エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~7世代目・その9~

白の錬金術師、OUT~ ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ
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帽子男 @alkali_acid

"おっほっほ。やはり。アンググよ。精霊王の鎖を断ち切り、麿を解き放ったのはそちであろ" 頭上から竜の帝、敖閃がどこか楽しげに問うと、アンググと呼ばれたダリューテは静かに息を吸い、吐く。 「そうだ。私がお前を解き放った。東の果ての竜の帝を…西の果ての光の諸王にとっての災いを」

2020-01-03 15:28:34
帽子男 @alkali_acid

"やはり。そちはあの娘によく似ておるでおじゃる。精霊王の養い子、精霊姫と呼ばれ、後に闇の女王となった娘に" 「…私は闇の女王を討った女だ」 "おっほっほ。そうであろ。そちでなくてはとても倒せぬでおじゃる。そちはあのオズロウの相棒、アキハヤテにも似ておるの" 「私が…ロンドーにだと…」

2020-01-03 15:31:22
帽子男 @alkali_acid

"麿はちっさきものの細かな違いなど構わぬがの。ところでダウバめは釜を抑えておけと頼んだがの。もう釜はなくなった故帰るでおじゃる" 竜の帝は天上にあって身をうねらせると、船をも呑まんほどの大きな首を、巣山の方角へと向けた。 「敖閃!父様はいずこじゃ!」 "おっほっほ。知らぬでおじゃる"

2020-01-03 15:38:44
帽子男 @alkali_acid

訊ねて答えを得られなかったキージャはむっとしつつ、ダリューテを助け起こすと、いまいちど敖閃をねめあげる。 「そなたなら空から探せるのじゃ!」 "おっほっほ。面倒でおじゃる" 「西か!東か!北か!南か!探ってまいれ!」 "お断りでおじゃる" 「父様の命がかかっておるのじゃ!」

2020-01-03 15:41:06
帽子男 @alkali_acid

"麿はやんごとなき雅な竜故、つまらぬことはせぬでおじゃる。そちらちっさきもののことは、ちっさきもの同士で済ますでおじゃる" 「敖閃!」 "そちらちっさきものは、そのつまらぬ釜だの剣だの作ったのであろ。ほかにも道具は幾らでもあるでおじゃる。あまりしつこくすると麿は世界を滅ぼすでおじゃる"

2020-01-03 15:45:40
帽子男 @alkali_acid

五色の竜はあっさりと塒(ねぐら)に帰っていった。 黒の繰り手は怒り喚いて地団駄を踏んだが、かたわらから注がれる仙女の眼差しに気づき我に返った。すでに相手はもとの貴婦人らしいいでたちに戻っている。 「…竜の帝は精霊の王との誓いに縛られている。西へは行けぬ」 「ならば西か!」

2020-01-03 15:48:27
帽子男 @alkali_acid

キージャははっとなった。 「だが西だけでは頼りない…あとどれほど暇があるかもしれぬのに…」 「竜の帝は、この影の国の太守三代と交わりがあったが、わけてもお前の父たる黒の料り手ダウバとの縁は深い。あやつの言葉をいまいちどよく吟味してみよ」

2020-01-03 15:53:02
帽子男 @alkali_acid

「…むむ…敖閃はこなた達が剣や釜を…作ったと申しておったのじゃ…なれ作ったのはこなたではない。父様でもない…曾祖父様(ひいじじさま)、黒の鍛え手マーリじゃ…マーリ…マーリの工房はこなたの工房の隣にあるのじゃ!」

2020-01-03 15:55:34
帽子男 @alkali_acid

影の国の世継ぎは翼ある獣を二匹呼び寄せると、妖精の女奴隷を伴って火の山を望める、曾祖父の仕事場へと急いだ。 空の旅はいつのもまして素早く進み、まもなく閉ざされたドワーフ様式の鍛冶と細工の館に到着する。 かつて黒の鍛え手が、小人の七大悪人とともにおおいに技を切磋琢磨した地だ。

2020-01-03 16:00:58
帽子男 @alkali_acid

主なき今も、命なきしもべ、がらんどうの従者によって塵一つなく保たれている。 キージャが長い脚で飛ぶが如く駆け、中へ入ろうとすると、ダリューテは後へ続きながら話しかける。 「ダウバはお前を呪いから解き放とうとしている…我等のなすことは、その努力を無にするかもしれぬ…心得ておけ」

2020-01-03 16:03:12
帽子男 @alkali_acid

「構わぬのじゃ。父様が大事じゃ」 内部は広い。ここも割れた巨釜と同じく、外より中が大きいという、精霊の魔法の働きによって作られた建物なのだ。 「…マーリ…曾祖父様…こなたに道を示してくりゃれ…父様へ通じる道を…」 応えて何かが唸る。回廊の向こう。はるか闇の奥で。

2020-01-03 16:05:14
帽子男 @alkali_acid

ためらわずそちらへ向かうと、円形の部屋に八つの甲冑が展示してある。 正面にあるのは七尺ある巨躯の男のためのもの。剛弓と大剣を携える。 「これは誰じゃ…誰のための甲冑じゃ」 黒の繰り手が問うと、仙女は不機嫌そうに応じる。 「知らぬな。左隣は恐らく、ナシール、黒の癒し手のための具足」

