単なる感想文と、評論とを隔てているものというのは、トレードオフの可視化なのだと思う

結果を見て、それをほめたり、叩いたりする。どれだけ美麗な文章でそれを書いても、それは単なる感想文であって、どれだけそれを読んだところで、エンジニアが持っている正義とか、その人が対峙したであろうジレンマだとか、伝わらない。
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medtoolz @medtoolz

単なる感想文と、評論とを隔てているものというのは、トレードオフの可視化なのだと思う。分野の文理を問わず、評論を名乗るのならばこれをやってほしい

2011-06-02 07:43:53
medtoolz @medtoolz

日野自動車がトラックのモデルチェンジをしたときに、軽量化とコストカットの要求が現場から出て、設計者はシリンダーを削る、という賭に出たんだという。伝統の直6を削って、直列5気筒の新しいエンジンを設計して、会議室は当初、無謀すぎると紛糾したんだと

2011-06-02 07:45:11
medtoolz @medtoolz

軽量化の方法には、もちろんもっとゼロ戦的な、部分、部分のパーツを極限まで軽量化するような、裏を返せば設計者がそれほど頭絞らなくて言いやりかただって想定できたのだけれど、直列5気筒を実際に作った結果として、振動こそ増えたけれど、エンジン全体の振動の支点がずれたのだと

2011-06-02 07:46:34
medtoolz @medtoolz

振動の中心点がずれた結果として、シャーシ側の対策パーツの点数を減らすことができて、これは結果として大成功だったのだそうだけれど、こういうのを「大胆な設計によって軽量化とコストカットを達成した」と書いてしまうと、それはどれだけほめても単なる感想文に過ぎない

2011-06-02 07:47:35
medtoolz @medtoolz

評論家を名乗る人なら、こういう状況を見たときに、是非とも脳内リバースエンジニアリングみたいなものを見せてほしいなと思う。同じ状況に自分が置かれたとして、軽量化の手法には他にどんなやりかたが考えられるのか。それぞれの利点と欠点は何か。設計者はどうしてこの手法を選択したのか

2011-06-02 07:48:44
medtoolz @medtoolz

選択した結果が成功であれ、失敗であれ、その成否を結果から逆算するのは、評論として卑怯だと思う。「リバースエンジニアリングできるのが評論家」という定義の流れからは、やっぱりプロダクトは、エンジニアとしての正義の視点から論じてほしい

2011-06-02 07:49:57
medtoolz @medtoolz

「実際の設計」シリーズという畑村洋太郎が昔書いた本には、そういうのを「芋設計」と呼んで批判していた。結果オーライでも、設計者の正義に照らしてよくない設計。一つの部品にいくつもの機能を兼ねさせているとか。パッキンを、気密の目的でなしに、クッションとして用いている例であるとか

2011-06-02 07:51:05
medtoolz @medtoolz

それをやることで、たしかにその設計者は部品の節約と、ある種の機能、コストカットや軽量化といった成果を上げたかもしれないけれど、これはたとえば、将来の拡張にその設計が対応できないとか、その製品を修理するときに、部品本来の使われかたをしていない部品を代替品で補うとトラブルになるとか

2011-06-02 07:52:09
medtoolz @medtoolz

どの分野にも、たぶん技術屋の正義みたいなものがある。設計者に降りかかる要求と、実際に作れるものとのトレードオフを乗り越えたエンジニアは、こんどはたぶん、成果を成し遂げたその設計が、果たしてエンジニアの正義に照らして正しいものなのか、自らを問うことになる

2011-06-02 07:53:39
medtoolz @medtoolz

もちろんそれは結果優先であって、「不正義だけれど優れた設計」が、世の中の大部分で、正義の設計をまじめにやるとろくでもない製品になってしまうのだろうけれど、それでもなお、たぶんどの分野にも正義があって、評論をする人は、やっぱり成果でなく、正義の視点からそれをやらないといけない

2011-06-02 07:54:44
medtoolz @medtoolz

結果を見て、それをほめたり、叩いたりする。どれだけ美麗な文章でそれを書いても、それは単なる感想文であって、どれだけそれを読んだところで、エンジニアが持っている正義とか、その人が対峙したであろうジレンマだとか、伝わらない。

