エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~4世代目・後編~
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「マーリ…お前はいつまでそうして働き続けるのだ」 「狂うまで。予が狂うまでに…滅びの亀裂の力を用い、この国を黒の乗り手なくとも…堅固な地とし…しかるのち父上が望むような…歌と踊りを、安んじて楽しみ、喜べる地にする」 「ではお前の喜びはどうなる」 「予の喜びはもうよい」
2019-10-06 22:31:28健やかな奴隷は、不具の主人をうかがった。 「よいのか」 「よい…もし…影の国が落ち着いたら…そうしたら…そなたを解き放つ。西の果ての地に行けば…忘却の慰めが得られよう」 「…マーリ」 「予は父上が…お祖父様が、曽お祖父様がなせなかったことをする…黒の乗り手なくとも続く国を作る」
2019-10-06 22:35:09「奴隷よ。仙女よ。我が一族はそなたを苦しめた…だが予の代で終わりにする…きっとそうする…」 半ばは銀でできた魔人はうずくまって左右異なる大きさの掌で顔を覆う。魔女はしずかにたたずむ。 「もう苦しむなマーリ。見ていられぬ」 「歌ってくれ…もう一度だけ…ヒカリノカゼ…」
2019-10-06 22:38:54貴婦人は歌った。まったき闇で白い蝙蝠がつむいだのと同じ旋律を。 黒の乗り手は喘ぎ、立ち上がって、肩を掴んだ。 ダリューテは一瞬だけ身じろぎし、マーリの接吻に身を任せた。 「狂気…狂気のせいだ…ヒカリノカゼ…許せ」 「解っている」 「予は…どうしても…そなたが欲しい」 「解っている…」
2019-10-06 22:41:25そう。 黒の鍛え手は、巧みなる右腕も、剛き左腕も。無双の鎚も、呪いを断ち切れなかった。 先祖が捕えた森の奥方を離さず、溺れていった。
2019-10-06 22:43:42いったん歯止めがなくなると猿みたいにね。 「お前!すこしは遠慮というものを」 「あいすまぬ…あいすまぬヒカリノカゼ」 「ちょっ…やめぬか…その目で見るのは」 「予は…予は…父上のように奏でられぬ」 「んぉ…♡…このぉ…だからといって…鎖をひっぱる…にゃっ…♡」
2019-10-06 22:45:44四代目は記憶を受け継いでも、どうしても男女のこととなると奥手が抜けない。 そのせいか。 「まて!まてまてまて!この責具はなんだ…よせ…やめぬか」 「予は…ほかの乗り手のような健やかな手足がない…故…」 「だ、だからといって…これは…」 「すぐ慣れる」 「んほぉおおっ♡」
2019-10-06 22:48:00「…体というのは神秘に満ち…寛げ、広げればいかようにもなり、用足しのための穴も快楽を得るようになる…まことだろうか…ナシールお祖父様の癒しの技と併せれば…うむ…」 「ならぬならぬ!絶対になら…ひぃっ!?」 「うむ…体の内をすべて洗い清めると若さと長寿にもつながる…」 「いらぬぅ!」
2019-10-06 22:51:11「ぜぇ…ぜぇ…私は…上のエルフだ…長寿や…若さなど…求めて…しょの…球を…つらねたのを…出し入れしゅるのはやめろぉ…」 「一つ一つ違う香木を削って磨いたのだ…そなたの腹の中の形に合わせて」 「おごぉ…把握しゅるなあ…」 「興味深い」 「このぉ!!」
2019-10-06 22:54:07マーリはかなり凝り性だった。 良い方にも悪い方にも出る。職人気質というのは。 七人の小人のひとり責具拵えは避妊についても専門で、黒の鍛え手はよく弁えてはいたんだけど、やっぱりね。する気がなくなってしまうのね。 「子が欲しい」 「話がちが…」 「欲しいのだヒカリノカゼ」
2019-10-06 22:56:54「おま…あれだけ」 「七匹とは言わぬ…ひとりでよい…そなたの産む赤子を腕に抱きたい」 「く…このぉ…ひっ…やめ…それをしながら…卑怯…だぞ…」 「頼む」 「たのんでおりゃぬ…おどして…あぐ…わかったかりゃ…やすませ…またぁ!?」
2019-10-06 22:58:50そろそろ森の奥方も学習すべき頃合だった。 どの黒の乗り手も、いくら口先できれいごとを並べても、一度体を許すと必ず指輪の呪いに負けるのを。 あの忌まわしくも逃れがたい、愛という呪いに。
2019-10-06 23:02:25さあそろそろうんざりしただろうか。 いつまで経っても脇の甘い妃騎士。 何代重ねても同じ過ちを繰り返す黒の乗り手。 もう沢山。いい加減終わりにしよう。
2019-10-06 23:04:26マーリはしかし、望み通りヒカリノカゼ、ではなくダリューテの息子を得た。七匹ではないが。一人だけ。 「…手足の大きさがそろっている…背も曲がっておらぬ…この子は健やかだ…ダリューテ…ヒカリノカゼ…予の喜び…」
2019-10-06 23:08:01「…そうか…」 産褥の疲労にあえぎつつ、奴隷は主人に辛うじて微笑んだ。 かつて暗い膚の若者が白い蝙蝠に捧げた思いに、明るい肌の乙女が応えたのだ。
2019-10-06 23:10:29五世代目の呪いの子。 オズロウ。上エルフの言葉で導きの星。北の空に変わらず輝く。 十六分の一だけ人間。残りはエルフ。 だろうか。本当に。いささか疑問も生じてきた。 魔法は血に宿る。ではなぜラヴェインは海で精霊の歌を学べたのか。 なぜマーリは地の底で精霊の術を学べたのか。
2019-10-06 23:13:24初代のバンダは間違いなく東夷。ただの人間だった。 異常に狡賢く精強だったが、間違いなくただの人間だった。 繁殖の速さだけが取り柄の種族だった。 とすれば、ダリューテ。森の奥方ははたしてただの妖精か。 今はまだ知りようがない。光の軍勢に関する秘密をなかなか闇の側には明かさぬ女だ。
2019-10-06 23:17:08それはともなく、オズロウは再び欠けることなき美を備えて生まれた。 ただ一つ、蝙蝠のように目が見えないことを除けば。 「オズロウ…さあ…この手をごらん…指がいくつ立っている」 幼児はかそけく啼いてから答える。 「ふたちゅ」 「おお。見えているのだ」 「ふたちゅのおと、しゅる」
2019-10-06 23:19:49オズロウ。 黒の渡り手。盲目の船長。竜曳船の主。帆船エシファエンに乗り、世界を旅し、祖父たるかの黒の歌い手ラヴェインにも果たせなかったある試みを為す。すなわち東の灯を使ってまどわしの海域を抜け、ダリューテを西の果ての地まで運ぶ。
2019-10-06 23:22:41次の話
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