府だけでなく、西側の西ドイツ政府やアメリカ政府も、この暴動はRIASに起因していると考えていたのだ。後世の研究者もラジオが重要な役割を果たしたと考えていたんだけど、これまでそれを計量的に実証した人はいなかったのだ。 (5/13) pic.twitter.com/tue7ShDJxH

2019-06-24 21:19:02
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

そこでこの研究では、RIASの放送と抗議行動に関するデータを収集し、その関係を統計的に検証したのだ。これまで紹介してきた他の研究と同様、「実際にラジオを聞いていた人がどれぐらいいたか」はわからないから、ラジオ放送の「シグナルの強さ」を代理変数として使ったのだ。 (6/13) pic.twitter.com/eW6chjCZVm

2019-06-24 21:19:31
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果、「RIASの受信状況が良いところほど抗議行動が起こりやすかった」という関係は全く見られなかったのだ!むしろ抗議の拡散を良く説明できたのはベルリンからの距離で、ベルリンに近いほど抗議が起こりやすかったのだ。 (7/13) pic.twitter.com/A99ZipbXB2

2019-06-24 21:20:04
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

著者によればこれは「社会的なネットワークを通じた拡散」の過程を示しているのだ。暴動を目撃した労働者が地元に帰って翌日に抗議を組織したという事例が結構あったみたいで、ベルリンへのアクセスが良かった地域ほどこのネットワークによる動員の効果が強かったと主張しているのだ。 (8/13)

2019-06-24 21:20:24
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

著者たちはこのロジックの傍証となるような分析もしているのだ。ベルリンへのアクセスとして、単純な地理的な距離ではなく、ベルリンからの鉄道のアクセスの良さ(距離)を使った分析でも同様の結果が得られているのだ。 (9/13) pic.twitter.com/FGdzeBSKI0

2019-06-24 21:21:02
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

正直、このネットワークの部分に関しては間接的な証拠でしか無いんだけど、RIASは効果が無かったというのはかなりロバスト(頑健)なのだ。ラジオのジャミングはじめ様々なコントロール変数や非線形関係含め色々なモデルで分析したけど、どうにも統計的に有意な結果は得られていないのだ。 (10/13)

2019-06-24 21:21:57
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

これまで紹介してきた話と関連させると、やっぱり情報やプロパガンダは元々強い信念を持ってる人や既に結成されている組織を動かすのには有効だけど、バラバラの状態で動員に有効なのは情報ではなく人と人の直接的な繋がりだと思うのだ。 twitter.com/bot99795157/st… (11/13)

2019-06-24 21:24:17
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

早々に第二次世界大戦で降伏したイタリアは内戦状態に陥るのだ。ローマ以北ではナチスに救出されたムッソリーニを元首とするイタリア社会共和国が誕生するのだ。今回はそこで展開された反ファシスト的なパルチザン活動について分析した研究を紹介するのだ。 (1/12) pic.twitter.com/i7vIjUOnac

2019-06-11 19:12:36
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツの場合、社会運動を引っ張れるような組織は既に廃止/解体されていたからラジオの効果が無かったと考えられるのだ。そこで大きな役割を果たしたのがネットワーク、という著者の弁には納得できるけど、もうちょい直接的な証拠が欲しいところなのだ。 (12/13)

2019-06-24 21:24:39
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は doi.org/10.1093/isq/sq… からなのだ。 「メディア(情報)が大衆動員に与える効果は文脈によってあったり無かったりする」というのがホントのところだと思うから、統計的に有意な結果が出ないということを真正面から書き、それが出版されたのは良いことだと思うのだ! (13/13)

2019-06-24 21:25:15

アメとムチ:東ベルリン暴動のその後

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

前回紹介した「東ベルリン暴動」は東ドイツの指導部にとって大きなショックだったのだ。次なる暴動を防ぐために彼らがとった行動は「抑圧(=秘密警察)」と「再分配(=食料配給)」の組み合わせだったのだ。分析はあまり良くないけど、テーマが面白いから紹介するのだ! (1/10) pic.twitter.com/nUkqvlYAiL

2019-06-25 22:35:09
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1950年代の東ドイツは、計画経済のもとで重工業化を強行した結果、一般市民の生活水準が中々上がらない状況が続いていたのだ。労働者による反乱であった1953年の「東ベルリン暴動」も、経済政策への不満が蓄積したことが原因の1つなのだ。 (2/10) pic.twitter.com/kXuaSSwTo4

2019-06-25 22:35:59
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

全国規模で拡大した暴動はすぐに鎮圧されたけど、市民の不満が解消された訳ではないのだ。独裁体制に対して大衆が反乱を起こした時、体制側は、再分配を通じて大衆を宥めるという「アメ」と、抑圧を強化して大衆への暴力的な支配を強めるという「ムチ」を上手に使い分ける必要があるのだ。 (3/10)

2019-06-25 22:36:31
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1955-56年(暴動の後)の食料配給のデータを使った分析によれば、抗議行動が起こった州では食料配給が多い傾向にあったのだ。でも更に下位レベルの行政区画の分析では、抗議が発生したか否かと配給量の相関が無かったこともわかったのだ。 (4/10) pic.twitter.com/f34oXRt1LF

2019-06-25 22:37:56
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

更に、そもそもブルーワーカーの数と配給量にも相関が無かったのだ。当時の労働者は配給に頼らざるを得ない状況だったのに、ちゃんと配給されるべき対象に食料が行き届いていなかったということなのだ。 (6/10)

2019-06-25 22:38:38
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、下位レベルの官僚組織は、中央政府が決定した政治的な考慮に基づく政策(食料配給という「アメ」)が実行出来なかったばかりか、そもそも計画経済を実施する能力が無かった可能性が示唆されているのだ。 (7/10)

2019-06-25 22:39:29
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

じゃあ「ムチ」の方はどうか?この研究が注目したのは、秘密警察(シュタージ)の協力者の数なのだ。シュタージの情報網が張り巡らせていれば、反乱分子が行動を起こす前に潰すことができるのだ。その情報源となっていたのが協力者たちなのだ。 (8/10) pic.twitter.com/JTWT0FSrR7

2019-06-25 22:40:06
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1950年代、60年代、80年代後半を対象とした統計分析の結果、抗議行動や暴動が起こった地域では、ほぼ一貫してシュタージ協力者の雇用数が多い傾向にあることがわかったのだ。これは、秘密警察というムチで次なる反乱を未然に防ごうとした体制側の思惑が反映されていると考えられるのだ。 (9/10)

2019-06-25 22:42:38
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は doi.org/10.1177%2F0888… からなのだ。 ただ、統計分析の方法に問題が色々あって、あくまで相関しか見られていないことには注意が必要なのだ。シュタージや食料配給のデータとかめちゃくちゃ面白いのに、とてももったいないのだ…再分析させて欲しいのだ…。 (10/10)

2019-06-25 22:43:40
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