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前回の話
以下本編
◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系のウハウハドスケベご都合ファンタジー。 飽きた?もう飽きた? そっかぁ…新しいエルフどんどん出てきてるんだけどなあ、アザラシのエルフにラッコのエルフ。敵にもセクシーなクリオネの女帝。
2020-01-28 20:51:06さて今は八代目ドレアムの話。黒の賭け手。六本指の博徒。運命のいかさま師。 女奴隷に将棋で勝ち、相手の宝物である金剛石の指輪をせしめるのが夢だ。
2020-01-28 20:53:55しかし女奴隷ダリューテはもともとはエルフの妃騎士。武芸や魔法はもちろん、勝負全般にめちゃくちゃ強い。そこで、かつて唯一ダリューテと互角に対局したという伝説の指し手を求めて旅立ち、その技を継いだ弟子達と修行にいそしみ、腕を磨いた後、野暮用あって西の海へ。
2020-01-28 20:56:33途中あちらこちらで不思議な動物、幻獣に出くわしては、それぞれと勝負をし、打ち破れば魔法で将棋の駒にしてきた。 直近は、海馬(うなめ)という、鬣(たてがみ)のかわりに背鰭(せびれ)を持つ、不思議な海に住む馬と一局、盤を囲んだ次第だ。
2020-01-28 20:59:09「海馬さんよ。手前が勝ったら、ほかの縞馬だの蜃気楼の馬だのみてえに、あんたさんも将棋の駒になってもらいまさあ」 "お前は、幻獣をみずからの手駒にするのが好みか" 「へえ。文字通りの身代(みのしろ)ってもんでさ。賭けるもんがでけえほど面白ぇ。そっちが勝ったら手前の命を差し上げまさ」
2020-01-28 21:01:42海馬は深い蒼の瞳を煌めかせた。 "幻獣よりもっと大きなものを馴らしてみたくはないか" 「もっと大きなもの?」 "力あるもの。神々と呼ばれる存在を" 「そいつぁ面白ぇ!でも手前はこの通りしがねえばくち打ち、できることと言やあ、せいぜい将棋の駒を増やすぐらいがせきの山でさあ」
2020-01-28 21:05:06"お前に足りぬ術(すべ)を与えてやろう。俺にふさわしい腕前を示すことができたのならな" 「ようがす。そいじゃ…すぐ片づく」 ドレアムの口調が変わる。浅黒い面差しに浮かぶ笑みも、ひとなつっこくうさんくさげな博徒のそれから、狂暴きわまる肉食獣のそれへと。
2020-01-28 21:08:12海馬は蹄しかないので、黒の賭け手は敵に代わって駒を動かす。 はためには怪物を目の前にひとりで将棋をしているようだが、双方の間には鬼気迫るがごとき緊張が走っていた。
2020-01-28 21:10:15海馬は、荒々しく魁夷なうわべに反して冷徹で恐ろしく読みの深い手を指した。もし勢いと激しさだけで挑むもであれば、こゆるぎもせずたやすく打ち破っただろう。 だが戦意みなぎる嗤いを浮かべた若者もまた、精緻かつ巧妙な駒運びをした。いずれも相手を食い殺さんばかりの獰猛さを秘めながら、
2020-01-28 21:14:06定跡を知り尽しかつ囚われない鮮烈な攻め方をした。どちらも守りにはほとんど手を費やさなかったのが特徴といえば特徴だ。 暗い肌に尖り耳の博徒は、獲れば勝ちとなる男王(おのきみ)は追わず、最強の駒である女王をもぎとるのを優先するという、独特なしかし洗練の粋に達した戦法で、
2020-01-28 21:20:04完膚なきまでに青黒い駿馬を打ち負かした。 海馬は磯臭い鼻息を吐き、後ろ脚で立ち上がり、潮風を引き裂くような嘶(いなな)きを発した。 "もう一局だ!次は俺が勝つ" 黒の賭け手はからからと笑う。 「いいや俺が勝つ。何度やろうとだ。だがいいだろう!」
2020-01-28 21:22:41かたわらに丸くなっていた黄金の毛並みの海獺(らっこ)が前肢を伸ばして、暗い肌の若者の膝をひっかく。 「だめだってばさ。ね。あんた、幾日も幾晩もずっと眠りもせずに歌い続けてさ。そのうえ休まずこんな根詰めることしてさ」 「俺は十日、飲まず食わずでエルフの斥候を待ち伏せたことがある」
2020-01-28 21:24:55武人とはかけ離れた風情の博徒はしかし六本指でてきぱきと駒を並べ直しながら、淡々と続ける。 「エルフどもはしぶとく、執念深い。定命のものに比べ疲れを知らず、時は常に己の味方だと思っている。だから奴等よりも粘ってやる。奴等よりしぶとく、執念深く」
2020-01-28 21:28:05ドレアムはじろりと海馬を見据えた。 「俺にはエルフの匂いが解るぞ。お前はエルフだな…少なくとも元はエルフだったな」 "そしてお前は、対局の前に話していた若者とは別人のようだな" 「さてな。先手が欲しいか?」 "いや。もういい。俺の負けだ"
2020-01-28 21:30:09海馬は頭をうなだれさせた。 "お前があの忌まわしい宝を受け取るにふさわしい腕前を持つか確かめたかっただけだ。指すうちに我を忘れたが。すでに目的は果たした" 「俺はあと百局でも指してやる」 "ならばすべてに俺が勝つ!だが今ではない…今はもっと大きな勝負のために敗北を認めよう" 「…よし」
2020-01-28 21:33:22青黒い雄馬が、岩礁を蹄で打つと、表面に亀裂が走り、銀の光とともに一組の骨牌(かるた)が飛び出してくる。得体の知れない文字の入った帯でまとめてあり、一枚一枚が硬質の艶を帯びているが、金属でも磁器でも玻璃でもない、強いて言えば樹脂に近い。
2020-01-28 21:36:17"決闘神怪札。かつて妖精族一の魔法使にして職人、決闘者たる王が作り上げた宝だ" 「俺に解るのは剣と弓の良しあしだけだ」 ドレアムはかすかに頭を左右に振ると、また別人のように厳めしくもまた静やかな面持ちになってじっと見つめる。 「影の国の黒の繰り手が見出した素材…泥竜(ナイロン)」
2020-01-28 21:39:25"確かに。泥竜がこの素材だ" 「黒の繰り手は繊維や布帛に加工する技は知悉しているが、薄い板状にしたものか。強度をどのように…なるほどそうではないな。やはり繊維。緻密に織り合わせた布帛を、薄片のように固く仕上げたのだ」
2020-01-28 21:41:26"お前はまた別の男になったかのようだ。その体の中に何人がいる" 「一人だけだ。ほかはただの谺(こだま)の如きものに過ぎぬ。それとて表に出ればこの身に多大な負担を強いるが。だが工芸への熱情だけはかくなり果てても断ち難い…その決闘神怪札なるもの」
2020-01-28 21:43:41若者は、やけに老成した面持ちで入念に煌めき浮かぶ呪具を観察する。 「複雑に織り合わせた繊維は、分形、とでも言うべきか。一つの意匠が、繰り返し繰り返し、より小さく細やかな相似形を、自らの内側に再び作り上げる…光を閉じ込めて出さぬある種の結晶に近い…だが…」
2020-01-28 21:46:42