エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~6世代目・その2~

中華一番の新シリーズ見てます? ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。
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帽子男 @alkali_acid

「んだども…オラ、これ以上早く動いたら、台所のもんみんな打ち壊しちまいそうで…」 「御しなさい。あなたの膂力がもう、鉄をもひしぐのは察せられます。しかし私とてその程度のことはあなたよりたやすくできます。御し、かつ早く動きなさい」 「承知しただ」

2019-11-25 22:16:23
帽子男 @alkali_acid

だが中々に茶師の望むほどには影の国の世継ぎは素早く働けなかった。 「オラ…うまくできね…」 寝間で落ち込む少年に、また巨釜が話しかける。 "おっほっほ、そちはいつも周りを傷つけぬようびくびくしておるからの。オズロウもいささかそうしたところがあったかの、そちは度が過ぎておる"

2019-11-25 22:18:28
帽子男 @alkali_acid

「どうしたらええだ…オラ」 "もっと力を増せばよいでおじゃる。竜が岩山を担いで震えぬのは身に宿る剛力のおかげ。力を御すには力よの" 「力…だども…」 "荼師から呼吸法を学べばよいでおじゃる" 「呼吸法?ちゅうのは食えねえしいらねえだ」

2019-11-25 22:21:55
帽子男 @alkali_acid

"おっほっほ、ならば…やんごとなき雅な竜である麿が、美味なるものがさらに美味になるまじないを教えてやるでおじゃる" 「うめえもんがもっとうめくなんだか?それでオボロさの点心や薄焼菓子ちゃんの果実の蜜煮さ食ったらどんだけうめえだ…教えてくんろ!」

2019-11-25 22:23:26
帽子男 @alkali_acid

"おっほっほ、美味なるものが、さらに美味になれば、そちももっと食が進み、ぐんぐん育つであろ。麿に至高の一皿、究極の一皿を料れるほどにの"

2019-11-25 22:24:28
帽子男 @alkali_acid

暗い肌の少年は巨釜の教えを受けてからさらに健啖となり、肉付きがよくなる一方、手足の運びは疾風か迅雷の如き早さとなった。しかもなお優雅であり、虚空を裂くような鋭さではなく、あくまでも擦り抜けるような奥ゆかしさがある。

2019-11-25 22:25:41
帽子男 @alkali_acid

「まだです。まだ。以前、私と味比べで幾度か決勝を競った先の天子オオタテは、たった一人で百人の特級厨師の働きをし、南北の珍味佳肴を和合させた天竜全席を作り上げた。あなたはあれを超えねばならない!千人…いや万人の料り手の働きを一人でこなすのです!」

2019-11-25 22:27:53
帽子男 @alkali_acid

びっしょりと汗をかきながら、まだ幼さの残る相貌が真剣そのもののに張り詰めたまま頷く。 導き手はまた鼻から血を垂らしかけたが、すばやく布巾で抑える。 「汗をどこかに一滴でも垂らしたら、今日の修業は失敗とみなします。覚えていますね」 「厨房は清潔に!」 「好(よし)!」

2019-11-25 22:30:50
帽子男 @alkali_acid

くたくたになって下がる弟子を見送った師匠はひとり書斎に入り、座学に用いる料理の技法書と書き取りを開いて照らし合わせ、字の美しさに魅入る。 「まことに…天はダウバに二物も三物も与えた…このまま私のもとに留め置き、茶館を継がせたいが…」 "影の国の世継ぎはきっと影の国へ帰るだろう"

2019-11-25 22:34:16
帽子男 @alkali_acid

かたわらで煌めく砂粒が人型を織りなしてそう告げる。 「影の国…ダウバとオズロウの故郷…何か聞いているのですか」 "精霊の船団が、竜の帝の拓いた運河を通って、影の国へ出入りしている。黒の渡り手はすでにあそこに戻り、仲間の多くと離れた"

2019-11-25 22:36:05
帽子男 @alkali_acid

「オズロウが…あれほど友との交誼を重んじていたオズロウが」 "比翼の鳥のごとく付き添っていたあの半妖精の武人もすでにそばにないと聞く" 「何と…影の国には何があるというのですか」 "古い戦だ…かつて精霊王ははるか北辺に城塞を築き、西の果ての同胞を防ぎ止めた。だが精霊王の腹心は…"

2019-11-25 22:39:55
帽子男 @alkali_acid

「腹心とは誰です」 "精霊王の養い姫、または闇の女王という。闇の女王は、影の国にある火の山に眼をつけた。滅びの亀裂…精霊王程の力を持たぬ女王にとって、大地の核から発する熱を御することこそ西の果ての同胞に抗する唯一の術と思ったのだろう"

2019-11-25 22:42:29
帽子男 @alkali_acid

「女王と名を持ちながら、精霊の臣下はいなかったのですか」 "精霊王は、我等のようなまつろわぬ精霊が世界の北西に赴き、精霊同士の戦に加わることを禁じた。最も精霊王と養い姫に忠実で、命に逆らってでもかの地に留まった業火の精霊を除き"

