ア㊙️イさんのお尻と学ぶ東ドイツ(全10回)

最近出版された東ドイツに関する英語の実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんはドイツ史の専門家ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究の推計によれば、1989年時点での平均的な生産性の東西間のギャップは189%で、もし東ドイツが産業スパイを使っていなかったとしたら、その差は更に6%広がっていたはずなのだ。大したインパクトが無かったように感じるけど、これもやっぱり産業によって影響度合いは異なっていたのだ。 (12/16)

2019-06-27 17:41:40
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツの産業スパイが最も力を入れていたのは、図から分かるようにコンピュータ産業なのだ。同様の推計では、1989年時点の生産性ギャップは412%で、もし産業スパイがいなければ、その差は更に146%も広がっていたことになるのだ。これはかなりデカい差なのだ…。 (13/16) pic.twitter.com/N3tzqJSCSu

2019-06-27 17:42:19
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でも結局のところ、産業スパイが政策として有益だったか否かは、その費用と便益を比較しなければわからないのだ。シュタージ(の対外部門であるHVA)の1980年代後半の年間予算はおよそ1350万マルクだとされているのだ。これと便益(の推計値)を比較すればいいのだ。 (14/16)

2019-06-27 17:43:03
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究の推計では、1988年時点での産業スパイによる生産性向上でもたらされた便益は約73億マルク(!?!?)なのだ。費用-便益分析はまた別にちゃんとやる必要があるとは言え、こんなに貢献したなら産業スパイは東ドイツにとってとんでもなく有益な存在だったと言えるのだ…。 (15/16)

2019-06-27 17:44:34
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は econpapers.repec.org/paper/izaizadp… からなのだ。 データも分析(ちゃんと操作変数も使ってる)も凄いんだけど、いや…なにこのテーマ…?面白すぎるでしょ…と思わず開いた口が塞がらなかったのだ…。未出版の研究だけど、絶対良いジャーナル載るでしょ…のだ…。 (16/16)

2019-06-27 17:50:10

監視国家の負の遺産:シュタージと他者への信頼

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツの社会の隅々にまで張り巡らされていた秘密警察(シュタージ)による監視のネットワークは、社会全体を疑心暗鬼に陥らせたのだ。この監視がもたらした影響は東ドイツが崩壊した後も残り続けている、ということを明らかにした研究があるのだ。 (1/9) pic.twitter.com/iOc3BK0Sal

2019-06-28 20:45:05
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

以前にも紹介した通り、シュタージに密告を行う市民の協力者が大量に存在していたのだ。誰が協力者なのかも、どこに協力者がいるかもわからなくさせることで、少なくとも公の場では人々が反体制的な言動を行えない状況を作り出したのだ。 twitter.com/bot99795157/st… (2/9)

2019-06-28 20:46:10
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツといえば秘密警察(シュタージ)なのだ。彼らの活動を支えたのは、普通の市民による「協力」だったのだ。最低でも19万人(国民の1%以上)はいたと言われる協力者には報酬が支払われていたんだけど、その額がどう決まっていたのかを分析した研究があるのだ。 (1/12) pic.twitter.com/WtJDNT3poM

2019-06-26 13:04:25
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

市民は「誰が協力者かはわからない」状態だったけど、「監視されている」ということは察知していたのだ。それをよく表しているのが、東ドイツが崩壊した後に収集・保存・管理され、市民にも利用できるようになったシュタージの内部文書と記録への開示請求なのだ。 (3/9) pic.twitter.com/IrmkVPep8G

2019-06-28 20:48:39
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

自分は監視されていたと感じた市民ほど、シュタージの記録にアクセスしたがるはずなのだ。図からわかるように、シュタージへの協力者が多かった地域ほど内部文書への開示請求件数が多いのだ。つまり、協力者が多い地域ほど、市民は監視があることを察知していた可能性が高かったということなのだ (4/9) pic.twitter.com/dvIJB6QgMg

2019-06-28 20:50:43
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シュタージは人々にどういう影響を及ぼしたのか?この研究では、1980-88年の各地域のシュタージ協力者の密度(人口比)と、1992-2010年の社会調査(GSEPS)において旧東ドイツ地域で得られた様々な「信頼」に関連した回答を使った分析をしているのだ。旧東ドイツ内での比較というのがポイントなのだ (5/9)

2019-06-28 20:53:48
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シュタージは管轄地域が厳格に定められていて、管轄間で活動内容(協力者の数)も違っていたのだ。この研究では管轄の「境界線」に注目し、その境界線の近傍を比較したのだ。境界近傍では平均的には色々な点(例:社会経済状況)が似通っているけど、シュタージの活動内容だけが違うと考えられるのだ (6/9) pic.twitter.com/21SvTR3c8e

