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少年は少女を観察してから頭を掻く。 何かイメージと違う。記憶をたどりなが尋ねる。 「文房具屋のヤナおばあちゃんて知ってる?」 「知るはずないだろ!」 「…ほんと?」 「死ね!」 「あの、ジョアナ、リクって知ってる?」 「ジョアナ?昔に相続権を放棄した一族の女だろ確か火事で死んだ」
2019-08-14 23:32:41![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ジョウは心配そうに横たわる執事達をうかがってから、安定して呼吸はしているのに気づいて、とりあえずケイに向き直る。 「…あの…レンさんをいじめるのやめて」 「…レンが僕のものにならないから」 「やめて」 「…壊してやる」 「やめて…」 「…っ死ね」
2019-08-14 23:37:04![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
少年は難しい顔になる。 「う…うー…あ、あのさ。双子のひとたち」 「チイとミイがどうした」 「あっちにいる」 「役立たず!」 「あのままだと…………死ぬ」 適当なことを言った。
2019-08-14 23:38:30![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「死?…ばかばかしい」 「毒…めっちゃ毒」 「嘘つき。君にそんなこと」 「毒で死ぬ。ずっとそっちのこと呼んでた」 「黙れ!」 「助けないと死ぬ」 「信じない!」 「死んじゃうよ」 「別にいい!」
2019-08-14 23:40:06![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
だがジョウがだめもとで指さすと、ケイはそちらを一瞥し、立ち上がった。 「…後ろから…あの武器を使うつもり?」 「???あ、スーパーボール?もうないけど」 「ふん」 少女は駆け去ろうとし、ちらりと男装の麗人とチャラ男に目を落とす。 「僕まちがってない。負けてない。諦めた…訳じゃない」
2019-08-14 23:42:08![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
やっと厄介払いが済むと、ぺたっと尻もちをつく少年。 「つか…れた…」 あちこち転校したけどどの学校にもあそこまでめんどくさい女子はいなかった。 「…あー…アイス食べたい…」 もう食べたでしょ。
2019-08-14 23:43:34![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
救急車を呼ぼうとするが、まだ電波障害が続いている。 どうも煙玉花火のせいで通信設備がだめになったみたい。 「困った」 困った困った。 でも執事が起きる。片方だけ。黒スーツの方。
2019-08-14 23:44:29![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「…レンさん」 どきっとして芝生の上で正座するジョウ。 「怪我は!?救急車呼ぶ?あ…だめだ」 「…」 へいきですというそぶりをするレン。
2019-08-14 23:46:01![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ほんとに?」 「…」 「じゃあ…今はいい」 「…」 「あ、僕、なんか病気でよそいってたけど、てんちりょうほう?して、そんでね。変なお医者さんで治ったっぽい。そんでね。レンさん心配してると思って来たけど」
2019-08-14 23:48:36![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ケイ達は屋敷をひとまず退去した。 男の娘メイドのチイとミイ、それになんと料理人のマリもついていった。 「…そう何度も主人をのりかえらんないよ」 と言ってたけど、双子がしがみついて一緒に来てって頼んだせいが大きい。
2019-08-14 23:51:56![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
黒執事と白執事はどちらも後遺症もない感じでピンピンしている。 財団の病院はなんか怖いので、闇医者を呼んで診察させた。 「心療内科医なんだけどねえ…」 と言いながら一通りの検査はしてくれた。 おじいちゃんは大丈夫そうだと解ると、医者を送りがてらボートとトレーラーを戻しに船小屋へ。
2019-08-14 23:54:27![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ジョウ。使用人を連れてお前も一緒に海に来んか。屋敷は当分警備もまともに動かんだろ。その方が安全だ」 「うーん…もうちょっとこっちにいる。あとレンさんがいれば大丈夫」 という感じでな。
2019-08-14 23:56:02![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
