ぱすイカ二次創作⑰

涙の数だけ強くなれるよ アスファルトを裂いていけ 書いたもの https://t.co/lk71qxBACg
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感情がめちゃくちゃ @pascal_syan

「あんたも、来たんだろ?『あそこ』から」 トーエイは下を指さした。 「……はい」 「いつ来た?」 「5年ほど前からです。あなたは?」 「ふふーん、聞いて驚くなよ」 まさか、古株なのだろうか? 「……5か月前からだ!」 前言撤回。新参だった。

2019-09-20 19:25:19
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「つい最近、ですか」 「おう。抜け出すときやばかったわ~、死ぬかと思った!フラフラのとこを、マリコ様に拾ってもらってさあ。世話してもらったんだよ。ほんと、いい人だよなあ~……」 困っている人には手を差し伸べる。そんなマリコなら当然、はぐれ者を保護するだろう。

2019-09-20 19:28:36
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「フライ・オクト・フライのハチちゃんも、テンタクルズの二人に助けられて来たらしいぜ?」 「……俺も、ボスに助けていただきました。ヨーコさんも、サキさんに。」 「ああ……俺たち、本当に運がいいよな。いいイカに恵まれたよ……」 「ええ」

2019-09-20 19:30:26
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「今度さ、同族で集まって食事会とかしてみたいな。なんならチームでも組む?ちょうど四人じゃん?」 それはちょっとやりすぎでは? 「ま、冗談は置いといて」 トーエイは、そばにあるベンチに腰かける。オクトーもその隣へ。 「あんた、まだ小さいよな。五年前っていうと……」

2019-09-20 19:33:20
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「……10歳です。ここへ来たのは」 「そんな小さい頃に、どうやって逃げ出してきたんだ?大の大人の俺でさえ、命からがらだったんだぞ?」 オクトーは、経緯を話した。 「……と、いうわけで」 「……苦労したんだな。しんどかったろ」

2019-09-20 19:36:03
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トーエイはオクトーの肩に手を置いた。 「なあ、あんたの両親の名前、聞いていいかい?」 「父がヒョウモン、母がミズキです。ご存知ないとは思いますが、」 「いや」 オクトーは、息を止めた。 「……知ってるよ、その名前」

2019-09-20 19:38:50
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「え……」 言葉が、うまく出ない。だが、無理やり捻り出す。 「両親は、両親は、あの後、どうなったんですか……っ!?」 食らいつくように、トーエイに問いかける。 トーエイは俯き、唇を噛んだ。なにも、喋ろうとしない。 「トーエイ、さん……?」 きゅ、と、拳を握る音がした。

2019-09-20 19:40:58
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「そうか。あんた、あの人たちの息子さんだったんだな……」 「……両親、とは、どんな関係……だったのですか?」 「あんたの父さんは、俺の上官だったんだ。奥さんと仲良しで、有名でさ……」 俯いたまま、続ける。 「よく、息子が息子がって、話してたっけ。あんただったんだな……」

2019-09-20 19:43:39
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顔をあげて、オクトーをまじまじと見つめる。 「ああ、目元が隊長そっくりだ……目の色も一緒だし……」 その目の端には、涙が浮かんでいた。声も震えている。 「……父の、部下の方、だったとは……」 まさか、こんなところで出会うなんて。

2019-09-20 19:46:07
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「それで、父は?両親は……」 トーエイは、目を伏せた。 「……どうしても、聞きたいのか?」 その問いが、意味するもの。 この先に待つ、答え。 予感が、告げる。聞いてはならないと。 聞いてしまったら、俺は。

2019-09-20 19:49:52
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いや。聞かねばならない。 正しい答えを、聞かなければ。 「覚悟は、できています。」 真っ直ぐと、トーエイの目を見据えた。その言葉に、偽りはない。 「教えて下さい。両親のその後を」 「……分かった」 その覚悟を、トーエイは受け取った。

2019-09-20 19:51:34
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「……あんたの両親は、死んだよ」 覚悟していた通りの、答えだった。 「処刑、された。同時期に脱走する兵士が多かったから、……」 トーエイは、自分の膝を強く掴んだ。血が滲みそうな勢いで。 「見せしめ、だった……止められなかった……俺は、俺はっ……」

2019-09-20 19:57:16
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「ご自分を責めないでください」 「……!」 顔を上げると、そこには。 トーエイの顔を覗き込む、オクトーの姿が。 その表情は、自分では誰かを心配するような、優しい…… 「教えてくれて、ありがとうございます。両親のことが知れて、本当によかった」

