ア㊙️イさんのお尻と学ぶ東ドイツ(全10回)

最近出版された東ドイツに関する英語の実証論文の中から、「これは…!」と感じたものをまとめたのだ。大量に出版されている研究の中のごく一部でしかないから、今後追加する可能性があるのだ。 史実に関する部分での誤りがあるかもしれないのだ。お尻さんはドイツ史の専門家ではないから、あまり鵜呑みにしないことをオススメするのだ!
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

統計分析の結果、西ドイツのテレビが視聴できる地域ほど抗議運動が多く発生していた…という関係は見られなかったのだ。どう分布しても、西ドイツのテレビは抗議運動を直接増やしたと言えるような結果は得られなかったのだ…。 (16/19)

2019-07-04 18:25:04
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

じゃあ何故あそこまで抗議運動が拡大したのか?筆者たちが言うように、やっぱり重要だったのは個人的なネットワークだと思うのだ。「知らない誰か」よりも「家族、友人、ご近所さん」が参加しているという情報の方が、インパクトは大きいと思うのだ。 (17/19)

2019-07-04 18:27:12
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でも西ドイツのテレビが全く影響しなかった、とまでは言えないのだ。この研究では分析されていないけど、大規模な国外脱出も東ドイツ崩壊の原因の1つで、その脱出にテレビが影響を与えた可能性はあると思うのだ。パパッと分析できるはずだから卒論や修論におススメのテーマなのだ! (18/19) pic.twitter.com/C5x1mYABCK

2019-07-04 18:28:01
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今回の話は doi.org/10.1177%2F0022… からなのだ。 実はこの論文の前に、「効果はあった/無かった」でそれぞれ一本ずつ実証論文が出されていて、この論文はそれらの実証的な課題を解決した形になっているのだ。「効果あった」派からの反論が待たれるのだ〜! (19/19)

2019-07-04 18:28:35

東ドイツの崩壊(2):国外脱出者と抗議運動

ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

市民による大規模な抗議運動(というかほぼ革命)によって東ドイツは崩壊した訳だけど、それまで強固な安定性を見せていた東ドイツでなぜそこまで急にデモが拡大したのか?その原因の1つとして挙げられているのが、国外脱出者の存在なのだ。 (1/21) pic.twitter.com/fo6rwcU5Rk

2019-07-05 19:55:06
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

革命のきっかけとなった「月曜デモ」が発生する1989年9月より以前から、西ドイツに脱出しようとする東ドイツ市民が大量に発生していたのだ。東ドイツ政府はそれをコントロールしようとしたんだけど、既に周辺国で始まっていた「東欧革命」によりその試みは失敗するのだ。 (2/21) pic.twitter.com/jQxH0lXFBd

2019-07-05 19:55:34
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ハンガリーは民主化への途上であった1989年5月にオーストリア国境の鉄条網(「鉄のカーテン」)を撤去したのだ。その結果、チェコスロバキア→ハンガリー→オーストリア経由で西ドイツに入ろうとした大量の東ドイツ市民が発生したのだ。 (3/21) pic.twitter.com/Da7TL853Ia

2019-07-05 19:56:15
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

西ドイツへの移動は厳しく制限されていたんだけど、ハンガリーへは旅行の許可が下りる可能性が高かったのだ。チェコスロバキアとハンガリーに「夏季休暇」の名目で東ドイツ市民が流入したんだけど、オーストリアに入るにはハンガリーのパスポートも必要だということは皆知らなかったのだ。 (4/21) pic.twitter.com/20YwtGR8gJ

2019-07-05 19:58:19
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

結果としてハンガリーに大量の東ドイツ人滞留者が生じたんだけど、そこに風穴をぶち開けたのが旧オーストリア=ハンガリー帝国最後の皇太子、オットー・フォン・ハプスブルクなのだ。彼をもてなす夕食会で大ウケした冗談だった「ピクニック」がまさかの実現を見るのだ。 (5/21) pic.twitter.com/jcAKo9UCns

2019-07-05 19:59:09
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

「ピクニック」には、鉄のカーテン撤去を祝し、両国の国境地帯でバーベキュー・パーティを開催し、オーストリアとハンガリーという東西両国が交流を行うことで、ハンガリーが共産圏から脱したことをアピールする目的があったんだけど、裏の目的は東ドイツ市民脱出の手助けだったのだ。 (6/21) pic.twitter.com/vsUBgTb48L

2019-07-05 19:59:54
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

こうして1989年8月19日に「汎ヨーロッパ・ピクニック」が開催されたのだ。祭典の裏側で、ハンガリーが用意した東ドイツ市民満載のバスが到着し、オーストリアにダッシュで入国、今度は西ドイツがチャーターしたバスに乗り、オーストリアへと無事に入国していったのだ。 (7/21) pic.twitter.com/zTSwViNY6f

