アイヌ(日本の先住民族)はヨーロッパ系?それともアジア系?ーJCVでわかるアイヌの成り立ち

昔、「アイヌは白人系である」という説が唱えられたが、現在この説を主張する学者はほとんどいない。しかし、アイヌが持つJCVの系統は、白人説を部分的に支持するものである。
先住民族 ゲノム型 アジア系 ヨーロッパ系 分子系統解析 アイヌ ヒト集団の成り立ち JCウイルス 白人説 人類移動
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ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J
私たちは以前、健常者の尿中に排泄されるJCウイルス(JCV)を指標としてアイヌの起源を解析した。その結果、大変興味深い知見が得られたので、今回一般の方々にやさしく紹介する。なお、JCVについての一般的なことや、何故JCVが人類移動や集団の成り立ちの解明に役立つのかを知りたい方は日本語の原著
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論文「アイヌから検出された JC ウイルス DNA の系統解析—アイヌの起源と多様性の解明へ向けて—」の序論をご参照ください。同論文(PDF)は以下のサイトで自由にダウン・ロードできる。 jstage.jst.go.jp/article/asj/11…
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尿収集】戦前、アイヌは社会的にも政治的にも差別された。加えて、戦前の人類学者たちは人類学的な調査に際し、アイヌを非人道的に扱った。その帰りには、アイヌの伝統的な文化財を安く買いたたいて持ち去った。私たちが二風谷アイヌ資料館を訪れた時、館長の故萱野茂氏は「来るときは人類学者、帰る
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ときは経済学者」と彼らを揶揄した。このように、アイヌの心には人類学者に対する不信感が根強く残っており、私たちが彼らから尿を収集することは難しかった。アイヌからの尿収集は日常的にアイヌに接している骨董品店主、美容師などの協力で可能になった。北海道の4地域(浦河、白老、旭川、幕別)で
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計31名のアイヌから尿が採取された(図1)。【JCV DNAの検出】JCVゲノムの部分配列(長さ、610塩基対のIG配列)を検出するPCRによって、浦川では13検体のうち8検体(62%)から、白老では5検体のうち3検体(60%)から、旭川では12検体のうち2検体(17%)から、幕別では1検体のうち1検体(100%)からJCV pic.twitter.com/0v4B686ikJ
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DNAが検出された。合計では、31検体のうち14検体(45%)からJCV DNAが検出された。【系統解析】全ての陽性検体から全長ゲノムのクローンを単離することを試みた。その結果、表1に示すように、11検体から全長クローンが得られた。これらのクローンに対しては後述のように詳しい系統解析を行った。全長 pic.twitter.com/aXxktBhGbH
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クローンが得られなかった場合は、先ほど得られた部分配列の増幅断片の塩基配列を決定し、系統解析により、亜型分類を行った。表1に全ての陽性検体に含まれたJCV DNAの型と亜型を示した。この表には検体尿の採取地(幕別は尿ドナーの出身地)、ウイルス・ゲノムの分離法、塩基配列が報告された文献も示
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した。全ての陽性検体に含まれるJCVの型と亜型が決定された。【検出されたJCVゲノム型】アイヌからのJCVゲノム型検出には三つの特徴がある。第1の特徴は、アイヌから多様なJCVの型と亜型が検出されたことである。このことは、日本列島北部へ渡来した複数の集団がアイヌの形成に関わったことを示唆して-
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いる。第2の特徴は、アイヌからA型に属する亜型(EU-cとEU-a1/Arc)が頻繁に検出されたことである(特にEU-cの検出率が高い)。ところで、A型JCVは主としてヨーロッパと地中海沿岸地域の住民、それに加えてアメリカ大陸のヨーロッパ系移民から検出される。このことから、A型はヨーロッパ系の人々に
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特有な型と考えられた。ところが、A型JCVは一部の日本人や韓国人、東北アジア先住民(ナナイ、コリヤーク)、北極地域先住民(イヌイット)、そして日本の先住民(アイヌ)からも検出された。こういう状況下で、A型JCVに関するグローバルな、精度の高い研究が必要となった。この研究の成果を、添付した
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図2「A型JCVの分化と移動」で表した(詳しくは、まとめ「JCウイルス(JCV)から見たヨーロッパ系の人々の分岐と移動…」を参照)。JCVはいつもヒト集団と共に行動してきたから、この図はA型JCVを保有するヒト集団の分化と移動を示していると言える。即ち、アフリカを出た後、A型JCVを保有するヒト集団 pic.twitter.com/aKrNFjzIlX
