ぱすイカ二次創作⑪

ぱすかる❄ @pascal_syan

サキがすっかり本調子に戻った頃。サイキョー杯まで残り一週間。 ハイカラスクエアには独特の緊張感と高揚感が溢れていた。 なんだか、お揃いのコーディネートの集団が、多くなってきた気がする。チームの「ユニフォーム」というやつだろう。

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Tシャツを揃えたり、アクセサリーを揃えたり。ブキの種類を統一するチームなんかもあるそうだ。 そういえばうちは、お揃いの何かというものがないなあ…… サキはそんなことをぼんやりと思いながら、いつも通りハイカラスクエアに来ていた。アタマのギアを買いにきたのだ。

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正直言うと、クマサン商会ロゴ入り限定ギア「スペボウレプリカ」は気に入っているのだ。「私アルバイトしてます」アピールをしたいし。 でも、正直、どの服にも合わない……気がする。いいかげんこのモサいレコード屋ルックから抜け出したい。抜け出したいのだ。

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かわいい帽子がほしい。ヨーコみたいなやつとか、ほしい。帽子をひっくり返して被るの、イカしてるよなあ。でもその場合、私のポニーテールはどうなるんだろう？そう思うと、なかなか手を出せない。 いっそ髪型とか変えてみようかな？そもそもポニーテールって帽子被りにくいんだよなあ。

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どうしたものか。いろんな帽子を手に思案していると、店内の他の客がさーっと退き始めた。 この現象、前にもどこかで。 そう、この間、クツ屋でクツ選んでるときとか、こんな風に…… はっとして、サキは鏡を見た。もしかしたら……「いる」かもしれない！

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サキは振り向いた。 ……が、背後には誰もいなかった。 な、なんだ。気のせいじゃないか。ほっと一息ついて、手にしていた帽子を棚に戻す。そろそろバトルしようかな。そう思って店を出ようとしたとき。 自動ドアの。 ガラスに。 誰か、映っている……！

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「油断したな」 自動ドアが開くと同時に、背後から声が。サキは振り向こうとしたが、振り向くことができなかった。 圧。 背中から、圧を、感じる。 芋虫のように、じりじりと、店を出た。「圧」も一緒に出たようだ。 「何か言うことは？」 「あ、あ、あっ……あのっ……、

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……す、すいませんでしたあああああああ！！！！」 後ろを振り返って、そのまま勢いで頭を下げた。なんと綺麗な90度だろう！お辞儀の角度キッチリ選手権とかあったら、たぶん優勝していただろう。 「……さて、何の話やら」 声が、サキの後ろから聞こえた。あれ？いつの間に私の後ろに？

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頭を上げて後ろを振り向くと、 ……あれ。誰もいない。 嘘だ、そんなわけない。また後ろを振り向く。 いない！誰も！ サキは何度も何度も後ろを振り返った。ぐるぐるぐるぐるぐる。ぐるぐるぐるぐるぐる。あれ、あれ、あれ、だんだん目が回って……

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「あれぇ？シグルイさんどこ……？」 ふらふらの状態で問いかける。三半規管が壊れてしまいそうだ。 「左だ」 左の方を向く。誰もいない。 「すまん。お前から見たら右だ」 右の方を向く。あ、いたぁ！やったぁ！ 「全然分からなかったです……」 「振り向く度に俺が動いていたからな」

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シグルイさんも回転してたことにならないか？三半規管、大丈夫なのかな。 「え、ええと、この間はすみませんでした……」 改めて謝罪する。 「程々に、と言ったな」 「はい……」 「サイキョー杯の開催が近い。あまり、……いや。無理は絶対にするな」 「はい……」

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「試合当日に病欠。最もあってはならないことだ。分かるな？」 「はい……」 「とはいえ、不慮の病もあるだろう。その場合は仕方ない。だが……」 「私のは完全に自己責任ですっ……！」 「素直でよろしい。以後気をつけるように」 「分かりました……」 道端で王者に説教されるアルバイター。