レンさんはアイの看病をしながら、めちゃくちゃになった屋敷の片づけにと忙しい。アイはもう起きて帰れるっぽいけど屋敷でベッドに寝ながらあーんてご飯食べさせてもらえるのが楽しいのか 「わり…まだちょっとビリビリってやつがよ」 みたいなこと言ってる。ジョウは特に疑わず 「だいじょうぶ?」
2019-08-14 23:57:26![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
なんせ巻き込んだ側だからね。 花火はした。夜にね。もうそんなに派手じゃないやつ。 三人で。 「なんか…よかった…」 ほっとしながら坊ちゃまは言う。 眼鏡をチャキっと直す黒執事。あくびする白執事。
2019-08-14 23:59:29![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
庭は荒れてるけど、坊ちゃまが通学とかに使ってるかっこいい自転車は止めてあるし、かっこいい車もあるし、だいたい元通りかな。 「…レンさん…あの…話したいことがあるんだけど」 「俺ちっとトイレ行ってくるわ」 急に雰囲気のないことを言うチャラ執事、無言でにらむカッチリ執事。
2019-08-15 00:01:35![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
だがぜんぜん意に介さず手を振って遠ざかる細身の青年。 むっつり背を眺めやる男装の麗人。背の低い少年はぼうっとしてから消えゆく最後の花火を見送る。 「僕、記憶喪失だった」 「…」 「だった。でも思い出した。お父さんとお母さんがなんでいないのか」 「…」 「おばあちゃんも」
2019-08-15 00:03:32![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「レンさんもなんか…なったらやだなって、会いにきた」 「…」 「でも生きててよかった」 「…」 「ケイってひとはたぶんちがう…」
2019-08-15 00:04:54![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ぼんやりジョウは宙をあおぐ。 「おとうさんとかおかあさんとか殺したひとと」 「…」 「おばあちゃんを殺したひとともちがう」 「…」 「た、たぶん、ほんとは僕、殺そうとしたかも」 「…私が、命にかえてもお守りします」 「うん。そう…うん」
2019-08-15 00:07:55![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
少年はうつむく。 「あのね…自転車で…墓参りしにいったじゃん」 「…」 「あのときね、なんか、ここにいて、レンさんに嫌われたら、困るなって、それで、いったんだけど…でもちがくて…えーと…」 「…」 「ほんとは、ここにいてレンさんのこと、好きになったらだめだなってことだったかも」
2019-08-15 00:10:26![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
じっとジョウは考え込む。 「…おじいちゃんも、なんか…一緒にいたら、好きになったし…だめっぽい…一緒にいると、みんな好きになっちゃうのかな」 「…」 「アイさんもだし…なんか…むずかしいね」
2019-08-15 00:12:16![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「なんか、レンさんのことは…おとうさんよりも、おかあさんよりも、おばあちゃんよりも…好きだし」 坊ちゃまは頭を上げて、執事をうかがい見る。 「一緒にいなくてもかな…わかんない」 「…」
2019-08-15 00:15:57![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「でも、一緒にいると死んじゃうと、困るし…」 「…」 「やっぱいくね」 いきなりジョウはぽいっと煙玉花火を投げた。 濛々とたちこめるとばりの中を、自転車に向かって駆けてゆく。 もうGPSなんとかとビーコンは外してもらってある。 だから今度は問題なし。
2019-08-15 00:17:02![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
乗り物まであと少しのところで、ジョウの手首をレンがとらえ、引き戻す。 「…いだだだ!?」 「…」 「ちょ!いだ!め、命令!離して」 「…」 「いだっ、いだぃ?!」
2019-08-15 00:18:53![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ジャミング煙幕の中でも過たず標的をとらえる。 眼鏡パワーだ。 「…私がお守りします」 「…いい!いいから!いだっ…ぷぎぃ」 のそのそと影がもう一つ近づいてくる。 「何遊んでんの」 チャラ男である。ほんとにトイレ行ってたらしい。
2019-08-15 00:20:57