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初めて泣いた作品って何?「キョロちゃん 第23話 きらきら星の涙」レビュー

テレビアニメ「キョロちゃん」の第23話、「きらきら星の涙」のレビューです。ネタバレ全開ですが、見たことがない方にもわかるように書いています。
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

一方パン屋での井戸端会議。「まだ屋敷に通い詰めてるらしい」と皆怪訝がる。 しかしマクモーさんというじいさんが裏事情を話す。 「昔は良い人だった。毎年自分の誕生日にはサプライズパーティを開いてくれた」と。 しかし「かわいい坊やが天国に行ってしまってから笑わなくなってしまった」という。 pic.twitter.com/xtItBQa68K

2019-12-18 14:50:30
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ここでようやくメヤニーさんのバックボーンが明かされる。Bパートまでちゃんと情報を伏せてるのがうまい。「亡き坊やの写真を見てため息をつく」といったありがち描写は一切挟んでいない。 マクモーさんが子供達に事情を聴かれて一瞬黙り込み、顔を背け遠くを見ながら話す芝居も細かい。 pic.twitter.com/wL9PGwkiLK

2019-12-18 14:50:35
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

新情報が判明し、やはり劇中でもそれに触れる。 「入るな」と言われていた部屋で坊やの写真を発見する。思わずメヤニーはたじろぐ。「僕の知らない子だね」とキョロが言う。 しかし深堀はせず「その子が持ってる茄子のいとこみたいなのはなに?」と聞く。 「バイオリンさ」と遠い目をして答える。 pic.twitter.com/yuYKF0hG46

2019-12-18 15:22:04
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

「この子はバイオリンが好きだった。一生懸命練習して、『ママの誕生日にきらきら星を弾いてあげる』って約束したんだ。でもとうとう約束を果たせなかった。遠い昔の話さ…」 話を聞いていたキョロは疲れて眠りこけてしまう。これがまた上手い。 pic.twitter.com/Dxhi3MyNAs

2019-12-18 15:22:05
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わざとらしい「説明台詞」になりそうなところを、聞き手のキョロが眠そうにして話をあまり聞いてなさそうにすることで、メヤニーがつい想い出にふけって独り言を漏らしてしまった、というニュアンスにしている。 年配女性を数多く担当してきた谷育子氏のしみじみとした名演技が光る。 pic.twitter.com/2Dm63ZRiQO

2019-12-18 15:22:07
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眠ってしまったキョロを泊めてあげるメヤニー。 「もう見るまいと決めていたのに…」と一人呟く。 坊やの弾く「きらきら星」が流れる。「きらきら星」の単純なメロディがよけい切ない。 pic.twitter.com/6BhRGyO88h

2019-12-18 15:22:08
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

一週間後、キョロはマクモーとばったり会い「バイオリンってどんな音がするの?メヤニーさんちにバイオリンを持った男の子の写真があったんだ」と言う。 「そうか…そうだった…」とマクモー。 マ「いいことを思いついた。協力してくれるかい?」 キ「?」 ここで場面が変わる。 pic.twitter.com/ZnqlnM42Vz

2019-12-18 15:22:10
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

この回は、大人の渋い役回りがいい。マクモーさんがバイオリンのことを聞いた時に、一瞬だけ黙ってパチパチと「まばたき」をする。そしてしみじみと「そうか…」と呟く。 作画に力を入れられない当時のテレビアニメで、僅かな描写ではあるがしっかり心理の伝わる芝居が施してある。 pic.twitter.com/v8IuYXgsnI

2019-12-18 15:22:13
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

翌日、「キョロちゃんのやつ何やってんだい。折角作ったのに…」とボヤくメヤニーの元にキョロちゃんがやってきて 「長い間ありがとう。僕用事が出来たからもう来られないんだ。さよなら!」と言って、反論する隙も与えず去ってしまう。 pic.twitter.com/WRa3O4AVZg

2019-12-18 15:22:15
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「ああ来なくて結構せいせいしたよ!」ともぬけの空になったドアに向かって叫び、「はぁ…」と溜息をついて座り込む。 子供達が「ケンカしたらしい」と噂する。そこにマクモーのスクーターに乗ったキョロが来て「良いものを借りにいくんだ」という。 「今度はマクモーさんか。かなりの老人好きだな」 pic.twitter.com/89z3qKAZgj

2019-12-18 15:22:16
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ナレ『キョロちゃんが来なくなってからひと月が経ちました。メヤニーさんは元通り、一日中不機嫌でした』 「ああまずい」と言いながら目玉焼きを食べるメヤニー。枯れた花瓶が目に入り、キョロちゃんが居た日々がフラッシュバックする。 「ふん、あれから二度と来やしない」とぼやく。 pic.twitter.com/BK3pyyq20c