2019-09-20 20:00:44
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「……なあ、」 トーエイはオクトーの肩を掴んだ。 「どうして、そんな顔、できるんだ?あんたの両親……死んじまったんだぞ!つらいのは、あんたの方じゃないのか……!?」 「……辛くないと言えば、嘘になりますが」 少しだけ目を伏せたが、すぐに目線を戻した。

2019-09-20 20:02:55
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「覚悟はとうの昔から、できていました。あり得る話ですから。真実を知れて、むしろ……肩の荷が下りたような気さえします」 オクトーは、立ち上がる。 「すみません。そろそろ時間ですので、今日はここで失礼させていただきます。」

2019-09-20 20:05:31
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会釈をして、 「今度、ゆっくりお話を聞かせてください。俺が知らない父のことを、教えていただければ。……それでは」 踵を返す。 「お、おいっ……!」 トーエイは慌てて立ち上がる。 オクトーは足早に、その場を立ち去った。 その表情は、いたって平静だった。

2019-09-20 20:07:46
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「……ボスを迎えに行かなければ」 車を走らせ、所定の場所まで。 定刻通りに辿り着き、主君を助手席に乗せる。 「マリコはどうだった?」 開口一番は、見舞いの件。 「……容態は、あまり良くないと言えるでしょう。回復の兆しは見えないようで」 「そうか……」 主君の表情が曇る。

2019-09-20 20:10:32
感情がめちゃくちゃ @pascal_syan

「気をつけるように、と、マリコさんから忠告がありました。やはり裏で、ヤツらが動いているようです」 「ふむ……」 サイキョー杯に差し込む、不穏な空気。誰よりも先に気づき、手を打つべく情報収集は欠かさない。 それでもなお、掴めぬ尻尾。巧妙な証拠隠し。

2019-09-20 20:14:44
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厄介な敵だ。ヤツらを食い止めるには、どうしたらよいものか。 シグルイ邸に着く。エレベーターから夜景を見下ろしながら、オクトーは思案を巡らせた。けれど答えは見つからない。やはり、主君の頭脳と手腕を借りるしかないのだろうか。ボスの手を煩わせるなんて、なんてヤツらだ……

2019-09-20 20:17:08
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「オクトー」 思考の波を裂くように、主君が呼び掛けた。語気が少し荒い。 「……いかがされましたか?」 「三度も呼んだぞ。聞き逃すなど、お前らしくない」 三度も?全く聞こえなかった! 「申し訳ありません……考え事をしていました」 主君が、ちらと、こちらの顔を見た。

2019-09-20 20:18:54
感情がめちゃくちゃ @pascal_syan

「何かあったのか?……いや。何かあったな。顔色も優れてない」 「……それは……」 「隠し事はするな。洗いざらい話してもらおう」 自宅へと足を踏み入れる。真っ先に連れていかれたのは……主君の自室だった。 誰も立ち入らないように使用人に言いつけてから、ドアを閉める。

2019-09-20 20:20:57
感情がめちゃくちゃ @pascal_syan

ソファーに、向かい合って座る。五年前から決まった展開。ここに座らせるということは、お説教か、小言か、 ……悩みの相談か。 隠し事はするな。 ボスの命令は、絶対だ。 偽りなく、今日あったことを洗いざらい話した。

2019-09-20 20:24:22
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トーエイとの会話。 彼が、父の部下であったこと。 両親はあのあと、見せしめとして処刑されたこと…… 「……覚悟はしていました」 オクトーは、淡々と語る。 「両親の行方を、ようやく知ることができて……よかったです。知らないまま過ごすのは、少し苦痛でしたので」

2019-09-20 20:51:47
感情がめちゃくちゃ @pascal_syan

安堵を表情に含ませる。 「少し、我が儘を言わせてください」 と、前置きする。 「両親を……弔いたいです。遺体はありませんが、墓標を立てたいと思っています。よろしいでしょうか?」 主君の顔色を伺う。 「……いいだろう。好きにするといい」 「ありがとうございます」

2019-09-20 20:54:51
感情がめちゃくちゃ @pascal_syan

「……ひとつ問おう」 主君の表情は、哀しみとも、怒りとも言えるものに変わっていた。 「なぜ、そんな顔をする?」 「……え?」 オクトーは、自分の頬に触れる。ガラスのテーブルに写る顔を見る。 いたって、いつも通りの、普通の、平静な。そんな顔だ。

2019-09-20 20:57:26