2011-06-02 07:56:00
medtoolz @medtoolz

兼坂宏のエンジン評論の文章には、どうしてこの場所のボルトはこの太さでないといけないのか、どうして結束バンドの本数は4本であって、5本ではいけないのか、そういうのが書いてあったように思う。その上で、たとえ優れた性能を出しているものであっても、「この設計は正義でない」と書いてた

2011-06-02 07:57:22
medtoolz @medtoolz

本田勝一の文章の書き方を書いた本(題名忘れた)には、全ての読点、句点には、そこにそれが置かれる理由が説明できるのだ、なんて書かれていた。だからたぶん、作家の人たちが行っていることだって等しく「設計」であって、そこにあるトレードオフと、作家の正義に照らした評論というのができる

2011-06-02 07:58:57
うへ” @ub7637

@medtoolz 『日本語の作文技術』? 非常に参考になる本でした

2011-06-02 08:07:30
medtoolz @medtoolz

@ub7637 母親からは「あれは必ず読め」と言明されましたね。。

2011-06-02 08:08:20
うへ” @ub7637

@medtoolz はっきり申すと、本多勝一が思想的にもジャンーナリスト的にも大嫌いなのですけど、それでもあの本は、一生本棚に飾っておいてもなんら恥じない名著だと思います。//『評論というものは、本来正義を表現するためにあるのだと思う』←久々に言葉に感銘を受けました

2011-06-02 08:14:01
medtoolz @medtoolz

@ub7637 私も本田勝一それ自体は、もう大っっ嫌いなのです。。。でも日本で一番正確な文章を書く人なのだと。

2011-06-02 08:14:55
Fennec Fox @fenneggie

@medtoolz プログラム設計では「可読性」「汎用性」「拡張性」あたりがないと実用にならない訳ですが、そういうのを引っくるめて「必然性」なんですよね。初見のシステムや言語そのものを見る時、「なぜこの部品がここに必要だったのか」という見方をすると理解が早い。

2011-06-02 08:08:12
medtoolz @medtoolz

@fenneggie ソースにしたところで、たぶん「評論」が成り立つんだろうなと。今は商業アプリケーションはブラックボックスだし、リバースエンジニアリングは犯罪ですけれど。。

2011-06-02 08:08:58
medtoolz @medtoolz

先代に比べて、この部品がプラスチックになった。「軽量化の試みだ」「コストカットの影響だ」なんて書くのは誰にだってできるし、そういうのは評論じゃない。じゃあ軽量化、コストカットの要求が出て、他にどんなやりかたがあるのか。自分ならどうするのか。その手段は果たして正義なのか。

2011-06-02 08:00:24
medtoolz @medtoolz

そういう意味で、感想文書いてる人は無数にいるけれど、評論書いてる人はすごく少ないというか、ほとんどいない気がする。自動車評論家、と呼ばれる人にしたところで。もちろんそもそもそういうのを求められていないのかもしれないけれど。

2011-06-02 08:01:51
medtoolz @medtoolz

自動車だと、兼坂宏の大昔のエッセイ(手に入らない)とか、最近呼んだ由良拓也のエッセイ集は、自分が読みたいものがずいぶん書いてあった気がする。押井守の軍事語りは、分野が違う人だから、果たしてそれが正しいのかどうかはともかくとして、あの人なりの正義に照らして語るから面白い

2011-06-02 08:04:09
medtoolz @medtoolz

評論というものは、本来正義を表現するためにあるのだと思う。それをそのまま言葉にすると、じつに陳腐でありきたりなものになるのだけれど、あるプロダクトを通じて、設計者の心理や哲学を逆算して、ジレンマを可視化して、積んだ先に、読者に正義を想像させるような

2011-06-02 08:08:03
金平 恵介 @KKanehira

@medtoolz おはようございます。福野礼一郎なんかも近いんだけど、やっぱりどんどん居場所が無くなって行ってしまいますね、そういう人はww

2011-06-02 08:14:14