ア㊙️イさんのお尻と学ぶ東ドイツ(全10回)

最近出版された東ドイツに関する英語の実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんはドイツ史の専門家ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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密告の報酬:シュタージ協力者の実証分析

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツといえば秘密警察(シュタージ)なのだ。彼らの活動を支えたのは、普通の市民による「協力」だったのだ。最低でも19万人(国民の1%以上)はいたと言われる協力者には報酬が支払われていたんだけど、その額がどう決まっていたのかを分析した研究があるのだ。 (1/12) pic.twitter.com/WtJDNT3poM

2019-06-26 13:04:25
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シュタージは社会のあらゆる人々を秘密裏に協力者として雇用し、密告させることで監視を行っていたのだ。シュタージの国内活動で主なターゲットになっていたのは、政府にとっての反乱分子なのだ。反政府運動の芽を潰して国家の安定を図っていたのだ。 (2/12) pic.twitter.com/GIom0eu106

2019-06-26 13:05:13
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

協力者は反乱分子の情報と引き換えに、シュタージから現金や現物の報酬を得ていたのだ。シンプルに経済学的に考えれば、シュタージがより情報を求める(需要が高い)状況では、彼らは報酬をアップさせることで更なる協力者を募ったはずなのだ。 (3/12) pic.twitter.com/9gsgbyA0jH

2019-06-26 13:07:11
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

当時の東ドイツ政府が恐れたものの1つが、国外からの情報なのだ。東ドイツでは西側のラジオだけでなくテレビも視聴できる地域があったのだ。西ドイツのテレビ番組はかなり人気で、受信状況を良くするためにアンテナを設置する家庭も結構あったのだ。 (4/12) pic.twitter.com/kF697nzz4u

2019-06-26 13:07:31
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シュタージは、 協力者に「最近近隣でアンテナを買った家庭」を密告させるなど、かなり西ドイツのテレビ放送を危険視していたのだ。それだけシュタージは西ドイツのテレビ番組は国家を不安定させる要因と考えていたということなのだ。 (5/12)

2019-06-26 13:07:59
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

協力者の需要が高まるのは反乱分子が増加する恐れがある状況だと考えると、西ドイツのテレビが視聴できる地域ではその需要が高かったはずなのだ。そうした地域ではシュタージは経済的インセンティブ(報酬)をアップさせて、市民から更なる密告を引き出していたと考えられるのだ。 (6/12)

2019-06-26 13:08:28
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、1950-89年に活動していたシュタージの協力者約300人をランダムに抽出し、協力者全体を代表できるようなサンプルを作ったのだ。なぜ全員のデータを使えなかったかというと、最初に言ったように協力者が多すぎるからなのだ… (7/12)

2019-06-26 13:08:47
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツの崩壊によって開示された秘密文書には当然シュタージの協力者のファイルもあって、この研究はそのファイルから協力者が年にいくら貰っていたのか、現物支給の場合はそれを価格に変換し、インフレ率も調整して計算したのだ。 (8/12) pic.twitter.com/u6nuxqZpjT

2019-06-26 13:09:23
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果、西ドイツのテレビが視聴できた地域では、協力者が得た報酬が多くなる傾向にあることがわかったのだ。推計によれば、西ドイツのテレビが視聴できない地域と比較して、彼らは60DDM(東ドイツマルク)多い報酬を得ていたのだ。 (9/12)

2019-06-26 13:10:17
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツの平均月収が770DDMと考えると、60DDMは大した額ではないように思えるけど、平均家賃は58DDMだから全くの端金という訳でも無いのだ。社会主義経済であることも考慮すれば、60DDMの収入の増加は結構デカいように思えるのだ。 (10/12) pic.twitter.com/xDsFOWtnMh

2019-06-26 13:11:58
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

その他、統計的に有意に報酬を増加させた要因は、 ・党員であること ・協力者として働いた年数 ・シュタージに監視対象を指定されていた場合 ・密告情報の量(報告書のページ数) だったのだ。特に報告書の話は興味深くて、「出来高制」みたいなものがあったことを示唆しているのだ。 (11/12) pic.twitter.com/2jnkz7fC3R

