ア㊙️イさんのお尻と学ぶ東ドイツ(全10回)

最近出版された東ドイツに関する英語の実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんはドイツ史の専門家ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

まず、膨大な逮捕者のリストの中から、「違法な出国を企てた疑い」で逮捕された人と、「それに協力した疑い」で逮捕された人を特定したのだ。そこから、彼らが逮捕された日とその時点での職業のデータをまとめたのだ。 (10/18) pic.twitter.com/uxtmdhiSAH

2019-06-30 09:56:35
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツ市民が持つ経済的な動機である西ドイツの経済状況は、先述した通り、各時点における職業ごとの求人数(38種)なのだ。この職種の分類は逮捕者の職種の分類と対応しているのだ。つまり、職種ごとの各時点の経済的インセンティブの大きさの違いを捉えているのだ。 (11/18)

2019-06-30 09:57:00
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果、西ドイツで求人数が増えると、東ドイツでの(不法出国関連の)逮捕者が増加していたことがわかったのだ。推計によれば、西ドイツで求人が1000人増えると、東ドイツでの逮捕者が1人増えていたのだ。 (12/18)

2019-06-30 09:58:18
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でも当時の東ドイツの市民がみんな一様に西ドイツの経済状況を知っていたかというと、そうでもないのだ。市民が西側の情報を得る手段として注目したのが、またもやテレビなのだ。以前も紹介したように、西ドイツのテレビの受信状況は地域によって異なっていたのが重要なのだ。 (13/18) pic.twitter.com/bF9JRw4Qvb

2019-06-30 09:59:53
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらなる統計分析の結果、西ドイツのテレビが受信できる地域ほど不法出国関連の逮捕者が多いことがわかったのだ。「西ドイツのテレビを通じて西側の情報を知っている人が多い地域である」ということを「知っている」政府が、疑わしい人をバシバシ逮捕していたということなのだ。 (14/18)

2019-06-30 10:00:37
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

このテレビの効果は興味深いのだ。西ドイツのテレビが視聴可能な地域で秘密警察は密告者をより多く募る傾向にあったけど、そうした市民側の体制協力者と秘密警察の「努力」が実った結果として多くの逮捕者が出た、と考えることができるのだ。 twitter.com/bot99795157/st… (15/18)

2019-06-30 10:01:08
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツといえば秘密警察(シュタージ)なのだ。彼らの活動を支えたのは、普通の市民による「協力」だったのだ。最低でも19万人(国民の1%以上)はいたと言われる協力者には報酬が支払われていたんだけど、その額がどう決まっていたのかを分析した研究があるのだ。 (1/12) pic.twitter.com/WtJDNT3poM

2019-06-26 13:04:25
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

再び話をまとめるのだ。 「移動の自由」は基本的人権の1つなのだ。でも東ドイツのような独裁国家にとって、市民の国外脱出は「脅威」となるのだ。自分の国でしっかり隷属して働いてもらわなきゃ困るのだ。だから弾圧(逮捕)によってそれを制限する、ということなのだ。 (16/18) pic.twitter.com/kznqRRtUSh

2019-06-30 10:03:24
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でもこの論文では扱っていないけど、常に独裁者が市民の国外脱出を危険視する訳ではないと思うのだ。例えば海外に移住した家族からの国内への送金なんかは、体制にとって重要な外貨獲得手段になると思うのだ。その辺りはまた機会があれば紹介するのだ〜。 (17/18) pic.twitter.com/zFmSdzD6gK

2019-06-30 10:05:41
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は s18798.pcdn.co/8th_annual_lse… からなのだ。 またまた未出版の研究なんだけど、こういうシンプルな数理モデル(ゲーム理論も使ってる)と膨大な量の歴史的史料に基づくデータ&計量分析を組み合わせた論文、いつか書いてみたいのだ…。 (18/18)

2019-06-30 10:06:08

東ドイツの崩壊(1):テレビと抗議運動

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1989年にベルリンの壁は崩壊し、翌年には東西ドイツが統一されるんだけど、東ドイツ崩壊をもたらした原因の1つが市民による大規模なデモなのだ。そのデモが拡大した背景には西ドイツのテレビの影響があった…と言われているんだけど、実証的にはその主張に疑問符がついているのだ。 (1/19) pic.twitter.com/bj67ka018z

2019-07-04 18:15:42
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

東ドイツ末期の大規模なデモである「月曜デモ」は、ライプツィヒで始まった大衆運動で、最初は国外出国の自由化を求めていたんだけど、徐々に民主化を求める運動へと変わっていったのだ。この月曜デモをきっかけに、東ドイツ全土に抗議運動が拡大していったと言われているのだ。 (2/19) pic.twitter.com/QVKuqw1yDL

