奴隷・紛争・資源:奴隷貿易がもたらす現代の紛争への長期的影響 の2019;10

「The Slave Trade and Conflict in Africa から
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

宗主国から独立した1960年代から2000年の間に、アフリカ諸国のおよそ40%が内戦を経験しているのだ。この背景にはもちろん過去の植民地支配の影響もあるんだけど、それより以前の奴隷貿易も現代のアフリカの紛争に影響を与えていることを明らかにした研究があるのだ。 (1/26) pic.twitter.com/YqljQghqcU

2019-10-01 20:46:41
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

アフリカにおける奴隷貿易が同時代の紛争と深い関係にあることは以前から何回か紹介した通りで、奴隷の需要があれば奴隷狩りを行うインセンティブが高まり、民族間で紛争が起こる可能性が高まるのだ。 twitter.com/bot99795157/st… (2/26)

2019-10-01 20:46:41
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

1807年にイギリスは奴隷貿易法を制定し、奴隷貿易を止めるのだ。でも奴隷貿易最大手の国が突然取引を止めたことで、奴隷を供給していたアフリカ諸国は大混乱に見舞われるのだ。その結果として、1807年以後、アフリカでは武力紛争が増加したことを明らかにした研究があるのだ。 (1/16) pic.twitter.com/YuhJsx3yNS

2019-09-22 16:39:13
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

奴隷を巡る紛争が頻発すれば、政治制度にも悪影響を及ぼすのだ。中央集権的な国家の建設は遅れる上に、おそらくそこで形成されるのは一部のエリートが権力と資源を独占する「収奪的な制度」(アセモグル&ロビンソン)であると考えられるのだ。 (3/26) pic.twitter.com/EMnrlMA5Ph

2019-10-01 20:46:43
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

例えば現在のモザンビークにあたる地域に居住するマクア人(Makua People)は、ポルトガルからの奴隷需要が高まった結果、奴隷を得るために周囲の民族に対する戦争を始めたのだ。そうして彼らはポルトガルとの奴隷貿易に依存するようになったのだ。 (4/26)

2019-10-01 20:46:43
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

でもついに周りの人々を狩り尽くしてしまったのだ。これで困るのは、奴隷貿易からの利益がその地位を支えていたマクア族のエリート達だったと考えられるのだ。そこで彼らはついに自民族に対する奴隷狩りを始め、社会は大きな混乱に見舞われたのだ。 (5/26)

2019-10-01 20:46:44
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

以前紹介したように、奴隷貿易はアフリカにおける国家建設を妨げてしまったのだ。さらにこうした過去の制度が引き続き現在の制度にまで影響を与えていることもこれまでの話で確認してきたのだ。だったら現代の紛争にも影響を与えてそう…というのは自然な類推なのだ。 twitter.com/bot99795157/st… (6/26)

2019-10-01 20:46:44
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

植民地支配を経て独立したアフリカ諸国の多くが現在貧困国として数えられているんだけど、こうした低成長の「起源」はどこまで遡れるのか?およそ500年間に渡る奴隷貿易のデータを用いた分析によれば、奴隷供給が多かった国ほど現在も経済レベルが低いことが明らかになっているのだ。 (1/22) pic.twitter.com/MnZ0QHAcPE

2019-09-28 20:12:01
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

国家が中央集権的でなく(=中途半端な統治能力)、一部のエリートだけが得をする収奪的な制度が組み合わさると、その富の分配から排除されている人々がエリートに挑戦する動機と機会を与えてしまうことになるのだ。 (7/26)

2019-10-01 20:46:44
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

もし武力でエリートを打ち負かすことが出来れば今度は自分が富を独占できるし、仮に国家を転覆させることは出来なくとも、一部の地域を支配できればそこの富を独占できるのだ。さらに国家の統治能力が低ければ、武力による挑戦もしやすいはずなのだ。 (8/26)

2019-10-01 20:46:45
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、過去の奴隷貿易は、制度への悪影響を通じて現代のアフリカにおける紛争にも影響を与えている、という予測が導かれるのだ。 ということで実証なのだ! (9/26)

2019-10-01 20:46:45
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この研究では、大西洋・インド洋奴隷貿易によってアフリカの各民族から輸出された奴隷の数と、1400-2000年に発生した紛争(vsヨーロッパ諸国は除く)のデータをマッチングし、統計分析を行ったのだ。 (10/26) pic.twitter.com/lQFsrOTFSW

2019-10-01 20:46:47
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

分析の結果、輸出される奴隷の数が増えると、1400-2000年の間に、その民族の(歴史的な)居住地で紛争が発生する確率が上昇していたことがわかったのだ。 ただし、この関係は時期と地域によって差があったのだ。 (11/26)