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の主要な部隊はヨーロッパへ向かったが、一部はアジアを横切り、東北シベリアやアメリカ大陸の北極圏、そして日本・韓国に渡来した。東方への移動は三度あった。第1波はEU-cで辿れる移動であり、これが一番古い。その後、EU-a1/ArcとEU-a/JKでそれぞれ辿れる第2波と第3波の移動がほぼ同じ頃起きた。
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アイヌの形成には第1波と第2波の移動が関わっていた。アイヌからのJCV検出の第3の特徴は、B型に属する複数の亜型―MY-b、MX、MY-x―が検出されたことである。ところで、B型は➀アフリカ系のAf2、②ヨーロッパ系のB1-c、③アジア系のB1-a、B1-b、B1-d、B2、B3-a、CY、MY、SC、④オセアニア系の2E、8A、8B
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など、多様な亜型を含んでいる。そして、多くの亜型はいくつかの地域またはヒト集団に特異的な固まり(サブグループと呼ぶ)に分かれる。このことが顕著なのはMYである。MYは最初日本と韓国で検出されたが、その後イヌイットを除くアメリカ先住民からも検出された。全長配列に基づく系統解析によって、
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日本、韓国人のMYとアメリカ大陸各地の先住民のMYは系統樹の上で別々の固まりを形成することがわかった。さて、本題に戻る。アイヌから検出されたのは、MY亜型の2サブグループ(MY-b、MY-x)とMYに近縁の亜型、MXである。ここで、これらの亜型やサブグループの系統関係を系統樹(図3)に示す。 pic.twitter.com/WHwmzzuplp
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この図ではB型の系統樹の内、MXとMYの部分を切り抜いていることをご承知ください。MY-bとMY-xは他の集団(MY-b:本土日本人、韓国人。MY-x:韓国人)からも検出される。実は、2004年にCuiらが発表した論文で記載されている2株―255Aと256AーはMY-xに属することを私たちが発見した。Cuiらは、255Aと
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256Aはアメリカ先住民に関連したゲノム型とした。しかし、255Aと256Aとアイヌ由来株(AN-1)がひとつのクラスターを形成するので(図3)、これら3株は東北アジア系とみなすべきである。一方、MXはアイヌ以外の民族からは検出されていない、新しい亜型である。【考察】以上から、アイヌの成り立ちを
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推定すると、太古においてMY亜型のサブグループ(MY-b、MY-x)やMYに近縁の亜型(MX)をもつアジア系の集団が日本列島北部に渡来し、EU-cやEU-a1/ArcなどのA型JCVを運んだヨーロッパ系の集団と共にアイヌを築いたと推定される。しかし、「わずか14のJCV株の解析によって、アイヌの成り立ちについて議論
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するのは不遜である」という意見もあるだろう。多分、JCVを使ってアイヌの成り立ちを解析する研究者はもう現れないだろうから、ここで何らかの結論を出さねばと苦悶して、思いついたことがある。今回アイヌからの検体尿の採取は4ヶ所で行われた(ただし、幕別は出身地)。そこで、あるJCVゲノム型
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(亜型またはサブグループ)が複数箇所で検出された場合、そのゲノム型はアイヌとの関連性ありと考えてもいいという基準を設けてみた。表2を見ると、A型のEU-cが2ヶ所(浦川、白老)で、B型のMXが3ヶ所(白老、旭川、幕別)で検出された。アイヌから検出されたJCVゲノム型を、このような基準で篩に pic.twitter.com/7A9rVk1DSt
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かけても、ヨーロッパ系のゲノム型とアジア系のゲノム型とが残った。このことから、ヨーロッパ系の人々とアジア系の人々が中核となってアイヌが形成されたと推定される。1965年頃までは、彼らの形態的な特徴と伝統的な風習から、アイヌは白人系であるという説が有力だったが、その後白人説は排除され、
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J
今や白人説を唱える人類学者はいない。JCVを用いた新奇な手法によって、白人説が装いを新たにして蘇ったと言える。今後大規模な調査によって、アイヌがもつJCVの系統の全貌が明らかになり、その結果、アイヌの成り立ちが詳細に解明されることを祈る。 【謝辞】尿の収集にご協力頂いた方々に深謝する。
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J
文献】 1) Sugimoto C, et al.:J. Mol. Evol. 55:322, 2002. 2) Yogo Y. et al.:Anthropol. Sci.(Japanese Series) 111:19, 2003. 3) Zheng HY, et al. :J. Mol. Evol. 56:18, 2003. 4) Cui X, et al.:J. Mol. Evol. 58:568, 2004. 5) Zheng HY, et al.:Anthropol. Sci. 113:225, 2005.

