文房具屋の孫がいろいろあってお屋敷のお坊ちゃまになるやつ

終わりじゃ。
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帽子男 @alkali_acid

だが老年と青年はいきなり互いににやっとしただけだった。 大人の世界はよく解らない。そうこうしているうちに文房具が届いた。 ドローン宅配便から投下された。 でかい箱に入って。 「…だから文房具て」 「ナヤばあさんの取引先か」 「うん…」 「使い方は知っとるんか」 「教わった」

2019-08-14 21:11:45
帽子男 @alkali_acid

ジョウは荷ほどきしながらタツを安心させるように言う。 「ちょっと忘れてたけど、思い出した」 「無茶はするなよ。お前は喧嘩とか揉め事には向いとらん」 「うん…向いてない…」 「やはりアイとワシに任せてお前は船小屋で待っとらんか」 「向いてないけど…」

2019-08-14 21:13:43
帽子男 @alkali_acid

「やらないと…いけないときもあるから…ららら」 だいぶ汗をかいてきょどりながら坊ちゃまはそう老僕に応え、チャラ執事を振り返る。 「ほんとに…ぜったい…ふくじゅう、する?」 「おう」 「ほんとに?」 「しつけえって」 「…あのさ、アイさんがさ…すごく、誰かに…嫌われたり」

2019-08-14 21:16:00
帽子男 @alkali_acid

「怒られたりするやつでも…する?」 「んなのお前が命令しなくてもなってんだよ」 「すごく…嫌われたら…悲しい相手でも?」 「どんなのだよ」 「かっこいいひと」 「はあ?」 「かっこよくて、かわいいひと」 「はあ?」 「世界で一番かっこよくて、かわいいひとに嫌われてもいい?」 「…」

2019-08-14 21:17:22
帽子男 @alkali_acid

チャラ男は櫛を出して髪を直しながらあくびをする。 「いいって。つかどんだけだよ」 「…ありがと」

2019-08-14 21:18:20
帽子男 @alkali_acid

少年はほうっと溜息をつく。 「アイさんがいてよかった」 「当たり前じゃん」 「あとおじいちゃんも」 「ワシはついでか」 「だって…あ、アイス食べたい」 「ボートの冷蔵庫に入っとるぞ。キャラメルのやつな!」 「俺ももらうわ」 「あつかましいやつじゃな」

2019-08-14 21:20:08
帽子男 @alkali_acid

そんなこんなで準備は整った。 お屋敷への住居不法侵入、強盗、誘拐、障害、器物損壊そのほかのね。 警察沙汰じゃんと思うでしょ。 でも世の中おかしな文房具屋がいるように、おかしなお屋敷もある。 そこは財団という大金持ちの財産を管理する団体が所有していて、事実上、法律の外にある。

2019-08-14 21:22:03
帽子男 @alkali_acid

一定のルールを守っている限り、大金持ちの子弟はそういうお屋敷で使用人に命じて好き勝手に騒いでも捕まらないのだ。 ジョウもそういう子弟のひとり。相続順位百七十六位と大変したっぱの方ではあるのだが。

2019-08-14 21:24:01
帽子男 @alkali_acid

んで、ジョウ達が文房具をもって向かったお屋敷にはケイという銀髪赤目白膚の美少年が住んでいて、相続順位は九位と高い。ほかに双子の男の娘メイドのチイとミイ、褐色巨女の料理人マリ、夏でもタイトな黒スーツでピシっとしてるけど脱ぐと巨乳の女執事レンがいる。

2019-08-14 21:26:02
帽子男 @alkali_acid

情報量が多い。 でももっと話をすると、執事のレンは屋敷の警備と管理を預かっていたが、いろいろあって今は主人のケイの側仕え、というか半分幽閉。屋敷の奥から出るのを禁じられ、外からの連絡も受けられないし、籠の鳥だ。

2019-08-14 21:28:22
帽子男 @alkali_acid

もとは掃除などをやっていたメイドのチイとミイが仕方なくレンの業務を引き継いでいるが、あまりうまくいってない。マリはあれこれ気を揉みながらおいしい料理を作っている。

2019-08-14 21:28:47
帽子男 @alkali_acid

さてそこへ使者がやってきた。 手紙を携えて。 古風にも郵便ドローンなど介さず持参である。 内容はというと次のようなものだ。

2019-08-14 21:30:59
帽子男 @alkali_acid

「私は以前そちらのお屋敷に住んでいたものですが、しばらく心身の調子を崩して屋敷を人手に委ね、転地療養をしていました。すっかり良くなりましたが、屋敷がなつかしく、またなじみの使用人の顔が見たく、ぜひ訪問をお許しいただけないでしょうか」