2020-01-03 16:09:54
帽子男 @alkali_acid

ほっそりした長躯のための鎧兜で、暗い膚をした縫匠が指を伸ばして触れると構造が組み変わり四つ足の狼の形になる。 「…ならばその左隣は」 「楽器を見て解らぬのか?」 横笛ミルドガードと琵琶ナクハイアルを携え、小さな三頭の龍を従える。どこかたおやな輪郭。

2020-01-03 16:12:49
帽子男 @alkali_acid

「ラヴェイン!黒の歌い手じゃ…ならばその隣は…」 剛鎚を携え、多種多様な工具を背負う。左右ふぞろいの腕をした傴僂の姿。 「黒の鍛え手マーリその人じゃ!」 「いかにも…巧みにして力強きあやつだ」

2020-01-03 16:14:03
帽子男 @alkali_acid

五つ目は無数の飛刀(なげないふ)をもてあそび、足元に竜頭を舳先に持つ帆船の模型。 「これは帆船エシファエンの雛型じゃ…ならば祖父様(じじさま)、黒の渡り手オズロウじゃ!」 「くつろいだ格好があやつらしい」 さらに左隣は巨釜を担ぎ、包丁や二股串を携えた大兵。俎板を盾の如く側に置く。

2020-01-03 16:17:31
帽子男 @alkali_acid

「大俎板カシュキス…父様が置いていったのじゃ…黒の料り手ダウバ…なれど父様はまだ死んでおらぬ!なぜここに!」 「落ち着け、その左隣を見よ」 砂時計型の女のようだが、背から蜘蛛の脚が伸び、糸を周囲に伸ばす。 「こなたじゃ…」 「ああ…マーリはお前が生まれるのを知っていたのだ」

2020-01-03 16:19:16
帽子男 @alkali_acid

「面白いではないか!」 キージャはみずからのために作られた甲冑に近づき、乳房をかたどるように双丘をなす胸当てに手で触れる。 「こなたはここまで大きくないのじゃ」 「まだ大きくなるかもしれぬな」 「重くてめんどうじゃ…なれど…」 鎧兜が黒く輝き縮むと、一つの指輪に変わって宙に浮かぶ。

2020-01-03 16:22:02
帽子男 @alkali_acid

「これは…父様がはめていたものと同じ…いや…少し違う…」 指輪は脈打っていた。まるで誘うように。思わず掴み取ろうとする影の国の世継ぎの後ろから、今度は仙女が肩を掴んで制する。 「キージャ。その指輪は呪いがかかっている」 「ならば父様の指輪とつながっているのじゃ。きっとそうじゃ」

2020-01-03 16:24:31
帽子男 @alkali_acid

「お前が手にすれば、呪いから解き放とうとしたダウバの願いを踏みにじることになる…そしてまた、お前もまた、私の敵になる」 「構わぬ。呪いなど蹴散らすのじゃ」 「お前は強い。過去六代の誰より強い。それでも呪いに打ち勝てるとは限らぬ…よく考えたうえで決めよ」

2020-01-03 16:28:37
帽子男 @alkali_acid

キージャは振り返り、ダリューテを見つめた。 「ダリュは、こなたを信じぬのかや」 「私は多くの黒の乗り手が呪いを受け入れ、挑み、敗れるのを見てきた。私もまた呪われている…呪いを…愛しく思う時さえある程に…キージャ。故に私はよき忠言役とはなれぬ…それでも」

2020-01-03 16:41:33
帽子男 @alkali_acid

妖精の女奴隷は影の国の世継ぎを見つめ返す。 「それでも…私は…」 「心配は無用じゃ」

2020-01-03 16:46:18
帽子男 @alkali_acid

黒の繰り手は指輪をはめた。先祖伝来の呪具の力を分け持つ品を。 乙女そっくりの姿態を持つ丈夫は背筋をのけぞらせると、双眸を複眼に変え、耳まで裂ける口を開いて牙を覗かせ、背から蜘蛛の足を生やして蠢かせる。 「ああ父様…父様…ああああ!!」 嘆きの叫びが迸る。

2020-01-03 16:49:27
帽子男 @alkali_acid

「キージャ…」 主人は奴隷を抱きすくめ、たがいのたわわな乳房を圧し潰し合わせると、苦しげな息を吐いた。 「ダリュ…父様は…父様の肉の器は滅びた…」 「ダウバが…」 「釜の中の…時の流れが…すこうし…遅くなっていた…父様…ずるいのじゃ…」

2020-01-03 16:51:50
帽子男 @alkali_acid

「そう…か…」 「こなたは指輪を取り返す」 「ならぬ…」 「あの指輪を持つものは、影の国とその奴隷の命運を握る。捨て置けぬのじゃ」 「ダウバは…何の考えもなく命は捨てぬ。きっと指輪のことも工夫がついていよう」 「なれど父様は、マーリの工房に思い至らなかったのじゃ」

2020-01-03 16:54:36
帽子男 @alkali_acid

「そうだ…いつも…マーリも…オズロウも…いやナシールの頃から…黒の乗り手はいつも何かをしくじる…呪いに抗おうとして…私もまた…」 「そうじゃ。また父様が指輪をいかように処するつもりであったとしても、こなたは取り戻す。あれは影の国にあるべき品じゃ」

2020-01-03 16:58:19
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