『ある日突然自分の建物を他人がアームヘッドで破壊しても「建造物損壊」にはならないのか?』(活動日報 2001年4月1日)
ホーンとホーンが衝突し、爆発的な反発力が発生した。ヴァントーズは窓に一枚ずつ「ピ」「ア」「ノ」「教」「室」と張り紙されたビルに衝突し、イービスは空中へ投げ出された。それを砲撃戦仕様の厚い装甲が受け止める。「ナイスキャッチ、ブン」「大トロ一貫追加で」
2020-04-10 20:20:00「敵の動きが止まった。いったん相手の話を聞こうじゃないか」「今ごまかしました?まず俺の話を聞いてくださいよ」「んまあそれもそうだが」ライカは外部スピーカーに繋ぎ、「貴官の目的は?」と聞き、少し待って、リズ語で同様の事を言った。
2020-04-10 20:25:00ヴァントーズは半ばビルに埋まったまま、胴体の向きだけを少し起こした。コックピットを水平にするためだ。そして話し始めた。「―――I―――」便宜上、日本語に訳すべきだろう。
2020-04-10 20:30:00―――調和能力『ベァフット・イン・ザ・パーク』は自分の存在を希薄にする能力だった。彼と愛機は潜入工作兵として頭角を現していった。(続く)
2020-04-10 20:35:00破壊工作。強行偵察。人質救出作戦。暗殺。彼は無敵だった。認識を曖昧にし、敵の危機感を麻痺させるその調和によって、戦場にはつき物の怪談じみた都市伝説すら現れることはなく、ただ結果だけが残った。ろくに抵抗してこない敵を殺める度、彼は疲弊していった。精神安定剤の量が増えた。
2020-04-11 00:00:01そして、更には仲間すら彼を認識できなくなっていったとき、あらゆる英雄がそうであるように、彼の無敗神話はある日突然崩れ去った。ヨツアシとガンマーで構成されたキルゾーン。孤立無援。抜けなければ。出し惜しみはできない。能力、全開。―――
2020-04-11 00:05:00ヴァントーズのハッチが開いた。「俺を!見ろ!これが国のために尽くした自分への褒美なのか!?」それは茫洋とした、誰でもない、いや何でもないとしか言えない顔だった。少しでも目をそらせば忘れてしまうだろう。
2020-04-11 00:10:00ヴァントーズはハッチを閉じ立ち上がる。世界から忘れられた兵士は怒りにまかせて剣を振りかざす。怒りにまかせて、というのもライカ達が経験からそう類推しただけで、彼は表情すら……。
2020-04-11 12:15:00「要は自業自得か」「ら、ライカさんそりゃ無いっすよ」「もっと怒らせる。そっちの方が都合がいい」ライカは自分自身の非情さを嫌悪し、同時に感謝した。ただ位置関係が欲しかったのだ……3機が密集した位置関係が。
2020-04-11 12:20:00「俺の前方、煙を焚いてくれ」ブンシリの機体が腰からスモーク・ディスチャージャーを放った。粘性の高い煙幕を単眼の巨人がかき分け、迫ってきた。オレンジの双眸が光り、見る。煙の流れを。そこから逆算する。二重の刃をもつ戈を振るう。半分は無意識。
2020-04-11 12:25:00イービスは光の糸でぐるぐる巻きになったヴァントーズの手足を淡々と切り落としていった。まるで猟師が獲物を解体するように。そして淡々と語る。「あんた自身はよく見えなくても、足跡や、風に舞う埃なら捉えられる。俺の〈目〉には見えるのさ」「そうか……お前には、俺が見える」
2020-04-11 12:35:00「ああ。お前のことは、俺が覚えている。」 「だめだ」ヴァントーズの腕の切り株がイービスを押しのけた。そのパイロットの意思が10倍サイズに相似拡大されたかのように。その断面からシリンダーと鉤爪を備えた腕が生え、イービスを掴んだことは、すなわち"彼"の意識によるものではないだろう。
2020-04-11 12:40:00「融合現象か!?」マルチセンサーアレイの左右から牙が。なめらかな曲面装甲を押しのけ、鉄の肋を備えた胴体が。イービスはヴァントーズを光の糸で拘束していた。しかしそれは機械対機械という状況を前提としての話だ。「まずい!」
2020-04-11 12:45:00バイオニクル(生体機械)は糸を引っ張り、一巻きずつ自らの縛めを解いていった。その柔軟な動きはまさに巨大な生物だった。「ブンシリ!俺ごと撃て!!」HR-5砲撃戦使用は徹甲弾を装填する。〈守る会〉の強行取材班は皆、一瞬の躊躇が破滅を招くことを知っていた。
2020-04-11 12:50:00「「毒蝮編集長!」」ライカとブンシリは彼の存在すら忘れていた。読者諸氏が又候忘れていたとして誰が責められよう。その乗機はAMH-003弥生、最もありふれたアームヘッドの一つ。個性といえば右手に雑に取り付けられた鉄骨くらいだ。そして、鉄骨の中からのたうつ"何か"が――――――――
2020-04-11 13:00:00数日後。戦時下においてもジャーナリズムを守る会・皇京北事務所はいつもの日常を取り戻していた。ライカはキーボードで記事を書いている。強い風が事務ファイルを吹き飛ばした。〈守る会〉において、吹きっさらしの中で仕事することは日常の範疇である。
2020-04-11 13:05:00隣の机にいたブンシリがライカに話しかける。「この前、寿司おごるって…」「いや記憶にないなあ」「で・す・よ・ねー!だと思いましたよ」「次からは取材と同じで、ボイスレコーダー点けておけ」「むむ……」職業意識を盾にされたら反論できない。
2020-04-11 13:10:00「真面目に仕事しなさい」パクの声は不機嫌そうだ。「あのあと直帰しやがって…」「ごめんなんか帰っちゃったわ…」「なんか記憶が曖昧で…」
2020-04-11 13:15:00「みんなおはよう」編集長が遅れて出勤してきた。「編集長寄りかからないで!ブルーシートの外は『外』です落ちちゃう!」「編集長なら落ちても死なないんじゃないか?」
2020-04-11 13:20:00「お前らワシのこと妖怪かなんかと思ってないか」この人が昨日どうやってバイオニクルを撃退したのか、ライカはどうしても思い出せない。「さっきから熱心になに書いてんだ?」「いや、ただのエイプリルフールですよ」
2020-04-11 13:25:00記者紹介:【ブンシリ】新人強行取材班。乗機は大口径砲とカウンターウェイトを兼ねる重装甲を装備した重砲撃戦仕様。 〈守る会〉各国の支部には隣国や植民地出身の者が多い。外見が現地住民と差異がさほどないこと、スキャンダルや不都合な機密を暴くことが祖国の利益に繋がることなどが理由である。
2020-04-11 13:38:20記者紹介:【パク】新人強行取材班。ハンドルを握ると衝動的な性格になるタイプであり、ハードナックルと脚部追加ブースターを装備した乗機の操縦においてもそれは活かされる。なお会員のスパイ活動は会活動に不利益のない範囲で黙認されている。
2020-04-11 13:38:29