青空文庫: 1万ファイル突破記念、富田倫生@aobekaさんと青空文庫と電子本の未来の物語・第一部

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富田倫生 @aobeka

⑯降りてきた糸に結んで、せめて天に遺したかった初代「創世記」は、TK-80から8001あたりの話です。98も出てきません。インターフェロンの副作用で、ブックにテキストを流し込むことしかできないけれど、せめて後書きでその後の流れに触れようと思いました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:19:37
富田倫生 @aobeka

⑰萩野さんが、「創世記」をボイジャーで出そうと言ってくれました。ところが、骨組みをかためぬまま、霧のかかった頭で書き始めると、分量だけがかさんで、後書きは轍をなしません。原稿用紙換算で200枚ほども書いたところで、使えないと見極めがつきました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:20:08
富田倫生 @aobeka

⑱使用制限ぎりぎりで使ってきたインターフェロンが、気持ちと体を疲れさせ、打ち切りとなりました。残念だったけれど、短期的には副作用が消えて、少し楽になりました。渡辺さん、後藤さん、浜田さん、西さん、古川さん。再取材をお願いし、関係者を回り始めました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:21:42
富田倫生 @aobeka

⑲後書きだったはずのものは、Windows戦略の先駆けとして構想された、半導体部門のPC-100対、情報処理本流のPC-9801の社内競合を描いた、別の物語りになりました。松本さんという、新しい主人公を軸に書き上げたときには、2年が過ぎていました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:22:16
富田倫生 @aobeka

⑳この間に祝田さんは、自分のHyperCardを作り上げ、エキスパンドブックは、日本語の組版要求にかなり応えた上で、マルチメディアも盛り込める、本物に生まれ変わっていました。電子版「パソコン創世記」は、1995年にこれで作りました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:22:56
富田倫生 @aobeka

㉑本物になったエキスパンドブックを、自分で作れるツールキットⅡが売り出されました。絶版本をよみがえらせよう。自分史を、自分の小説を、旅行記を、ミニコミを電子化しよう。動く絵本を作ろう。もう一つの出版を求める、多くは弱者達が、色めき立ちました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:24:08
富田倫生 @aobeka

㉒電子化で、本作りは確かに身近になりました。でもフロッピーやCD-ROMをやり取りする流通は、旧態依然。できあがったものをどこで見せるか、どこで売るかという問題が、立ちふさがっていました。そう、インターネットの大波に洗われるまでは。 #aozorabunko

2011-06-09 11:24:53
富田倫生 @aobeka

㉓インターネットが社会基盤となると確信した時、配布の問題はすでに解けてみえました。時間さえかければ、回線速度は改善する。すべての電子本を、ここでやり取りできる。電子書店と、電子図書館の時代がくると直感しました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:26:06
富田倫生 @aobeka

㉔ところが、インターネットはただの味方ではありませんでした。エキスパンドブックを内側から食い破れと、やがて、誘いはじめたのです。最初の声が聞こえたのは、祝田さんの仕事部屋で奇妙なブックを目撃した時でした。その本には、中味のテキストがありませんでした。 #aozorabunko

2011-06-09 11:27:13
富田倫生 @aobeka

㉕それは、祝田さんが2chをページめくりで読むために、エキスパンドブックを使ってこしらえた仕組みでした。ボイジャーの誰も知りません。インターネットに置かれたテキストを、ビュワーでみればいいという誘惑に、とうの祝田さんがいち早くのったことを。 #aozorabunko

2011-06-09 11:29:10
富田倫生 @aobeka

㉖アメリカのツールキットⅠ、日本のⅡ。スタインさんには、マルチメディア電子本の路線上に、Ⅲを自分主導で作ろうという構想がありました。萩野さんにとっても、Ⅲは一つの選択肢だったはずです。その一方で、奇妙な白い本が、祝田さんの手許で生まれていました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:30:28
富田倫生 @aobeka

㉗この白い本は、電子書籍の明日を引き寄せる手がかりとなりうるか。検討が始まりました。実例をみつけて試し、手応えがあれば世に訴えよう。インターネットには、読むべき長文がどれだけ上がっているのかリストアップしろと、萩野さんから指示がくだされます。 #aozorabunko

2011-06-09 11:31:15
富田倫生 @aobeka

㉘野口英司さんという若いパイオニアのスタッフが、萩野さんの印象に残っていました。LDの制作部門にいて直接のつながりはなかったけれど、高いおもちゃだったMacintoshをもっている、デジタル好き。創業から数年のところで、ボイジャーに引っ張りました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:34:11
富田倫生 @aobeka