2019-07-04 18:16:08
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

そもそも何故抗議運動は「拡大」するのか?ある個人が独裁政権への抗議運動に参加するかしないかを決めるとき重要になるのは「他のみんなはどうしているか?」なのだ。他者の行動は、ある個人が抗議運動への参加/不参加から生じる物理的/心理的コストに影響を与えるのだ。 (3/19)

2019-07-04 18:16:25
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

抗議運動に参加する物理的なコストは弾圧なのだ。デモに参加したら独裁政権に殺害される可能性があるのだ。でももし抗議運動が大きければ、体制側は参加者全員を殺すことは出来ないのだ。つまり、デモが大きくなればなるほど自分が殺される確率は小さくなる=物理的なコストは低くなるのだ。 (4/19)

2019-07-04 18:16:42
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

一方で、抗議運動に参加「しない」ことで生じるコストもあるのだ。独裁政権下では「本当は自分が何を考えているか」は公に出来ないのだ。つまり人々は「公にする考え(公的選好)」と「公に出来ない考え(私的選好)」の2つを持つことになるのだ。 (5/19)

2019-07-04 18:17:01
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

公的/私的選好の間のギャップは、心理的な負荷になるのだ。本当は自分も政府に対して声をあげたい(私的選好)のに、抗議運動に参加しないと(公的選好)、自分に嘘をつく事になるのだ。抗議運動が大きくなるほどこのギャップも広がっていくのだ。これが抗議運動不参加の心理的コストなのだ (6/19)

2019-07-04 18:17:31
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この心理的コストが物理的コストを上回った時、その個人は抗議運動に参加するのだ。つまり、抗議に参加するかしないかを決める個々人それぞれの「閾値」があるということなのだ。これらのコストと閾値は、基本的には外からは観察できない主観的なもので、人によっても違うというのが重要なのだ (7/19)

2019-07-04 18:17:57
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

抗議運動が大きくなるにつれて、不参加の心理的コストが増大する一方で、参加の物理的コストは減少するのだ。参加の閾値を超えた人が抗議に参加していくことで、抗議はさらに拡大していき、その他の人も自分の閾値を超えた結果として参加するようになり…と、雪だるま式に抗議が拡大するのだ (8/19)

2019-07-04 18:18:27
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、閾値は既にデモに参加している人数の関数と考えることができるのだ。その人にとって(=主観的には)自分が参加するのに充分な数の参加者数、それが閾値になるのだ。そして、抗議運動が拡大するか否かを決めるのは、この「参加の閾値」がどう分布しているかなのだ。 (9/19) pic.twitter.com/SZE18kLUth

2019-07-04 18:19:05
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

例えば右(赤線)のような分布をしていれば、参加者が増える前に体制は抗議運動を叩き潰すことができるけど、左(青線)のような図の場合、すぐに大規模になって体制にはコントロール不可能になるのだ。 (10/19) pic.twitter.com/GhR4hKNkh1

2019-07-04 18:20:03
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でも、この「参加の閾値の分布」は体制側も市民の側も知ることは出来ないのだ。閾値は個人それぞれの主観的なもので、誰も「あと◯人増えたら自分も参加する」なんて言わないのだ。大衆革命は後から見たら起こって当然なのに、事前の予測が難しい原因はここにあるのだ。 (11/19)

2019-07-04 18:20:28
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ここでようやくテレビの話になるのだ。1989年9月から大規模化したライプツィヒの「月曜デモ」は、東ドイツのテレビでは全く報道しなかったのだ。「多くの人が抗議運動に参加している」という体制にとって危険な情報を流す訳がないから当たり前なのだ。 (12/19) pic.twitter.com/ZA73Tsc3Os

2019-07-04 18:21:09
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

その一方で、西ドイツのテレビではこれを大きく取り上げていたのだ。この情報を得ることで、市民がそれぞれ抱く主観的な心理的/物理的コストがアップデートされ、閾値を超えた人々が参加していき、やがて革命に至った…ということが良く言われているのだ。 (13/19) pic.twitter.com/GdEJ2WSURB

2019-07-04 18:23:14
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

当時のテレビ関係者もその影響力を認めているのだ。例えば、ベルリンの壁崩壊の1週間前に、東ドイツのプロパガンダニュース番組だった「黒いチャンネル」は突如最終回を迎えたのだ。東ドイツのテレビが西ドイツのテレビとの戦いに敗北したことを象徴する出来事なのだ。 (14/19) pic.twitter.com/CnnnyOFJ2q

2019-07-04 18:23:57
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でも本当に西ドイツのテレビは影響していたのか?この研究では、当時の西ドイツのテレビの受信状況と、1989年9月(最初の大規模な月曜デモ)から1990年3月(東ドイツでの57年ぶりとなる自由選挙実施)までの東ドイツ各地の抗議運動の発生の関係を統計的に検証したのだ。 (15/19) pic.twitter.com/a5DaBcFWDm

2019-07-04 18:24:37
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