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前回の話
以下続き
今日は文房具屋の話をします。 皆さんにとって文房具屋さんはどんなイメージですか 私は普通の鉛筆、消しゴムノート、ハサミ、ホチキス、ノリとかのほかにシャボン玉作るやつとか、いい匂いのするちっちゃい玉とか、変なものが色々あって楽しい場所でした。ほぼ買えなかったが。
2019-08-14 20:26:46今どきの子はマステとか手帳に貼るシールとかのかわいいやつとかを買うんかね。 最近は通販の文房具も充実してきて、海外の超かっこいいかわいいやつも簡単に手に入るし、専門サイトとかもいっぱいあってすごいね。
2019-08-14 20:27:45ほんと色んな文房具がある。 お客の好みもうるさくなってるけど、さすがに町のお店だと全部は陳列しきれないし、在庫がないやつに注文が来たら取り寄せやね。だからそういうお店の人がむしろ品物の仕入れに専門サイト使ってたりする。
2019-08-14 20:29:50文房具屋の孫とかも小さい頃からそういう専門サイトのぞいてカタログ開いて、ほへーとか言ってる訳。 店主のおばあちゃんのお気に入りは兎のマークのところ。 「なにがいいの?」 「つきあいが長いんだよ」 「へー。長いとなにがいいの?」 「なにって、いろいろ無茶もきいてくれるし」
2019-08-14 20:31:40親代わりの祖母は孫に言ってきかせる。 「あんたも一応注文の仕方覚えときなよ。でも変なもん頼むんじゃないよ」 「たのまない」 「組み立て紙飛行機セットはだめだよ。玩具屋じゃないんだから」 「…たの…まない」 「大丈夫かねえ」
2019-08-14 20:33:35あれから何年か経ち、おばあちゃんは亡くなり、お店も潰れて、 孫のジョウもちょっと頭の具合が悪くなり、病院に通いながら、親戚だかなんだかをたらいまわしになった。 でも兎のマークの文房具通販は、インターネットの向こうでまだ元気でやってる。
2019-08-14 20:37:49ひさしぶりにのぞいて、連絡先にメッセージを送る。 合言葉を添えて。 すると映像通話がかかってくる。 お得意さんにはそうやって対応するようだ。 "こんにちわ!兎の文具屋です" 「こんにちわ」 少年は氏名を名乗った。念のため、今は正式には使っていない祖母の姓で。 "ナヤさんのお孫さん?"
2019-08-14 20:40:03祖母の名前だ。 「は、はい」 "おやそうですか。どういったご注文ですか" 「…えっと、特別…お得セットを下さい」 "特別お得セット?まさかジョウさんがお使いになるのですか。あれは使い方を間違えると怪我をする大人用の文具ばかりですが" 「あ、う…使い方…知ってます…大人と一緒に使います」
2019-08-14 20:42:46"承知しました。ただちにお送りします" 「あ、あと…だ、誰にも、知られたくないんですけど」 "もちろんです。当店は秘密厳守。財団に対してもお客様を守ります" 「よかった…花火…ありますか」 "花火ですか?いちおう揃えておりますが…" 「あの、ちょっと…変わってる…忍者が…ドロン!ってやつ」
2019-08-14 20:45:45"煙玉ですね。そちらを用意しておきます。注意点はご存じですね。点火している最中は近くでスマホの利用に影響が出たり" 「はい」 "ほかに何か" 「きれいな…花火もください」 "きれいな?" 「おとなの…女のひとが…すごいってなるやつ」 "承知しました" 「ありがとう。あ、おかね」
2019-08-14 20:47:50"お代は今回は結構です" 「へ?はぇ?」 "いつか、お孫さんから連絡があったら希望の品を送るよう、ナヤさんから言いつかっていますから" 「…おばあちゃんが?」 "ええ。では兎の文具屋にお任せあれ"
2019-08-14 20:49:29通話が切れる。 少年はほうっと溜息をつく。そばで頬杖をついた青年。 「文房具なんか買ってどうすんの?」 「あと花火」 「花火なんてその辺で売ってんじゃね?夏だし」 「きれいな花火、ほしいから」 ジョウが告げると、アイは首をかしげる。 「女子よろこばすのに?」 「…っ…っ…ぅ」
2019-08-14 20:51:22「また照れてんの?しゃきっとしねえな“ご主人様”はよ」 笑い声とともに、シルバーアクセをはめた大人の手が伸びて子供の髪を撫でる。 「うう」 年嵩の方は白いスーツをまとったホスト、いや執事か一応。年下の方はなんか特にどうということのないちび、だが主人。
2019-08-14 20:53:54「…で、そのじじいってのはいつ来んだ」 「もうすぐ」 「んとに来んの?金持ちの屋敷にかちこむの、じじいには無理じゃね?」 「来た」 地響き。どでかいトレーラーが近づいてくる。後部に船を曳いて。 「なん…だありゃ…」
2019-08-14 20:55:19運転席から、パイプをくわえたムキムキのおじいさんが顔を出す。 「ジョウ!いやご主人様!待たせたわい…んん?そいつが新しい使用人か?チャラそうな若造じゃな!」 「…あ?ボケてんなら免許返納しろよ」 「あわ!わ!わ!」 青年と老年が会って早々始めた喧嘩に慌てて割って入る子供。
2019-08-14 20:57:46「アイ。このひとがおじいちゃん。タツおじいちゃん。タツおじいちゃん、このひとがアイ」 「ボケてんおに役に立つのか?」 「口の減らんやつじゃな。ちょっと揉んだるか」
2019-08-14 20:59:36だめそう。 でもどうにかとりなして、皆でトレーラーに乗り込む。 ドアを締めながら、肌を焼いて髪を染めたチャラ男は、海の男めいたじいさんに尋ねる。 「そんで?俺は誰ボコりゃいい訳?」 「ふん!チャラい上に阿呆と来る。まず使用人、それも執事になる意味が解っとるのか」
2019-08-14 21:01:55「ジョウの子守じゃね」 「ぜんぜん違うわ!使用人は仕える主人に絶対服従。どんな命令にも従うんじゃぞ!その覚悟があるか!」 「…ねえけど?」 「かー!こいつ叩き出していいかのジョウ」 幼い主人はあわてて首を横に振る。 「…え…だめ…」
2019-08-14 21:04:05「そんないい加減な気持ちならおらん方がましじゃ。お屋敷の相続争いでは主人のために使用人同士が武器をとって戦うこともある。いざというときに覚悟がない平民ならおらん方がましじゃ」 「…あっそ」 「降りるか?自力で帰れるじゃろうな」 「覚悟、してやんよ」
2019-08-14 21:05:50「使用人てのにならねーと…だめっつーなら、ジョウ、お前に絶対服従するわ」 チャラ男が坊ちゃまをまっすぐに見やる。 少年は青年を見上げる。 「わかった」 「クソみてえな命令はなるたけやめろな」 「しない」 「ほんとかよ?なんか言ってみ?」 「え…おじいちゃんと仲良くして」 「クソじゃん」
2019-08-14 21:08:23ジョウとアイは契約書かわした。 タツの立ち合いのもとで。 「契約に背くことがあったら、ワシがお前に仕置きを加えるぞ、チャラいの」 「アイだ。ボケジジイ」 「タツだ」 「あっそ」 また揉めそうになるのを少年がはわーっと見守る。
2019-08-14 21:09:58