エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その11~

ドレアムは貰った石とかためておかないタイプ。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜マジッグアンドウィザーズネタトークにでもどうぞ
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帽子男 @alkali_acid

陸につくと、海馬を将棋の駒に戻し、別の駒を放り投げる。 蜃気楼の馬。幻馬だ。 「幻馬さん!あんたさんに決めやした!」 “今度は水の上には呼び出さなかったな” 姿を陽炎の如く揺らがせ、千里も一瞬のうちに渡る魔法の馬。

2020-02-05 21:54:53
帽子男 @alkali_acid

たちまちのうちに若者は狭の大地を横断してゆく。 途中で霊感の鋭い子供や呪い師が、たまさか通り過ぎる影を眼にしても、黄金と宝石の鞍をつけた砂漠の駿馬にまたがる黒い乗り手の正体などとうてい想像もつかなかった。

2020-02-05 21:56:32
帽子男 @alkali_acid

「やれやれ天文台もだいぶ留守にしておったから、影の国の猿猴どもがいたずらしておらんとよいのう」 「化石の採掘場も小鬼がめちゃくちゃにしとらんのを祈るばかりじゃ」 一応の守り役である魔法使いの翁、青の占星術師アメノハテと青の風水術師チノハテはすっかり里心がついている。

2020-02-05 21:58:24
帽子男 @alkali_acid

「帰ったらゆっくり火の巨人の街の温泉につかって、小餐庁で半鬼の料り手どもの作る飯をつまんで」 「四角錐の酒蔵で塚人どもがこしらえる蜜酒で一杯やりたいわい」 「わしゃあ火酒じゃな」 「かー飲んべが…」

2020-02-05 22:00:37
帽子男 @alkali_acid

だが還りついた一行を待っていたのは葬儀だった。 外輪山の裏道にある大蜘蛛の巣に、とこしえに破れぬ繭が二つ。それぞれ葬られたもののよすがを偲ぶ刺繍が細やかに施されている。 ダリューテ。蝙蝠の翼の黒い喪衣をまとう女王が惜別の詩を吟じていた。周囲には糸繰りの一族と、闇の侍女。

2020-02-05 22:04:55
帽子男 @alkali_acid

「黒の繰り手キージャの肉の器は滅びた。大蜘蛛の女王ウリエラも」 「…どちらさんで?」 六本指の博徒は、小さい頃からよく知るはずの女奴隷にそう尋ねた。 「…私が解らぬか。新たなる黒の乗り手よ」 「へえ。存じ上げているような。いねえような」

2020-02-05 22:06:47
帽子男 @alkali_acid

「連れの二人なら…すぐに感じ取れるであろう。我が霊気は」 アメノハテとチノハテはしかし帽子を直して、じっと目を細め、幾度も顔を見合わせ、口をへの字にして首を振った。 「あーと」 「なんじゃったっけ」 「ここまで出そうになっとるんじゃけど」 「あの趣味の悪いいでたち…」

2020-02-05 22:08:26
帽子男 @alkali_acid

やがて双の翁は同時に跳び上がる。 「ご、ごごごご」 「ごるごるごるご…ご」 「ゴルサ!!」 「ゴルサイス!!!」

2020-02-05 22:09:32
帽子男 @alkali_acid

西の果ての光の諸王から送られた東方使節と南方使節はそろってわなわなと震えだす。 「ほ、ほ、滅びとらんかったんか!?」 「おおおおのれ、シロキテの計略で倒れたとばかり!」 「かかかくなるうえは」 「わしら海原の精霊の秀抜が」 「い、命に換えても!」

2020-02-05 22:11:11
帽子男 @alkali_acid

黒の賭け手の肩の上でそれぞれ巻貝の杖を構える小さな老爺二人に、闇の女王は淡く笑った。美しいが翳りを帯びた面持ちだった。 「今そなたらと事を構えるつもりはない」 「我等を格下と侮るか!」 「ええいシロキテには及ばずとも光の諸王の使節なるぞ」

2020-02-05 22:13:53
帽子男 @alkali_acid

ゴルサイスはかぶりを振った。 「そなたらの力は心得ている。術の玄妙、特異なるは、海原の精霊の中でも一、二を争う。闇の女王の相手にとって不足はない。だが…ここはキージャの弔いの場。今は静けさを欲するのだ」

2020-02-05 22:15:46
帽子男 @alkali_acid

アメノハテとチノハテは毒気を抜かれたようにおとなしくなる。 ゴルサイスはかぶりを振った。 「そなたら使節はいずれも、西の果てにあって力を持て余していた輩、至福の地に安穏とする同胞より、むしろ闇に集った悪霊と似る。だからこそ敵に回せば手強い。ある意味で光の諸王以上に…なればこそ」