コメント

デルタ @delta393939 2020年1月21日
アイヌは800年前に渡来してきた民族なので先住民ではありません。差別云々以前に教科書レベルの話です。
dronesubscriber @dronesubscriber 2020年1月21日
delta393939 アイヌは遺伝子的に縄文人の特色を色濃く残す集団です。日本人は南方由来の縄文人と揚子江沿岸由来の弥生人の二重構造になっていますが、より古い縄文人のグループに属するので北海道においては先住民と言って良いと思います。 このまとめで取り上げているJCウイルスは感染経路が不明なウイルスですが、空気感染すると思われているため、遺伝により支配されたゲノム・ミトコンドリアの配列を元にした既報の研究より精度が高いとは思われません。
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J 2020年1月21日
dronesubscriber JCウイルス(JCV)については誤解もあるようなので、「まとめ」の執筆者としてコメントをします。先ず、JCVの独特な伝播様式です。一般にウイルスの伝播の仕方には二通りの様式があります。ひとつは垂直感染と呼ばれ、出生前に母から子へ伝播する様式です。この様式には胎盤感染や産道感染が含まれます。母乳感染もこの範疇に入れられことも多い。もうひとつは水平感染と呼ばれ、出生後のほとんどの感染が含まれます。飛沫感染、空気感染、接触感染、性感染などと呼ばれる感染がこの範疇に入ります。続く)
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J 2020年1月21日
dronesubscriber さて、JCVですが、長く一緒に生活している両親(母でも、父でも可)から子へ伝播するという感染様式により伝播します。出生後の感染なので、水平感染ですが、親から子へ伝播するという点ではこれも立派な「垂直感染」です。私たちはJCVの独特な伝播様式を、多くの分子疫学的な観察によって証明しました。その基本には、ほとんどのヒトは子供の時に感染し、大人になると尿中にJCVを排泄するようになるという観察があります。親が持っているJCV株が子に伝播するという点は、続く)
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J 2020年1月21日
dronesubscriber 日系アメリカ人の家族において、一世が持っていたJCVが二世、三世に伝播したこと示すことによって証明しました。他方、各ヒト集団に蔓延しているJCVが独特のゲノム型を持っているという証明も世界的な規模で行いました。また、北アフリカ、西アジア、中国、日本など、起源が異なる集団が混ざり合う地域では異なる系統のJCVの混在が認められました。さらに、自然界ではJCVは組み換えが起きません。なぜなら、一つのJCV株に感染すると、宿主のヒトは免疫ができるので、続く)
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J 2020年1月21日
dronesubscriber 通常、別のJCV株に感染しません。沖縄には終戦後、多数の米国軍人やその家族が住んでいますが、戦後生まれた沖縄の子供達にはアメリカ人型のJCVには感染しなかった、したがって、JCVは集団のバリアーを越えて伝播しなかったという調査も行いました。小型のDNA ウイルスであるJCV は進化速度が適度に早く、分子進化を追跡するのに格好な材料であり、また、尿中に放出されるJCV は材料の入手に困りません。
dronesubscriber @dronesubscriber 2020年1月23日
8cMdsPWeMctZl4J 解説ありがとうございます。ご自身の1994年の論文で述べられている点なので釈迦に説法ですが、JCウイルスの感染は広義の垂直感染であって出産後に感染する割合が高いため、例えば養子を取る、奴隷を使役する、といった関係でも別の集団のウイルスがその集団で支配的になることもあり得ると思います。
dronesubscriber @dronesubscriber 2020年1月23日
dronesubscriber アイヌ全ゲノムが得られなかった時代においては有効な解析だったと思いますし、人種的な交雑が僅かであったのに大陸側のJCウイルスが感染するような濃密な接触があったのはなぜか、という歴史学的な文脈では大変興味深いと思います。
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J 2020年1月23日
[ dronesubscriber 再コメント、有難うございます。「一緒に生活している大人から子へ伝播する」というJCVの伝播様式から、ヒト集団とJCVゲノム型との関連が生まれましたが、コメントでお書きなった奴隷とか養子とかでその関係が乱れ、場合によっては元の関係が別のものに置き換わってしまう可能性はあると私も考えています。しかし、JCVを指標にした解析で大変ユニークな説が示唆された場合、それを破棄しなければならない合理的な理由がない限り、その説を大事にしています。続く)
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J 2020年1月23日
dronesubscriber 例えば、今回アイヌから検出された主なJCVゲノム型はヨーロッパ系のEU-cとアジア系のMXです。まとめで紹介したように、EU-cは極東アジアの先住民(特に、サハリンの対岸で、アムール川下流域に住むナナイ族)から高率に検出されるゲノム型です。ナナイとアイヌとの関係は、最終的には全ゲノムレベルで決着をつけていただけたら、嬉しいです。一方、MXは日本の二大JCVゲノム型の一つであるMYと兄弟のようなウイルスですが、アイヌ以外からは検出されていません。 続く)
ヨゴウヨシアキ @8cMdsPWeMctZl4J 2020年1月23日
dronesubscriber ご存知かもしれませんが、MYの様々なサブグループが北極圏を除くアメリカ大陸の各地に居住するアメリカ先住民から検出され、私は「アメリカ先住民の単一起源説」と題してまとめを投稿しました。要は、私たちがJCVを用いて推理した人類移動や集団の成り立ちは大変魅力的であり、それを大事にしたいと思っています。素人考えかもしれませんが、全ゲノム解析がJCV解析の上に立つ絶対的な手法のように考えておられるのが気になりました。
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