エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~3世代目・後編~

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帽子男 @alkali_acid

光の諸王が、黄金艦隊を押しつぶした際のあの津波の響きさえ混じっていた。 ついに黒の乗り手は人間に戻り、膝をつき、崩れ落ちた。 「…やった…よアケノホシ…あたい…黒の乗り手に…勝った…」 「ああ…ラヴェイン…君って最高だ…いつだって」 男は、ひどくラヴェインに似た男は呟く。

2019-09-29 22:31:25
帽子男 @alkali_acid

「アケノ…ホシ…?」 琵琶が手から落ちる。楽器をそんな風に扱っちゃいけないよと、いつもの黒犬ならたしなめただろう。 「ありがとう…ダリューテさんを…救ってくれて」 胸から矢を生やした青年、ナシール。上エルフの言葉で暁星。明けの星はそう告げてほほ笑んだ。

2019-09-29 22:32:49
帽子男 @alkali_acid

ラヴェインは一歩近づこうとして、等距離に倒れるダリューテを見やり、わななく。 「あたい…あたいが…」 「…ラヴェイン。指輪に触るな…いいね…」 「アケノホシ…アケノホシ…」 「ぼく…のからだ…ボグのそばに…うめて…」

2019-09-29 22:35:16
帽子男 @alkali_acid

もっといろいろ言いたいことがあったのだが、いくらバンダ譲りの剛健な体でも、狂毒に侵され呪歌を浴びたナシールはさすがにもたなかった。 ので死んだ。

2019-09-29 22:36:21
帽子男 @alkali_acid

呪歌の匠の慟哭が影の国を震わせた。 それは旋律のない曲。詞のない歌。 三つの竜の卵にひびが入り、雛が生まれいずる。 怒りと憎しみの歌、嘆きの歌を目覚めの合図に。

2019-09-29 22:37:51
帽子男 @alkali_acid

かくして予言は成就した。 死人占い師ナシールは息子の手によって息絶え、 呪歌の匠ラヴェインは父を弑して地位を継いだ。 西の島の黄金王ファラゾエアが兄を殺して玉座を得たように。 影の国に新たな黒の乗り手が誕生した。 エルフの奴隷を受け継ぐ第三の世代が。

2019-09-29 22:39:48
帽子男 @alkali_acid

さあもう十分だろうか。 さすがに家系の歴史にも飽きが来ただろうか。 でも一応どうなったかは書いておこう。 ラヴェインはナシールの願いに反し、指輪をはめる。 「これで…ずっと一緒だよナシール…アケノホシ……あたいの一番大事なお友達…」

2019-09-29 22:41:43
帽子男 @alkali_acid

ダリューテを助ける技を、ラヴェインはナシールの記憶から引き継ぐ。 黒の癒し手の知見と術の一切を。 おかげで奴隷は傷一つなく回復する。上エルフのうち最も強い騎士でもあった。 「…おはよう。ダリューテ」 「おはよう…ラヴェイン…」 黒の歌い手の指にある輪を見て、すべてを察する。

2019-09-29 22:44:20
帽子男 @alkali_acid

「あたい、仙女様が好き。とても…とても好き」 「…私は…」 何を言える。 「おじいさんのバンダ、おとうさんのナシール。二人の気持ちが…指輪を…兜を通じて伝わってくるよ…そしたら、あたい…余計、ダリューテが好きになった」 「こうならないことを、ナシールは望んでいた」 「バンダも」

2019-09-29 22:48:08
帽子男 @alkali_acid

若者は貴婦人に口づけする。 「でも、あたいのものになってね?仙女様」 「…私は奴隷、お前は主人。好きにするがよい…」 「うん。するね」

2019-09-29 22:48:56
帽子男 @alkali_acid

黒の歌い手ラヴェインの時代。 影の国は最も開かれた土地となった。 歌と踊りがあふれ、ゴブリンにはゴブリンの、オーガにはオーガの、トロールにはトロールの、東夷には東夷の、それぞれにふさわしい音楽が育った。 西方諸国は禁じたが、その音色を聞きに学びに、密かに多くのものが訪れた。

