苦海浄土 石牟礼道子

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GMBO2008 @GMBO2008

今日帰宅途中に立ち寄った本屋に「ハーメルンの笛吹き男」が並べて置いてあったものだから買って帰る まず石牟礼道子の解説を読んだ 落ち着いて少し硬い文章 それが読む者の内にある何かに引っかかって振動させる 静かに、だがひとたび始まった振動は止むことはない #その余は後で読む

2019-10-05 23:19:49
GMBO2008 @GMBO2008

「苦海浄土」は読んだことがなかったよなあ

2019-10-05 23:19:50
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「戦争中に娘になった子じゃったけん。男のごたるかと思えばこまごまと気のくばる子で。あれは踊りの好きな子で、豆絞りの手拭いば肩にかけて、腰はすわっとったが身の軽うしてな。さつきしゃんが跳んでも、軽業の娘のごとして音もせんちゅうて、青年団の衆のいいよったが。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-11-23 01:18:10
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舟の上でも、踊りのさまをして、よううたいよった」 その青年団の踊りの晴れ姿の娘の写真を、彼女とおない年でであると名乗った私に、母親はいつもとりだしてみせるのである。頰のゆたかな唇のあどけない、けむるようなまなざしをした漁師の娘の青春をわたくしはおもいみる。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-11-23 01:18:11
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入院時所見•骨格は小にして栄養甚だしく衰え、意識は全く消失している。顔貌は老人様、約1分間の間隔をとって顔面を苦悶状に強直させ口を大きく開いて犬吠様の叫声を発するが言葉とはならない。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:28:31
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その際同時に四肢のChorea様Ballismus様運動を伴い軀幹を硬直させ後弓反張が認められる。体温38、脈搏数は105で頻にして小、緊張は不良、瞳孔は縮小して対光反射は遅鈍である。結膜は貧血、黄疸なくーー(略) 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:28:32
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入院経過•入院翌日より鼻孔栄養を開始、31日は入院当日同様の不随意運動を続けていたが、9月1日になると運動が鎮まり筋緊張はかえって滅弱し四肢に触れても反応を示さなくなった。体温39、脈搏数122、呼吸数33で一般状態は悪化した。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:28:33
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翌2日午前2時頃再び不随意運動が始まり狂躁状態となって叫声を発しこれを繰り返すに至ったが、フェルビバタールの注射により午前10時頃より鎮まり睡眠に入った。午後10時に呼吸数56、脈搏数120、血圧70/60㎜Hgとなり翌日午前3時35分死亡した。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:28:36
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彼の全身が異形とも思われるほど黒光りしていたのは、生涯の風呂ぎらいであったからである。風呂に入れとすすめる娘を軽侮するようにみていつもいったことは、 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:29:31
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「お前どんがごつ、病弱ごろならいざ知らず、今どきの軍隊のごつ、ゴミもクズもと兵隊にとっておらんじゃったころに、えらび出されていくさにとられた飛びきりの体ぞ。兵隊ちゅうても兵隊がちがうわい。風呂のなんの入らるるかい。ふやくる!」 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:29:32
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選び出されていくさにとられたとは青年の時期の日露戦役のことであり、風呂を使わなかったといっても彼は、蚤取り粉や、DDTのたぐいを、終生とりでのように、寝床の周辺に振りたててねむったのである。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:29:33
GMBO2008 @GMBO2008