2019-06-28 20:58:05
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

分析の結果、シュタージ協力者がより多かった地域の人ほど、 ・知らない人は信用しない ・互酬的行動をしない(「お返し」的なことをしない) ・親しい友人の数が少ない 傾向にあることがわかったのだ。 対人的な信頼関係がシュタージのせいでぶっ壊され、それが今も続いているということなのだ… (7/9)

2019-06-28 21:00:00
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

シュタージとその協力者達のネットワークで「不信の社会」を作り出した東ドイツはまさに「監視/管理国家」の典型の1つだけど、そのネガティブな影響は長く残ってしまうというのは驚きなのだ。これが次の世代に受け継がれるかも気になる所なのだ。 (8/9) pic.twitter.com/ptegtRmRDM

2019-06-28 21:02:16
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は editorialexpress.com/cgi-bin/confer… からなのだ。他にも制度への信頼や経済活動も扱っているんだけど、未出版の研究だからこれから色々アップデートされることに期待なのだ。 それにしても、ナチスに加えて共産主義まで経験した東ドイツや東欧圏は色々ハードモード過ぎるのだ…。 (9/9)

2019-06-28 21:04:10

ベルリンの壁: 国外脱出のメカニズム

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1961年に建設された東西ドイツの分断を象徴する「ベルリンの壁」には、東側から西側への人口流出を防ぐという目的があったのだ。今回は、東ドイツ市民が国外脱出を試みるタイミングと、それに対する政府の弾圧のメカニズムを明らかにした研究を紹介するのだ。 (1/18) pic.twitter.com/z1t5zSqhTP

2019-06-30 09:46:23
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東西ドイツに分割した直後から西ドイツへの爆発的な人口の流出が起こっていたのだ。西側への移住は、政治的な自由を求めてということももちろんあったけど、無視できないのが経済的な動機なのだ。西側で得られる経済的機会を求めた移住、つまり「経済移民/経済難民」的な側面は見逃せないのだ。 (2/18) pic.twitter.com/rU7TpKYhHo

2019-06-30 09:49:05
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

例えば西ドイツへ移住した東ドイツの市民を対象に行われた1984年のサーベイでも、半数近くの人が東ドイツへの移住の理由の1つとして経済的な動機(物資不足や経済成長の見込みの悪さ)を挙げていたのだ。事実、西ドイツは常に東ドイツよりもGDPが高く、比較的豊かだったのだ。 (3/18) pic.twitter.com/dziqw85lXE

2019-06-30 09:49:38
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツの市民が「より良い職を求めて」西ドイツに脱出するなら、東ドイツの人々は西ドイツの経済状況を考慮してそのタイミングを伺うはずなのだ。この研究が注目したのは、各職業の求人状況なのだ。 (4/18) pic.twitter.com/bUnyrC5MRD

2019-06-30 09:51:26
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

仮に東ドイツで自分が現在就いている職の求人数が西ドイツの方で上がれば、移住した時にすぐに職を得られるし、生活も安定させることができるのだ。つまり、西ドイツの求人数と東ドイツからの脱出希望者の間には相関があるはずなのだ。 (5/18) pic.twitter.com/PMMlW9zL3w

2019-06-30 09:52:17
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でもそれを許さないのが東ドイツ政府なのだ。国外への人材の流出は東ドイツの労働力の流出を意味し、ひいては国力の低下に繋がるのだ。一度出国されたら東ドイツ政府に出来ることは無くなってしまうから、市民の脱出を予防する手立てを講じる必要があるのだ。 (6/18) pic.twitter.com/y5CyC8DCJo

2019-06-30 09:52:48
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

政府が取れる手段は色々あって、例えば出国に必要な書類を増やしたり、出国税を徴収したりして、出国にかかる「コスト」を上げるのだ。でも他にも人材の流出を防ぐより直接的な手があるのだ。出国する疑いがある人を事前に逮捕しちゃえばいいのだ! (7/18) pic.twitter.com/hNb2zsLIxs

2019-06-30 09:53:56
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

まとめると、東ドイツ市民は、西ドイツの経済状況から脱出するか否かを判断するのだ。でも西ドイツ経済は政府からも「見える」から、市民が脱出することは予想できるのだ。市民の国外脱出が予想できる状況での政府の最適な行動は、予防的な弾圧、即ち(出国しそうな)市民の逮捕なのだ。 (8/18) pic.twitter.com/qma9t8t0Tj

2019-06-30 09:54:43
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、1979年から88年にかけて東ドイツ内で逮捕された人のリストを利用したのだ。東ドイツは逮捕者の詳細なデータを収集・管理し、デジタル化していたのだ。なんとそのデータが東ドイツ崩壊後もちゃんと残っていたのだ! (9/18) pic.twitter.com/IwCS3xbWHy

2019-06-30 09:56:03
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