エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その11~

ドレアムは貰った石とかためておかないタイプ。 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜マジッグアンドウィザーズネタトークにでもどうぞ
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帽子男 @alkali_acid

ゴルサイスは光の軍勢に降伏したふりをして、あえて捕虜となると、言葉巧みに説いて自らの得意とする工芸の技でもって西の果ての民に奉仕するようになった。 そうして同じく工芸の技を揮う焔の守に近づこうとしたのだ。

2020-02-05 22:51:26
帽子男 @alkali_acid

「浅はかだった。当時の私は。焔の守…すなわち王の中の王たるクルフィノ様を謀(たばか)り…あわよくば闇の軍勢に従わせようなどと…あのお方が誰かの下につくはずもないのに」 「よく解らねえんですがね。姐さんは当時は冥皇っておひとに仕えていらしたんでしょ?それがどうして鞍替えしたんで」

2020-02-05 22:53:32
帽子男 @alkali_acid

ドレアムの問いに、ゴルサイスは娘の体に宿ったままぶるりと震える。棘と角だらけで甲冑じみているくせに、露出度が妙に高い衣装とはちきれんばかりの乳房や双臀が何とも周囲ののどかな景色にそぐわない。 「…身の程を教えていただいたのだ…何度も…」

2020-02-05 22:55:24
帽子男 @alkali_acid

「何度も?」 「クルフィノ様の奴隷として目覚める前の私は頑迷であった。肉の器を通じて霊気を炙られ、溶かされ、打たれ、鋳直していただける光栄を理解できず、初めは抗おうとし、叶わぬと知ると逃れようとした。無様に」

2020-02-05 22:57:52
帽子男 @alkali_acid

「そいつぁ大変で」 「冥皇は私が窮地に陥った際に逃れられるよう、幻影術によって身を隠し、蝙蝠に化け東へ脱するための羽衣を与えていた。今思えばつまらぬ小細工だが…しかし効き目はあった。だが私は幸いにも間一髪でクルフィノ様の躾けに屈服させて頂き、自ら隠していた羽衣を差し出した」

2020-02-05 23:02:09
帽子男 @alkali_acid

「冥皇とはさっぱり切れたって訳で」 「いや。私は尚もすぐは頑迷さを捨てられなかった。だが最後にクルフィノ様の言いつけ通り、冥皇を捨て闇を離れ、光の側につくと、悪霊姫ではなく妖精王の奴隷として永劫に仕えると誓えた。それまでの苦しみが嘘のように、晴れがましい心地であった」

2020-02-05 23:05:10
帽子男 @alkali_acid

「てえしたもんだ。妖精王の旦那さんは」 「そうだ。クルフィノ様こそすべてを支配するべき御方だった。唯一にして大いなるものと光の諸王が妖精から盗み取ったこの狭の大地すべてを」 「妖精から盗み取った?そいつぁ初耳で。たしか狭の大地を作ったのは唯一にして大いなるものと光の諸王じゃ?」

2020-02-05 23:07:36
帽子男 @alkali_acid

「すべては偽りだ。唯一にして大いなるものは、ただ創造を騙ったにすぎぬ。妖精は、かの奇怪にして傲慢な教えとはもともと何の関係もない。別の系統に属するのだ。唯一にして大いなるものとその配下は、そうした自らと異なる存在を異教、異端として滅ぼし尽し、すべてを奪ってきた」

2020-02-05 23:09:37
帽子男 @alkali_acid

「恐ろしい話でさ」 「しかしエルフが美しく輝かしい種族であったが故に、ほかの種族のように殲滅する代わりに、愛玩物として、奴隷として飼いならすことに決め、教えに障らぬよう、唯一にして大いなるものの子と偽りもした…さらに最も憎むべきは、妖精の心に西の果てへの憧れを植え込んだ」

2020-02-05 23:11:57
帽子男 @alkali_acid

「唯一にして大いなるものへの崇敬を刻みつけたのだ。真の自由の民を、おのれの教えに心地よくなじむ奴隷に変えておきながら、なお自由の民と呼ぶ。かほど醜い独善があろうか」 「そいつに気づいた姐さんは、唯一にして大いなるものや、その手下の精霊の行いを償うために、エルフの奴隷になったと」

2020-02-05 23:15:02
帽子男 @alkali_acid

闇の女王は首を振った。 「さようなつまらぬ理由で私はクルフィノ様の奴隷になったのではない…あの光栄に満ちた試練の果てに…ただ尽す喜びを教わったのだ」 「へえ…よござんすね。そんで?どうして敵同士になったんで?」

2020-02-05 23:17:37
帽子男 @alkali_acid

「光の諸王は…冥皇が二つの木を枯らすと、案の定、私とクルフィノ様が作り上げた大宝玉を求めた。光と闇の魔法が絡みあい産まれた…至高の作品を…あのものどものつまらぬ権勢を保つためによこせと。クルフィノ様は断った。大宝玉と自分は決して離れぬ絆で結びついていると…呪いともいうべき」