2019-11-25 22:46:07
帽子男 @alkali_acid

「しかし今は精霊の船団が影の国に出入りしていると言っていましたね?」 "我等に禁を下した精霊王はもうこの世界のどこにもおらぬ…虚空の彼方から戻っても来ぬ。黒の渡り手が東を訪れ、竜の帝を鎖から解き放ったことで疑いようもなくなった"

2019-11-25 22:48:35
帽子男 @alkali_acid

「それで…?どうあなた方はどう変わろうとしているのです」 "今はまだ…確かめているに過ぎない。砂漠の精霊の船団も…暑き香料の地で人間の大王を手助けする密林の精霊の軍勢も…エルカノールの禁はまことに終わったのかどうかを" 「確かめ終えたら?」

2019-11-25 22:51:29
帽子男 @alkali_acid

"我等がおめおめ同胞たる業火の精霊が殺し尽されるに任せた戦…かの西と東の戦を…その時こそ再開しよう。西のものども、光の諸王と崇められるものどもに同じ苦しみを味合わせよう。オボロよ。きっと世界は震える" 「精霊が騒げば、竜はどうなります。ほかの力あるものは」 ”解らぬ。だが…我等は戦う”

2019-11-25 22:54:06
帽子男 @alkali_acid

「その戦とやらから随分経つのでしょう。光の諸王とやらに戦いを続けるつもりがなければどうします」 ”光の諸王が今どう考えようと、行いは取り消せぬ。同族殺しには報いがある。精霊さえもな” 「なるほど…で、旗頭は?精霊王が戻らず、闇の女王とやらももういないのでしょう?」 ”闇の女王はいる”

2019-11-25 22:58:45
帽子男 @alkali_acid

「ほう?まことですか?」 ”いるはずだ。黒の乗り手がいるならば、必ず闇の女王がいる。表に出てこないのであれば、黒の乗り手を表向きの旗頭としてもよい。オズロウ。あれはもはや精霊に近い。その縁者らしきダウバはなおだ” 「ダウバを…戦の旗頭に?」

2019-11-25 23:00:36
帽子男 @alkali_acid

”ダウバでは足りぬかもしれぬ。まだ定命のものの部分がある。だがほかになければ、あれがまつろわぬ精霊の…西の言い方をするならば、闇の総大将となる” 「だから…影の国の世継ぎは…影の国へ戻ると」 ”しかり。これは大いなる将棋の如きもの。黒の乗り手は騎士の駒”

2019-11-25 23:02:16
帽子男 @alkali_acid

「指し手は誰です」 ”解らぬ。だが我等、まつろわぬ精霊は歩。指し手のことまでは考えぬ…たとえ精霊の誰かが指し手になろうと思いあがったところで、所詮は駒として働いているにすぎぬのだ” 「何とも…面倒な企みが進んでいるものですね」 ”オボロよ。それでもあれを鍛えるか”

2019-11-25 23:04:32
帽子男 @alkali_acid

絹衣の麗人は、砂漠の魔神に肯った。 「無論。私は精霊の思惑など知ったことではありません。抜きんでた美童を達人に…鍛える…その喜びを味わうためならば、影の国だろうと光の諸王だろうと邪魔をさせません」 ”確かに、近頃ダウバは痩せてきたな…肉が落ちるとこう…やはり本来の目鼻立ちが…”

2019-11-25 23:08:15
帽子男 @alkali_acid

「そうなのですそうなのです。私もダウバはしっかりと肉がついていてこそと思っていましたが、ああして贅がとれた姿を見ると…あれはあれで…あなたの言にも一分ありましたね」 ”いや、そちらの言う心眼を持って本質を見よとは正に…我等精霊に定命のものの意味での視力はないが…”

2019-11-25 23:10:02
帽子男 @alkali_acid

美童好みの荼師とはぐれ精霊。 やはりあまり教育によくはない環境ではあった。

2019-11-25 23:11:16
帽子男 @alkali_acid

確かにダウバは激痩せし、骨の太さがあっても輝くばかりの美童に近づきつつあった。 「竜帝さ!ありがてえだ!オラ!前より早く動けるようになっただ!」 ”おっほっほ、では次のまじないをおしえるでおじゃる。これは少しだけ空間を捻じ曲げるがの、竜ならば本来使えておかしくない術でおじゃる”

2019-11-25 23:14:18
帽子男 @alkali_acid

「新しい術だか?覚えるとどんどん飯が進むだ…だどもオラ、最近食っても食ってもまだ腹減るだ…」 ”おっほっほ、竜とはそういうもの。この辺をぷらぷら飛んでおる精霊でも食えばしばらく腹持ちするでおじゃる” 「解っただ!」

2019-11-25 23:15:52
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