2019-10-01 20:46:47
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

まず地域的な差を見ると、奴隷の輸出数と紛争の関係が見られたのは西アフリカのみだったのだ。大西洋奴隷貿易の「メッカ」は西アフリカだったから、その影響をより強く受けた結果だと考えられるのだ。 (12/26)

2019-10-01 20:46:47
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

時期ごとの差を見ると、前植民地期(1500-1800年)と独立後(1960-2000年)は奴隷数→紛争という関係が確認されたけど、植民地期(1860-1960年)にはこうした関係は見られなかったのだ。 (13/26)

2019-10-01 20:46:48
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

筆者によれば、これは植民地政府による支配の結果か、あるいはヨーロッパという「共通の敵」が出来た結果として、民族間の紛争が抑制されたと考えることが出来るのだ。 (14/26)

2019-10-01 20:46:48
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

ここまでの結果から、奴隷貿易は(植民地期を除き)過去も現在も紛争が発生する確率を上昇させていることが分かるんだけど、この研究は現代の紛争に関してもう一歩踏み込んだ分析もしているので、それも紹介しておくのだ。 (15/26)

2019-10-01 20:46:48
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

現代の内戦を特徴付けるものの一つとして、「紛争資源」の存在が挙げられるのだ。ダイヤモンドや石油といった高利潤な天然資源の存在が紛争を引き起こすと言われているのだ。資源を独占出来ればかなりの儲けが得られるから、それだけ紛争を起こすインセンティブが増すのだ。 (16/26) pic.twitter.com/jp7aqBoZr2

2019-10-01 20:46:50
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ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

天然資源と紛争を繋ぐメカニズムに注目した時、重要になるのが「制度」なのだ。市民に再分配を行わない収奪的な制度の下では、今いるリーダーを放逐すれば、次は自分が資源を独占できるというのは先に話した通りなのだ。 (17/26)

2019-10-01 20:46:51
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

つまり、天然資源を有し、かつ収奪的な制度が存在する地域(あるいは国)は、そうでない場合と比較して紛争が起こりやすいという予測が導かれるのだ。そこでこの研究では、1960-2000年にアフリカで発生した紛争と、ダイヤモンドと石油の産出地のデータを用いて追加の分析を行ったのだ。 (18/26)

2019-10-01 20:46:51
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

分析の結果、天然資源が存在し、かつ過去の奴隷輸出数が多いと、1960-2000年の間に紛争が発生する確率が高くなっていたことがわかったのだ。ただし、過去に奴隷が輸出されていなかった地域では、天然資源があっても紛争の確率は上昇していなかったのだ(むしろ低下する!)。 (19/26)

2019-10-01 20:46:51
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

この結果は、過去の奴隷貿易が収奪的制度を形成し、それが現在まで受け継がれていることを示唆しているのだ。奴隷貿易の影響を受けなかった地域の制度は、収奪的ではなく包括的な制度に近く、資源から得た利益が市民に適切に分配され、そのために紛争は起こりづらくなっているかもしれないのだ (20/26)

2019-10-01 20:46:52
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらに、過去に奴隷貿易が行われていた地域「のみで」天然資源が紛争発生の確率を上昇させていたということは、現代の紛争資源を巡る問題は歴史的に規定されている側面がある、ということを示唆しているのだ。 (21/26)

2019-10-01 20:46:52
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

これらの結果は、先に示した操作変数法や、植民地期の影響を取り除いた上でも一貫していたんだけど、解釈においていくつか注意が必要なのだ。まず、こうした関係は地域的に限定(西アフリカだけ)されている可能性があるのだ(だからこの後に導く示唆もそこを差し引いて考えて欲しいのだ)。 (22/26)

2019-10-01 20:46:52
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

また、これは多変量を用いる統計分析全般にも言えることだけど、奴隷貿易が現代のアフリカにおける紛争の「たった一つの」ルーツである訳ではないのだ。植民地支配や同時代的な要因も同じぐらい重要なはずなのだ。とは言え、この研究からは多くの示唆が得られることも事実なのだ。 (23/26)

2019-10-01 20:46:53
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

紛争が発生すれば地域社会は破壊され、経済成長は停滞するのだ。以前紹介したように、奴隷貿易は複数のチャンネルを通じて現代のアフリカの低成長に繋がっている訳だけど、こうした紛争の発生も、過去の奴隷貿易と現代の貧困を繋ぐチャンネルの一つかもしれないのだ。 (24/26)

2019-10-01 20:46:53
ア㊙️イさんのお尻 @bot99795157

さらに、経済的に貧しい状態は、反政府勢力が人々を兵士として動員しやすくなる(給料は安くていい)から、紛争が起こりやすいのだ。つまり紛争と貧困は負のスパイラルを描いて連鎖するのだ。独立後のアフリカ諸国が陥ったこの「罠」の背景には奴隷貿易という負の歴史があるかもしれないのだ (25/26)

2019-10-01 20:46:54