2020-02-05 22:19:42
帽子男 @alkali_acid

「まつろわぬものの長、黒の繰り手の喪を分かち合ってくれまいか」 大敵の言葉に、青の魔法使い達は意外にも尖り帽子を脱いで胸に当てた。二人を肩に乗せた六本指の博徒はにこにこしている。 闇の女王は尋ねた。 「そなたは悲しみをあらわさぬな」 「へえ」 「変わった子だ」

2020-02-05 22:22:14
帽子男 @alkali_acid

ゴルサイスとドレアムは見つめ合う。 「いつまでそこにいらっしゃるんで」 「ダリューテのことか。我が娘は私の体を滅ぼした。代わりに私が娘の体を貰って悪くはあるまい」 「理屈でさあ」 「ダリューテは消えてはいない。今もここにいる。私とともにな」 「めでてえや」

2020-02-05 22:24:12
帽子男 @alkali_acid

二人は誰の邪魔も受けぬよう緑の谷へ移り、庭園の四阿で珈琲(コーヒー)を喫した。 「そなたは、私に仕えるために作られた黒の乗り手。不滅の幽鬼の最後の世代だ」 「光栄でさ」 「だが…そなたの忠誠が、果たして、闇の女王たるゴルサイスにあるのか、その肉の器であるダリューテにあるのか」

2020-02-05 22:26:52
帽子男 @alkali_acid

「お二人は今はひとつでさあ」 「しかし、もしダリューテに忠誠を捧げるのであれば、私がこの肉の器に宿ることをよしとはせぬのではないか」 「そうだとして、手前に何かできますかい?」 「できぬな」 闇の女王は手を掲げる。左の薬指に金剛石と真銀、右の薬指に黒鉄で無石の指輪がそれぞれ煌めく。

2020-02-05 22:30:49
帽子男 @alkali_acid

「すでに黒の乗り手の力の源たる呪いの指輪は我が手にある。そなたが嵌めているのは、指輪作りマーリ、黒の鍛え手マーリが、その力を散らすために作った、いわば子の指輪。親たるこの指輪には抗えぬ」 「おみそれしやした」

2020-02-05 22:32:04
帽子男 @alkali_acid

「物分かりがよいことだ。そなたの父方の家系は、もとをたどれば東夷の大酋長、牙の部族の戦士の頭目グンザルガンバドの血縁。私によく尽してくれたが、しかしあまり話を聞かぬ暴れ狼でもあったものを」 ゴルサイスはどこか懐かしにドレアムの艶やかに浅黒い肌を目でなぞる。 「…グンザは…」

2020-02-05 22:35:34
帽子男 @alkali_acid

「グンザってなあ呪いを始めた黒の乗り手でござんしょ」 「そうだ。白の錬金術師クルニトと密かに内通してな。あれは私を裏切ったと思っていた。影に私の膳立てがあるとは思いもせずにな。そうでもしなければクルニトを計画に引きずり込むのは不可能であったが」

2020-02-05 22:37:09
帽子男 @alkali_acid

「グンザの旦那さんを気の毒に思っておいでで?」 「…思わぬ。私が大切に思うのは、最愛の主人たるクルフィノ様だけ。ほかは利用し裏切るだけだ…誰であろうとな」 「クルフィノってなあ、西の果てからエルフの軍勢を率いて闇の地を攻めに来た御方でござんしょ?」

2020-02-05 22:38:57
帽子男 @alkali_acid

黒の賭け手の問いに、闇の女王は頷く。 「そうだ。運命は…いや…光の諸王はクルフィノ様と私を敵同士に変えた…だが…我がしもべよ。そなたには話しておこう。私が呪いを始めた目的をな」

2020-02-05 22:40:40
帽子男 @alkali_acid

太古。 神々たる上位の精霊は、西の果てに座す光の諸王と、北に座し東と南にも勢力を持つ冥皇に分かれ、狭の大地の覇権を巡って争っていた。

2020-02-05 22:42:16
帽子男 @alkali_acid

西の果てにはかの地に生きとし生けるものにあまねく無限の力を与える金の葉と銀の葉を持つ二つの巨樹が生えており、光の軍勢の支柱、闇の軍勢にとっての脅威となっていた。

2020-02-05 22:45:29
帽子男 @alkali_acid

冥皇は二つの木を枯らそうと策を巡らせたが、一つ難題があった。光の軍勢の一翼をなす妖精族の間に、驚くべき天才、焔の守(かみ)と呼ばれる職人がいて、二つの木の光を取り込んでみずから輝く宝玉を作り出そうとしているという噂があったのだ。

2020-02-05 22:47:36
帽子男 @alkali_acid

宝玉が完成すれば、例え二つの木を枯らしても、光の軍勢は再び力を引き出し、木を蘇らせさえするかもしれない。 そこで冥皇の腹心であった闇の女王、当時は悪霊姫という異名のあったゴルサイスが、宝玉の完成を阻止する計略を立てた。

2020-02-05 22:49:29
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