<Synposis> 世界テシナプスの人類は、滅亡の際にあった。南半球の魔界から攻め寄せた魔獣「ガクーガ」の侵攻により、人類の生存可能区域は大幅に狭まり、それでも尚人類は、互いの争いをやめる事ができなかったのだ。
2019-12-10 00:49:43魔術師オタマは、世界を旅して回っていた。あるところでは人々の悩みを解決し、あるところでは人々の命を脅かすガクーガを殺し、あるところでは人々同士の争いを治めた。全ては人類の生きる時間を一日でも長く延ばす為。それが己の贖罪であると信じて。これは、テシナプスの魔術師の物語である。
2019-12-10 00:52:48<Character> オタマ テシナプスに於いて最高峰の魔術師である「アークメイジ」にして、少数民族「ルート族」の女性。『赤蛇』の異名を持つ。見た目は幼いがその年齢は二百歳を超える。各地を渡り歩いて様々な問題を解決するがその動機は不明。曰く贖罪であるというがそれは何であろうか?
2019-12-10 00:59:464月1日、ショロ曜日。一昔前、この日は皆で面白可笑しい嘘をついてそれを楽しむという文化があったみたいだけど、生憎今あたしの周りから聴こえてくるこの銃声は全て本物だ。 ズダダダ、ズダダダ、ズダダダ あちらほちらからうるさい銃声が聴こえてあたしの聴覚を乱しまくる。1
2019-12-10 01:10:10あたしはそれを我慢しながら耳の後ろに手を当てて、このクソ戦場から逃げ遅れた人を探す。 ここはエイディア。ロードノル共和国とブレイピア王国という二つのイカれ大国の間に位置する不幸な土地だ。2
2019-12-10 01:15:09ここには今や採掘できる場所が大きく減ったシナプシウム鉱の鉱脈が多く眠っているという話があって、それを目ざとく聞いた二大国が我先にと侵攻を開始、その結果住民を無視して勝手に戦争をおっぱじめて、哀れこの土地の人間は難民と化してしまったというわけだ。まったく迷惑な話もあったもんだ。3
2019-12-10 01:17:42でこのあたし、テシナプスで最強と呼び声高い大魔術師、『赤蛇』のオタマ様は一体何をしてるのかというと、この大国のお偉いバカどもが始めたドンパチで苦しむ可哀想な民間人達を助けようとしているわけ。4
2019-12-10 01:21:51まあホントは偶然この話をスマホのニュースで聞いて、たまたま近くだったから気まぐれで助けてやろうと思ったわけだ。この件も大元を辿ればあの”変”が原因だからね。それに今この瞬間にも無関係な事に巻き込まれて人が死んでゆくのを黙って見過ごすほどあたしは冷血じゃない。5
2019-12-10 01:24:28だからこうして助けることにしたわけだ。で、話を戻そうか。 あたしは全身に駆け巡る魔力を耳に集中し、聴力を大幅にブーストさせた。あたしの専門は生命魔法だから五感の活性化は得意中の得意さ。6
2019-12-10 01:27:35これによって今のあたしは数キロ先の離れた場所で息を潜めて隠れている人の微かな呼吸音まで、さっきから喧しく響いてる銃声越しからでも聴くことができる。まさに今そうした呼吸を探知したところだ。 「よし」 あたしは今度はその方向に向かって掌を向ける。そして微細な魔力波を飛ばした。7
2019-12-10 01:30:00いわゆる探知魔法。これでサーモグラフィだかヘビのピット器官だかそんな感じに人間の状態を把握できるということだ。これによるとどうやら息をしているのは子供二人のようだ。一人は男の子、もう一人は女の子。他にも大人二人の反応もあったがそれは死んでる。大方二人の両親だろう。8
2019-12-10 01:33:27あたしはその場所に向かって走り出した。ほとんどが戦闘で破壊され廃墟と化している住宅街の中を、あたしは普通の人間が想像するより遥かに速い速度で走りぬける。魔力を脚に集中させて高速で走る事もあたしならば容易い。9