2019-09-29 22:50:20
帽子男 @alkali_acid

祭りは 最高に 盛 り 上 が っ た。 呪歌の匠の演奏と歌唱に合わせ、裸身の胸や股に飾り輪をつけ、淫紋を輝かせた妖精の奴隷が激しく踊り、喜悦に喘ぎつつ、祝賀をあらわす、 刺青を帯びた裸の男女が周囲で幾重もの輪となり、小鬼が人皮の太鼓を叩き、トロールが岩を打ち鳴らす。

2019-09-29 22:53:23
帽子男 @alkali_acid

東夷は爪の部族のもとに連合し、影の国の盟邦となった。女達の法が荒ぶる民をまとめた。 南寇もまた影の国の友であった。海賊は西方諸国の沿岸を荒らし、一方でみずからも交易の網を広げ始めた。影の国にもあまたの品々が届いた。

2019-09-29 22:55:09
帽子男 @alkali_acid

「鶚も刺青を入れたいって。東の女で、南へゆきたい子いるかなあ…でもこういうのはだめだよね」 「んっ…これ…ラヴェインっ♡」 楽士の指が奴隷の下腹の紋様を爪弾き、さらにおりて、飾り輪のついた紅蕾をひっぱる。 「ぁっ…ぁっ…」 「いっちゃっていいよ?そろそろ演奏始めるから」

2019-09-29 22:58:18
帽子男 @alkali_acid

黒の歌い手はぱくんと妃騎士のふくよかな乳房の片方を食んで、あふれる滋味を吸いたてながら、子を宿してふくらんだ胴をなぜ、さらに三代にわたって躾け、知り尽くした急所に触れ、巧みに奏で、歌わせる。 「ラヴェ…イン…もぉおぉ♡」 「ぷは…かわいい。あたいの仙女様…そんでおいしい♪」

2019-09-29 23:01:08
帽子男 @alkali_acid

かくて影の国の繁栄を示すように、新たな世継ぎがもたらされた。 だが西方との諍いは絶えなかった。 呪歌の匠は三頭の黒竜のうち一頭にまたがり、琵琶を手に戦場を駆け巡った。 「あたいの歌を聴け!!」 竜とともに歌い、奏でる魔人に、相対するだけでどんな軍勢も総崩れになった。

2019-09-29 23:03:19
帽子男 @alkali_acid

おかげで命を落とす兵の数は東西ともきわめて少なかった。

2019-09-29 23:03:59
帽子男 @alkali_acid

歌い奏で踊る世は長く続いた。 ナシールをむしばんだ王の葉の狂毒が、やがて黒の乗り手の指輪を、兜を通じてラヴェインに伝わり、魂を毀つまで。

2019-09-29 23:06:03
帽子男 @alkali_acid

ここで終わり。 そうすべきだろうか。 あるいはそうかもしれない。 ではマーリは。 左腕が右腕より大きく、右足が萎え、背の曲がった世継ぎのことは、誰も聴きたくないかもしれない。 ラヴェインが認めなかった血の穢れ。 あるいは呪いがかかる子をなしたのか。

2019-09-29 23:08:17
帽子男 @alkali_acid

マーリ。 黒の鍛え手。 人間のために九つの指輪をそろえたもの。 エルフのために三つの指輪を。 ドワーフのために七つの指輪を作ったもの。

2019-09-29 23:09:28
帽子男 @alkali_acid

闇の女王亡き後、荒れ果てていた黒門を再建し、 開かれた影の国を再び閉じ、巨大な要塞に変えた男。 山の下のドワーフ王国を滅ぼした元凶。 深くに眠る災いを呼びおこした魔人。 目の見える白い蝙蝠を友としたマーリ。 狂った小人モシークの弟子マーリ。 影の国に世界で最も壮麗な宮殿を築いた。

2019-09-29 23:12:45
帽子男 @alkali_acid

四世代目の物語は。 はたして。

2019-09-29 23:13:37

次の話

まとめ エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~4世代目・前編~ シリーズ全体の目次はこちら https://togetter.com/li/1479531 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。 14318 pv 26 1 user
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