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「具合は？」 「お陰様ですっかり元気です！」 「ヨーコに礼は言ったか？」 「そりゃあもう、もちろん！」 「それでよし。良い友人を持ったな」 本当にそう思います。マジで。 「あれ、オクトーくんは……？」 「今日は別行動だ。特別講習らしい」 「とくべつ……こうしゅう？」 なんだそれ。

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「これから予定はあるか？」 「いえ、特に。バトルしようかな～って思ってました」 もしかして、また一緒にバトルするのかな？と、思いきや。 「こちらも特別講習といこう」 「……はい？」 しばらくの沈黙のあと。

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サキは黒塗りの高級車に乗せられた。運転席にはシグルイ。後部座席で揺られること30分かそのくらい。 「あの、これ、どこに向かってるんですか……？」 「俺の家だ」 「……えっ？」 「着いたぞ」 「えっ？」 「降りないのか」 「えっ……」

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サキは、車から降りて、見上げる。 見上げる。 見上げる。 見上げる…… 見上げる………… 見上げても見上げても、先が見えない。だってここ…… 「めちゃくちゃ高いマンションじゃないですか！！！！！！！？？？？？？？？」 「値段か？」 「い、いや、物理的に？？？？」

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そう。物理的に、高い。きっと、お値段も、高い。白と黒のスマートなデザインが、本当に、おしゃれだなあと、サキは思いました。 「何階建てですか……？」 「50だ」 「ひえっ……そ、それで、お部屋は？どこに？」 まさか、50？屋上？……じゃない。最上階だろうか？

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「45階、」 あっ、最上階じゃない！てっきり、最上階だと思っていた。なにせシグルイさんだ。戦闘力も意識も住居も最上階かと思って、 「……から、50階までだ」 まさかの５階も大占拠。 おうちのなかどうなってるの？マンションで？５階も？なんで？

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マンションの駐車場も、まあ、まあ、それそれは物理的に高い、タワー型だった。降りるときに、使用人が迎えてくれた。使用人。使用人がいる！すごい。ブルジョワだ。マンションのエントランスに入る。ばっちりオートロックです。ブルジョワだ。エレベーターに乗せられる。静かで速い。ブルジョワだ。

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エレベーターの中から、外の景色が見える。地上がどんどん遠くなっていく。高所に慣れていないサキは、少し足がすくんでしまった。こんな景色、一生に何度も見れるものじゃない。何もかも小さい。何もかも…… 45階に到着した。 わあ。すごい。セキュリティが、すごそうな、おおきな玄関だなあ！

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「お帰りなさいませ、シグルイ様」 がっつり使用人がいる。ご丁寧なお出迎えだ。うわーすごい。 「ようこそ、サキ様」 「あっ、は、はいっ、お、お邪魔します……？」 なんだかこちらのほうが恐縮してしまいそうだ。様ってつけられて呼ばれたこと、美容院か病院でしかないんですけど？

ぱすかる❄ @pascal_syan

そして、シグルイ宅の内装は、シンプルこそが正義、といった風だった。どう言っていいか分からないが、モデルルームの内装をもう少しさっぱりしたような……「余計なものは置くな」を地でいくスタイル。 オブラートに包まずに言うと、殺風景だ。 面積が広いから、余計にそう思ってしまう。

ぱすかる❄ @pascal_syan

「殺風景だろう？」 自覚してるんかーい。 「み、ミニマ……？えーと」 「ミニマリストか」 「あ、はい、それです！それっぽいな～っと……」 「そうかもしれんな。余計なものは持たない主義だ」 やっぱりそうでしたか。

ぱすかる❄ @pascal_syan

五階建て……いや、五階ぶち抜きなので、シグルイ邸専用のエレベーターも用意されていた。さすがに５階は行き来しづらいから、仕方ないよね。 「四階からが住居でな」 「三階までは……？」 「来客用の部屋と、トレーニング施設だ。二階へ行くぞ」

ぱすかる❄ @pascal_syan

やはり、超お金持ちだ。だから、自宅にトレーニング施設があってもおかしくはない。 でも、トレーニングって何だろう。ひとくちに言っても、その内容は聞いてみないと分からない。 ……もしかして、筋肉とか、鍛えろって、言われない？