2019-12-18 15:22:18
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

一方、パン屋の井戸端会議「最近キョロちゃん見ない」「なんか隠し事してる」とのこと。 そこへキョロがマクモーとやってきて「作戦がある。手伝って」と持ち掛ける。キョトンとする皆 pic.twitter.com/3faqwCLsJ3

2019-12-18 15:22:19
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そして完全に元通りになったメヤニーさん。 ナレ『またいつものように朝がやってきました。メヤニーさんは今日も不機嫌でした』 メ「ああなんて憂鬱な朝だ」完全にAパートと同じである。 そこに子供達が呼ぶ声が聞こえてくる。屋敷のエントランスに向かうメヤニー。「近づくなと言ってるだろう…」 pic.twitter.com/PWc8vFuPFo

2019-12-18 15:22:20
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

「キョロちゃん…」思わずはっとするメヤニー。黙って「きらきら星」を弾き始めるキョロ。 下手くそなメロディに友達「お世辞にもうまいとは言えない…」マクモーさんが「しっ」と嗜める。 pic.twitter.com/bug14InMIb

2019-12-18 15:22:22
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

周囲には下手くそに聴こえる「きらきら星」が、メヤニーには美しく聴こえる。キョロの姿が坊やの姿と重なる。 『ママの誕生日にきらきら星弾いてあげるね。約束だよ』メロディは完全に美しい音色になっている。 pic.twitter.com/UvGrQApXVf

2019-12-18 15:22:30
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ゆっくりと会談を降りてくるメヤニー。 「キョロちゃん…」 「メヤニーさん、僕からのプレゼントだよ」 すると皆が「お誕生日おめでとう!」と言う。 驚くメヤニーにマクモー「忘れていましたね、私はちゃんと覚えてましたよ」 pic.twitter.com/j1AuhLIm4H

2019-12-18 15:22:36
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

「この一か月遊びにも行かずずっと練習していた」とのこと。 「もっと練習するからね」と言うキョロの頭を撫でるメヤニー 「なんて下手くそなバイオリンだい…」 驚くキョロ「メヤニーさん、笑ってる…」 「上手く笑えやしない、何十年ぶりだから。ありがとう、キョロちゃん…」 そう言って抱きしめる pic.twitter.com/WMC1N65du2

2019-12-18 15:22:42
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

もう勘弁してほしい。このツイートを書いてる間も号泣である。 ここでメヤニーさんの笑顔を映すのにカメラの回り込みが指示されてるのがいい。 決して上手い作画ではない。当時の制作状況下で精一杯描かれた回り込み。 なんとか特別な見せ方をしようと努力されている。

2019-12-18 15:22:43

メヤニーさんの笑顔を、最後の最後まで取っておいて、更に回り込みで映す演出。
この回の心理描写は本当に素晴らしい。余計だったり野暮だったりやりすぎだったり、そういったことが全くない。
非常に落ち着いたトーンで、必要な情報が的確なタイミングで描かれる。

齋藤 雄志 @Yuusisaitou

ナレ『その日からメヤニーさんの屋敷には子供達の声が溢れ、もう二度と、幽霊屋敷と呼ばれることはなかったということです』 本編ではこの後ナイスなオチがあるが、それは是非ご自身で確認して頂きたい。各配信サイトで見れるはずだ。 あらすじを知っていても何度見ても泣けること請け合いだ。 pic.twitter.com/Lh5quvIadR

2019-12-18 15:22:44
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「きらきら星の涙」再論考

齋藤 雄志 @Yuusisaitou

脚本のペース配分(構成)が三幕構成で美しい 第一幕、Aパートのメヤニーとの出会い、パン屋での井戸端会議までの5分間でしっかり物語の前提をセットアップし、第二幕は屋敷に通い詰めるところから始まる。 本編約20分中、ちょうど半分のミッドポイント、11分辺りでメヤニーのバックボーンが明かされる pic.twitter.com/3VIlQUh4jG

2019-12-18 15:22:45
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17分目で第三幕、種明かし。コメディアニメらしく「オチ」も忘れない。 前述した通り、少ない作画リソースながら的確に演出、人物の芝居、カメラワークが施されている。 本編では栗コーダーカルテットの劇伴がまた素晴らしい。バラエティ番組でもよく聞き、サントラはプレミア価格で有名だpic.twitter.com/INK6hTWoOi

2019-12-18 15:22:46
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齋藤 雄志 @Yuusisaitou

テレビアニメの構成の類型として、「AパートとBパートで同じことを繰り返しつつも少し変化がある」という回がある。 自分はこのパターンが好きで、この回は典型的なそれだ。 メヤニーさんの日常が機械的に描かれ、また戻ったと思ったら、劇中で経た経験によって変化する。

2019-12-18 15:22:47
齋藤 雄志 @Yuusisaitou

口数少ないメヤニーさんの心理の移り変わりを、言葉でなく画で表現しているのも渋い。同ポの反復と対比を上手く活用している。 pic.twitter.com/AQu8FtDlKI

2019-12-18 15:22:48
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