2020-02-05 23:19:50
帽子男 @alkali_acid

闇の女王は指輪をちらと眺める。 「我が愛しきもの。あの御方は私とともに作り上げた三つの大宝玉をそう呼んだ。無理に引き離そうとするならば、宝玉も自らもともどもに滅ぶと」 黒の賭け手は興味深げに首を縦に振る。 「そいつは難儀だ」

2020-02-05 23:22:20
帽子男 @alkali_acid

「だが…光の諸王の一柱、忘却の男神カラキルは、愛の呪いすら解けるとうたった。忘却の術は、愛しきものと引き離された際の痛みすら癒すと」 「さすがは神様だ」 「クルフィノ様は追い詰められた。しかし窮地を却って好機にしようと、カラキルの術を受け入れた。しかし宝玉を手放す前に暇が欲しいと」

2020-02-05 23:24:17
帽子男 @alkali_acid

「ほう。妖精王も粘りまさあ」 「あの御方は工房に戻ると、三つの大宝玉と…もう一つの宝玉を、奴隷たる私にゆだねた。そうして…焼き捨てたと思っていたあの蝙蝠の羽衣を返してくださった」

2020-02-05 23:26:22
帽子男 @alkali_acid

「クルフィノ様は仰った。忘却の術が働けば、光の諸王も宝玉がどこへいったか聞き出すことはできなくなる。光の諸王の術を逆手にとって、宝玉の行方をくらますと。だから私は先に東へ逃れよと。必ず自分も後を追うからと」

2020-02-05 23:28:14
帽子男 @alkali_acid

「だけど、忘れちまうんじゃ?」 「クルフィノ様は仰った。恩寵たる忘却をもってしても、決して癒せぬ傷はある。愛するものと引き離された痛みは心のどこかに残る。それを辿って必ず再会できると」

2020-02-05 23:29:41
帽子男 @alkali_acid

「私は蝙蝠の翼をまとい、四つの宝玉を抱いて東へ飛んだ。だが二つの木の光を宿した呪具は明るすぎた。冥皇手ずから闇と夢から糸を紡ぎ、織り、染め、裁ち、縫った羽衣をもってしても隠し切れないほどに」

2020-02-05 23:31:56
帽子男 @alkali_acid

「すぐに狩の男神の角笛が鳴り響き、荒々しき狩が始まった。あやつの弓の弦が鳴る音が聞こえ、私の腕を貫いた。そうして、一番大切な宝玉は奪われた…私とクルフィノ様の子、ダリューテは奴等の手に落ちた」

2020-02-05 23:33:12
帽子男 @alkali_acid

「引き返さなかったんで」 「…引き返さなかった。私はあの子を捨てて東へ逃れ、北へ針路を変え、冥皇の隠れ潜む夜見の国へ舞い戻った。冥皇は…私を疑いもせず迎え入れ、宝玉を光の諸王から隠した」

2020-02-05 23:35:39
帽子男 @alkali_acid

「それから?」 「光の軍勢が海を渡って攻めてきた。きれいごとを並べようとも奴等が欲するのは常に力。権勢を保つための力だ。だが…輝く甲冑をまとう騎士の先頭に立っていたのは…クルフィノ様だった」

2020-02-05 23:37:07
帽子男 @alkali_acid

「なるほど。そいつはおも…ひでぇや」 「忘却によって自らの行いを忘れたクルフィノ様は、奪われた宝玉を取り戻すために一族を集め、軍を興したのだ…光の諸王は止めることもできたはずだ。だが奴等はしなかった。うわべは制するふりをしたかもしれない。しかし本音は宝玉が欲しかったのだ」

2020-02-05 23:38:40
帽子男 @alkali_acid

「それが、叙事詩に名高い宝玉戦争ってわけで」 「そうだ…私はクルフィノ様に宝玉と記憶を還す術を探ったが…果たせず…クルフィノ様は闇の軍勢の手にかかって命を落とした。光の諸王と戦うために私の育てた将兵が…あの御方を討った」

2020-02-05 23:40:51
帽子男 @alkali_acid

「そうしてこちらが妖精王の軍勢との戦いで消耗したところへ、光の諸王は乗り込んできた。表向きは苦しむ狭の大地の民を救うための嘆願に応じてな。あれだけの力を持ちながらみすみすクルフィノ様を出陣させ、戦火が広がるだけ広がるに任せてから、とりすまして火消し役を演じてみせたのだ」

2020-02-05 23:42:53
帽子男 @alkali_acid

「冥皇は敗北し、虚無の暗黒の彼方、世界と世界の壁の向こうへと追いやられた。恐らく次元すらこの狭の大地と異なる流刑地だ。冥皇は私も連れてゆこうとしたが、光の諸王は私が留まるのを許した…私が密かにクルフィノ様が宝玉を取り戻す手伝いをしたのを知ってか、単に塵芥と思ったか」

2020-02-05 23:45:44
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