2019-08-14 21:31:57
帽子男 @alkali_acid

上等のインクと便箋で、もっときちんとした言葉で、達筆に綴ってある。 署名はジョウのもの。文房具屋の孫なので書きものはちゃんと仕込まれている。 「んで?いつ返事もらえんすか?」 ガムを噛みながら、スーツのズボンに手をつっこんで使者は尋ねる。

2019-08-14 21:33:43
帽子男 @alkali_acid

「かなかな?いい度胸かな?」 「でしょでしょ!つきまとったら殺すって言ったでしょ」 ふしょうぶしょうチャラ執事を屋敷に迎え入れた男の娘メイドは、殺気立ってそう脅しつける。 「俺いちおう正式な使者?ってやつだけど?そういう態度とんのへー…」

2019-08-14 21:36:32
帽子男 @alkali_acid

「調子に乗るんじゃないでしょ!平民の分際で!」 「痛い目みたりないかな?」 「今はお前等と同じ使用人てやつなんだけど。あと」 アイはすっと指を伸ばして、ミイの顎をはじく。 「お前も調子に乗んなよ?」 ぞくっと女装少年は総毛だって、片割れにしがみつく。 「で、でしょ…」 「かな?」

2019-08-14 21:40:11
帽子男 @alkali_acid

目の前にいるのが獰猛で敏捷な雄犬であることに初めて気づいた小鼠のように、二人はあとずさった。 「わ、若様のようすを見てくるでしょ」 「そこから逃げようと思わない方がいいかな」 警備機械の類が見張っている。

2019-08-14 21:41:48
帽子男 @alkali_acid

男の娘メイド達が逃げ出すと、チャラ執事はあくびをしてガムをふくらます。いちおうボディチェックは済んでいて、完全に徒手空拳。厳しい監視のせいで外部と連絡もとれない。 「…大当たりかよ」 不意に退屈そうな顔がうざそうにこわばる。 「ジョウの好きな女子って…まあそっか」

2019-08-14 21:46:33
帽子男 @alkali_acid

少年がうれしそうに話す人物像、とどめにレンという名前を聞いて、もう疑いようはなかったが。 「悪ぃけど…レンさんは譲れねえよ」 青年の方は本当の関係を打ち明けなかった。知らんぷりをして計画に乗り、屋敷までやってきた。

2019-08-14 21:52:07
帽子男 @alkali_acid

「かなかな!若様がお会いになるかな!」 「でしょでしょ!直接お返事されるでしょ!」 チャラ執事は肩をすくめて、戻ってきた男の娘メイド達の案内に従う。 うわべはヘラヘラした態度を保ちつつ。

2019-08-14 21:53:43
帽子男 @alkali_acid

アルビノの主人は中庭で使者を迎えた。 傍らにはオールバックにタイトな黒スーツのキッチリ執事が立っている。 無表情。眼鏡だけはかけていない。かわりに可憐なリボンタイをつけている。 「…やっぱりね」 ケイは微笑んだ。甘い表情で。 「君は懲りないと思ってた。アイ」

2019-08-14 21:56:21
帽子男 @alkali_acid

「一回殴られたぐらいで女あきらめる訳ねーじゃん」 「何回ならいいのかな?…それとも死ななきゃだめ?」 アイは軽そうに笑ってから向き直る。 「死なねーし…レンさん。帰るぞ」 「この程度でレンが引き抜けるはずないでしょ。君が丸め込んだ相続権者は三流だ。使用人にとって魅力なんかない」

2019-08-14 21:59:53
帽子男 @alkali_acid

チャラ執事は、鬼畜少年の言葉の選び方にかすかに眉をひそめた。 「こっちの主人のこと、すか」 「くだらない話をするなら叩き出すから」 微妙に誰なのかを避けている。横にはべるキッチリ執事に聞かせたくないらしい。

2019-08-14 22:02:35
帽子男 @alkali_acid

「別にこっちもその話する気はねえけど…ちょっとだけレンさんと話させてくんね?」 「…好きにしなよ」 アイが持ち掛けると、圧倒的自信でケイが応じる。

2019-08-14 22:06:23
帽子男 @alkali_acid

白スーツの青年が、黒スーツの女に向き直る。 「レンさん…殴られてから考えたんすけど…レンさんは俺のこと…心配してたんすよね?」 「…」 「このイカレ…じゃなくて変わったお子様とか、お屋敷にいるような金持ちのイザコザに巻き込んだら、俺がヤバいって」 「…」 「けど」

2019-08-14 22:08:25
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