2019-07-05 20:00:24
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この「ピクニック事件」により600人以上の東ドイツ市民が国境を越えることに成功したのだ。ハンガリーはここで止まることはなく、9月に国境を全面開放し、大量の東ドイツ市民がオーストリア経由で西ドイツに脱出していったのだ。 (8/21) pic.twitter.com/87Sy1xL2wf

2019-07-05 20:00:50
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

もちろん東ドイツ政府は激おこで、10月3日にチェコスロバキアとの国境を封鎖、市民の東欧経由での脱出は不可能となってしまったのだ。それにさらにキレたのが東ドイツ市民で、既に始まっていたデモが激化し、18日には東ドイツ首相のホーネッカーが辞任することになるのだ。 (9/21) pic.twitter.com/QUdp2TTRqQ

2019-07-05 20:01:16
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

こうした市民の国外脱出は、独裁政権の文脈では強力な「シグナル」になるのだ。言論の自由が無ければ、市民はお互いに何を考えているのかわからないのだ。その結果として、「多数の無知」とも呼ばれる状況に陥るのだ。 (10/21)

2019-07-05 20:01:35
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

「自分は体制を支持していないけど、周りのみんなが黙っているということは、彼らはきっと体制を支持しているんだろう。だから自分も従おう」とみんなが考える状況、それが「多数の無知」なのだ。この状況が崩れれば、政府に対して声を上げる人が出てくるはずなのだ。 (11/21)

2019-07-05 20:02:37
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

そこで重要になるのが国外脱出なのだ。市民の亡命は、いわば「足による意志表明」で、政府に反対しているという姿勢を周囲に明確に示すことになるのだ。もし国外脱出する人がたくさんいれば、国に残った市民はどう思うか? (12/21)

2019-07-05 20:03:29
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

「自分以外にも政府に反対している人がたくさんいる!」そう思うはずなのだ。大量の国外脱出は反体制派がたくさんいること、即ち体制の脆弱性の「シグナル」になるのだ。反対しているのが自分だけでは無いとわかった市民は、政府への抗議を始めていくのだ。 (13/21)

2019-07-05 20:04:49
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ここから「国外脱出者が増えれば政府への抗議運動も激化する」という関係が見出されるんだけど、この論文の面白いところは、その先を考えたことなのだ。脱出者があまりに増えすぎると、今度は抗議運動が少なくなるかもしれないのだ。 (14/21) pic.twitter.com/xjM3ByCGqL

2019-07-05 20:05:24
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

今までも何回か言っているけど、デモへの動員に必要なのは「ネットワーク」なのだ。脱出をする人、つまり政府に反対する考えを持っている人は、もし脱出しなければデモのネットワークを繋げる役割だった人かもしれないのだ。彼らがいなければ、デモに動員される人は少なくなってしまうのだ。 (15/21)

2019-07-05 20:05:52
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、ある点までは国外脱出者の増加は「体制の脆弱性のシグナル」としての役割を果たすんだけど、ある点を越えると、「デモのネットワーク」の形成を阻害してしまうという「逆U字型」の関係が見出されるのだ。 (16/21) pic.twitter.com/jpA3nDilO7

2019-07-05 20:06:19
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、1989年1月から8月までの東ドイツ各地域の国外脱出者の数と、1989年9月から1990年3月までの抗議行動の発生に関するデータを集め、統計的な検証を行ったのだ。 (17/21) pic.twitter.com/CLzs6mXhMJ

2019-07-05 20:09:31
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

分析の結果、 ・国外脱出者の数が多い地域では、抗議行動(発生件数&参加人数)が多くなる ・一定数よりも国外脱出者が多い地域では、抗議行動(同上)が少なくなる ということが明らかになったのだ。図からわかるように、ちゃんと逆U字っぽいのだ! (18/21) pic.twitter.com/Iw0IIaqlm0

2019-07-05 20:10:04
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ただ、筆者たちも認めるように、この分析では「抗議行動が起こる直前」の国外脱出者のデータ(8月まで)を使ったからといって、抗議行動(9月以後)に与えた因果効果をキチンと推定できているわけはないのだ。内生性の問題をクリアしているかは微妙なところで、相関関係に近いとも考えられるのだ。 (19/21)

2019-07-05 20:12:02
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

それに、抗議行動発生中の国外脱出者のデータを使わないのはもったいないのだ!抗議行動が国外脱出を促進することもあるはずなのだ。 やっぱりコントロール変数以外にもうちょいカチッとした因果推論をして欲しかったけど、例え相関でもなかなか面白い研究だと思うのだ! (20/21)

2019-07-05 20:12:50
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