彼の衛生思想および一風変わった生活信条には彼なりの条理が通り、それを貫こうとしていた。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:29:33
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ーー海ばたにおるもんが、漁師が、おかしゅうしてめしのなんの食わるるか。わが獲ったぞんぶん(思うぞんぶん)の魚で一日三合の焼酎を毎日のむ。人間栄華はいろいろあるが、漁師の栄華は、こるがほかにはあるめえが……。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:29:54
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「ただの酒呑みとは違うとったばい。女でもかなわんような働き者じゃったで。朝の水汲み、炊事、洗濯、薪とり、漁に出る、畑をする。病人の裾の始末。裾の始末ばなあ、やり終えらした。たいていの女もああは働かん。ムコどんの鑑のあるとすればあげん爺やんばい。」 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:30:38
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「指の先ほども他人に頭を下げん気の見えとったばい。生活保護じゃろと、水俣病の銭じゃろと、子供が欲しければ持って行ってしまえちゅうふうじゃった。昔このへんのトノサンの末孫じゃったげなで、そうした気位のあったばい。」 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:30:39
GMBO2008 @GMBO2008

なんばいうか。水俣病のなんの。そげんした病気は先祖代々きいたこともなか。俺が体は、今どきの軍隊のごつ、ゴミもクズもと兵隊にとるときとちごうた頃に、えらばれていくさに行って、善行功賞もろうてきた体ぞ。医者どんのなんの見苦しゅうしてかからるるか。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:31:22
GMBO2008 @GMBO2008

そるばってん爺やん。ほらほら、せっかくの焼酎がいっこぼれてしもうて、地(じだ)が呑んでしもうたが。こげんところでつっこけて、目えもどげんかあったんじゃなかろうか。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-23 00:31:24
GMBO2008 @GMBO2008

安らかにねむって下さい、などという言葉は、しばしば、生者たちの欺瞞のために使われる。 このとき釜鶴松の死につつあったまなざしは、まさに魂魄この世にとどまり、決して安らかになど往生しきれぬまなざしであったのである。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-26 22:46:02
GMBO2008 @GMBO2008

ここではすべてが揺れていた。ベッドも天井も床も扉も、窓も、揺れる窓にはかげろうがくるめき、彼女、坂上ゆきが意識をとり戻してから彼女自身の全身痙攣のために搖れつづけていた。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-30 00:01:30
GMBO2008 @GMBO2008

あの昼も夜もわからない痙攣が起きてから、彼女を起点に親しくつながっていた森羅万象、魚たちも人間も空も窓も彼女の視点と身体からはなれ去り、それでいて切なく小刻みに近寄ったりする。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-30 00:01:31
GMBO2008 @GMBO2008

嫁に来て三年もたたんうちに、こげん奇病になってしもた。残念か。うちはひとりじゃ前も合わせきらん。手も体も、いつもこげんふるいよるでっしょが。自分の頭がいいつけんとに、ひとりでふるうとじゃもん。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-30 00:03:42
GMBO2008 @GMBO2008

それでじいちゃん(夫のこと)が、仕様ンなかおなごになったわいちゅうて、着物の前を合わせてくれらす。ぬしゃモモ引き着とれちゅうてモモ引き着せて。そこでうちはいう。(ほ、ほん、に、じ、じい、ちゃん、しよの、な、か、お、おな、ご、に、なった、な、あ。) 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-30 00:03:43
GMBO2008 @GMBO2008

うちは、もういっぺん、元の体になろうごたるばい。親さまに、働いて食えといただいた体じゃもね。病むちゅうこたなかった。うちゃ、まえは手も足も、どこもかしこも、ぎんぎんしとったよ。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-30 00:03:44
GMBO2008 @GMBO2008

海の上はよかった。ほんに海の上はよかった。うちゃ、どうしてもこうしても、もういっぺん元の体にかえしてもろて、自分で舟漕いで働こうごたる。いまは、うちゃほんに情けなか。月のもんも自分で始末しきれん女ごになったもんね…… 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-30 00:03:46
GMBO2008 @GMBO2008

うちゃだんだん自分の体が世の中から、離れてゆきよるような気がするとばい。握ることができん。自分の手でモノをしっかりと握るちゅうことがてきん。うちゃじいちゃんの手どころか、大事なむすこば抱き寄せることがてけんごとなったばい。 「苦海浄土」 石牟礼道子

2019-12-30 00:04:52