㉙入ってすぐに野口さんが担当したのが、「The Complete OZU〜小津安二郎の世界」の制作でした。フリーの編集者にして歌姫、水牛通信編集人の八巻美枝さんが、すでに作業を始めていました。「パソコン創世記」も、まかされました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:34:56
富田倫生 @aobeka

㉚その野口さんから「インターネットに長文、ありませんか?」とたずねられました。まず浮かんだのは、ボランティアが入力した著作権切れファイルを上げている、プロジェクト・グーテンベルクです。こちらは英語中心ですが、日本語にも思い当たるものがありました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:35:59
富田倫生 @aobeka

㉛岡田斗司夫さんがネットに上げた自著。そして、国語学者の岡島昭浩さんのウェッブページ。研究テーマの文学作品をテキストにして、研究室のサーバーに置く人がでてきていました。岡島さんは、それらをリスト化。電子テキスト目録が、作られてたのです。 #aozorabunko

2011-06-09 11:38:44
富田倫生 @aobeka

㉜「こんなことして良いんですか?」野口さんの第一声でした。保護期間を過ぎたものの利用を促すことも、著作権制度の目的。電子図書館の時代がきっときますよ、と続けました。しばらくして野口さんから、それ、やりませんかと真面目な顔で迫られました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:40:15
富田倫生 @aobeka

㉝1997年のはじめ、「本の未来」という久しぶりの紙の本を、アスキーから出してもらいました。ライター志望、病気、エキスパンドブックとの出合いという自分史の向こうに、新しい本の形をのぞもうと試みました。野口さんに迫られる、直前でした。 #aozorabunko

2011-06-09 11:41:42
富田倫生 @aobeka

㉞最後にまとめた前書きには、電子本越しに引き寄せたい未来を、こんなふうに描きました。「たとえば私が胸に描くのは、青空の本だ。高く澄んだ空に虹色の熱気球で舞い上がった魂が、雲のチョークで大きく書き記す。…」 #aozorabunko

2011-06-09 11:42:18
富田倫生 @aobeka

㉟「…「わたしはここにいます」控えめにそうささやく声が耳に届いたら、その場でただ見上げればよい。本はいつも空にいて、誰かが読み始めるのを待っている。」紙では作りえなかったそうした読書環境が、電子なら作れると考えていたのは事実です。 #aozorabunko

2011-06-09 11:43:09
富田倫生 @aobeka

㊱けれどそれは、あくまで言葉の枠の中の話。資金や組織を手当てし、物事を動かす力や気力は、私にはありません。肝硬変は、命の足を引っ張る重荷です。症状は進んでいました。新しいおもちゃをみつけて、俄然目を輝かせ始めた野口さんに、引きずられたのが実態です。 #aozorabunko

2011-06-09 11:45:31
富田倫生 @aobeka

㊲野口さんには、怖れがありませんでした。テキストは、岡島さんに借りればいい。自分で入れればいい。知り合いに頼んでもいい。それをエキスパンドブックにしてページに置けば、はじまる。サーバーは、ボイジャーの片隅に置いちゃえばいい。お金なんてかからない。 #aozorabunko

2011-06-09 11:46:56
富田倫生 @aobeka

㊳ボイジャーに寄ってきた八巻さんとらんむろ・さてぃさんにも、声をかけました。名前を相談された時浮かんだ「青空文庫」は、そのまま通りました。彼一人が本気で、話し始めて半年も動きませんでしたが、1997年の夏に、ブックを五つならべたページができました。 #aozorabunko

2011-06-09 11:48:59
富田倫生 @aobeka

㊴サイズ固定の白い本は、可変で、入力、編集のできる、T-Timeに作り替えられました。自分の書いたテキストや、メール、ウエッブの文章が、縦横双方で表示可能になりました。重装備化とは対照的な、すべてのテキストをソースととらえる旗の誕生でした。 #aozorabunko

2011-06-09 11:51:54
富田倫生 @aobeka

㊵それにしても、人とはなんと、未来を見通す力に劣っているのでしょう。「本の未来」をまとめる時、かみさんに寄り添われて、マインツのグーテンベルク博物館をたずねました。驚いたのは、初期の印刷本が、それまでの手写本の忠実なコピーだったことです。 #aozorabunko

2011-06-09 11:53:09