2019-06-26 13:13:35
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は papers.ssrn.com/sol3/papers.cf… からなのだ。 未出版の研究だからこれからまだ分析が変わったり増えたりすると思うけど、シュタージからの報酬というのはかなり良い観点だと思うのだ。出来ればランダム・サンプリングじゃなくて全部のデータを使って分析して欲しいのだ〜! (12/12)

2019-06-26 13:14:29

技を盗め:産業スパイと技術のキャッチアップ

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツのスパイには政治スパイや軍事スパイももちろんいたんだけど、産業スパイも大量にいたのだ。今回は、西ドイツで活動した産業スパイの働きによって東ドイツはどれだけ産業を発展させていたのかを分析した研究を紹介するのだ! (1/16) pic.twitter.com/k0QpoiRrRM

2019-06-27 17:25:26
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツの各産業における技術レベルは西ドイツのそれに大きく水をあけられ続けていたのだ。西ドイツに追いつくため、秘密警察にして対外諜報機関でもあったシュタージは西ドイツの企業(例:IBM)や大学、研究機関に大量の産業スパイを送り込み、技術を盗み出していたのだ。 (2/16) pic.twitter.com/zS2YD546sy

2019-06-27 17:26:08
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、東ドイツ崩壊後に開示されたシュタージのファイルから、産業スパイ活動を記録した文書をデータ化したのだ。1969-89年の間に産業スパイによって作成された文書は20万件近くもあったのだ…。 (3/16) pic.twitter.com/UBo2r2nDBq

2019-06-27 17:26:52
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

スパイから提供された情報は、シュタージによって精査・分類された後、各産業の企業に渡っていったのだ。この研究では、主要16部門の産業別にその文書を分類(一部機械学習を利用)し、各産業にどの程度西ドイツの技術的な情報が流入していたかを定量化したのだ。 (4/16) pic.twitter.com/qfkXP7cSma

2019-06-27 17:28:01
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究が注目したのは、東西ドイツ間の生産性(全要素生産性)のギャップが情報の流入によってどの程度縮んでいたか、なのだ。全要素生産性は簡単に言うと「技術的な進歩」を表していると考えてもらっていいのだ。 (5/16)

2019-06-27 17:28:39
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1970-88年を対象にした統計分析の結果、産業スパイによる情報流入が増えると、東西ドイツ間の生産性のギャップが縮まっていたことがわかったのだ。技術を盗むことで西側にキャッチアップしようとしていた(そしてそれがある程度成功していた)ことが示唆されているのだ。 ※図は多変量解析の結果 (6/16) pic.twitter.com/W3lPZhQaI6

2019-06-27 17:31:55
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でもスパイがもたらしたあらゆる情報が有益だった訳ではないのだ。スパイ達から提供された情報は、シュタージ内で「どの程度有益か」という観点からランク分けがされていたのだ。この研究ではその情報ランクを使った分析もしているのだ。 (7/16) pic.twitter.com/jmXHVmbNr3

2019-06-27 17:32:51
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

更なる分析の結果、「非常に有益」とされた情報が最も効果が大きく、それ以外の情報はほぼ効果が無かったことがわかったのだ。技術的な観点から有益な少数の情報が、東西間の技術レベルのギャップの縮小に貢献していたということなのだ。 (8/16)

2019-06-27 17:35:05
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらに、スパイの情報の効果が大きかったのは、元々西ドイツとの生産性のギャップが小さかった産業部門だったのだ。つまり、例え有益な新技術を盗み出したとしても、そもそもそれを活かすある程度の技術レベルが無ければ意味がなかったということなのだ。 (9/16)

2019-06-27 17:37:15
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらにさらに、この研究では産業スパイの情報流入と特許の関係も検証しているのだ。分析の結果、情報流入が増えると、東ドイツの各産業が特許を取得する数が減っていたことがわかったのだ。 (10/16)

2019-06-27 17:37:44
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

これは何を表しているかというと、盗んだ技術に頼りがちになり、自前で技術開発をしてイノベーション(特許)を生み出そうとしなくなっていった企業の姿勢なのだ。 東ドイツが崩壊して産業スパイがいなくなった後、こうした企業の開発力の弱さが露呈していたはずなのだ…。 (11/16) pic.twitter.com/5lqqqbF2Z1

2019-06-27 17:39:14
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