2019-12-10 01:38:16とはいえ、緑のロングヘアに側頭部から三本触角、緋色の瞳、大きな三角帽子に黄緑のカーディガン、ピンクのキャミソールに緑のスカート、こんな戦場に不釣合いなオシャレなチビ女が高速で駆けていたら目に付くのも無理は無いね。10
2019-12-10 01:41:46「なんだアイツは?」「子供?」「速すぎるぞ」「敵の魔術師かもしれん」 ちょうどあたしが渡ろうとした大通りではブレイピアとロードノルの両陣営が激しい撃ち合いをしてたみたいで、そこのど真ん中をあたしは堂々と突っ走るわけだから、そりゃ大騒ぎよ。11
2019-12-10 01:43:29そんでどうやら連中、どっちもあたしを攻撃する事にしたらしく自動小銃のフルオートであたしを撃ちまくりやがった。避けるのも面倒だったからあたしは気にせず大通りの先にあった三階立てのビルをひとっ跳びで乗り越えてその戦場からは姿を消した。12
2019-12-10 01:48:38しかし意外と連中の練度は良いらしいな。何発かはあたしの身体に命中して、弾丸が腹の中で激しいダンスをしながら内臓をグチャグチャにしてくれたらしい。別にこの程度で死ぬような次元で生きてるあたしじゃ無いし痛覚も魔力操作で抑えてるから何とも思わんけどちょっと腹が立ったね。13
2019-12-10 01:50:21少し仕返ししてやれとあたしは踵を返してその戦場に戻り、あたしを撃ったであろう野郎に向かって、あたしの腹の中にある弾丸を口からペッと勢いよく吐き出してやった。弾丸は音速に到達して命中、その野郎の頭をスイカみたいにはじけさせ、脳味噌のシャワーを周りの奴等に浴びせた。いい気味だ。14
2019-12-10 01:53:37それからあたしは当初の目的を思い出して子供達がいるであろう場所に向かい、到着した。どうも完全に崩れた家の中で下敷きの状態になってるらしい。死んだ両親は瓦礫から子供を守って死んだという事だろう。とにかく助けなければなるまい。15
2019-12-10 01:58:40「ふんッ」 まずあたしは両腕に魔力を集中させて、瓦礫の除去を始めた。骨と皮しか無さそうなあたしの細腕が重機でも持ち上げるのに難儀しそうなコンクリの残骸をホイホイと脇に放り投げる。 ホイ、ドジャン、ホイ、ドジャン、ホイ、ドジャン 16
2019-12-10 02:03:10「うわあああああ!」「あああああああん!」 突然自分達の場所のコンクリを投げてどかす音が聴こえたらビビるのも仕方ない。瓦礫の中から子供達の悲鳴が聞こえてきた。17
2019-12-10 02:06:16「おらッ」 あたしが最後の一枚の瓦礫をどかすと、そこには子供を庇って死んだであろう血だらけの両親の亡骸とその中に隠れる二人の子供の姿があった。子供は所々怪我してるみたいだけど幸い軽傷らしい。親御さんに感謝だな。18
2019-12-10 02:12:09「あああああん!」「わあああああ!」 あたしの姿を見るやいなや子供はとんでもな大声で泣き出した。まあそれは仕方あるまい。まだあたしの事を敵だと思ってるかもしれんからな。それよりこんな大声を出されちゃ誰かに聞かれる可能性が高い。早くこれをなんとかせんと。19
2019-12-10 02:14:37「おいお前ら落ち着け!……まあ確かに泣くのも無理ないけどさぁ。あたしは敵じゃない。お前らを助けにきたんだ」 一応説得はするが全然泣き止まない。やっぱりね。あたしあんま信用されるようなタイプじゃないからね。20
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