ノーホーマー・ノーサヴァイヴ #4(2020年再放送版)
破砕した腕にPVC耐久テープを巻いて締めつけ、サブスティテュートはグラウンドへ降りた。審判にタイムを指示し、無雑作にマウンドへ歩いて行く。更なるピッチャーヤクザがセプクし、再び新たなピッチャーに交替したところである。「イヤーッ!」「アバーッ!」その者を速やかに蹴り殺す。 23
2020-02-14 22:09:00「……」ニンジャスレイヤーは目を細める。サブスティテュートの再復帰に至るまでの大量打点の結果、電光掲示板には127の数字が灯っていた。ニンジャスレイヤーはこのまま容赦無く点を取り切り、UNIXシステムを破壊するつもりでいた。だが、敵は戻ってきたのだ。 24
2020-02-14 22:12:00視線が再び衝突する。ニンジャスレイヤーはサブスティテュートの何らかの意地を見て取る。……ただ捩じ伏せ、潰すのみ。「アバッ」フォートレスが血泡を吐く。連続失点でズタズタに損傷したニューロンが吐かせた血だった。サブスティテュートが振りかぶった。先程とは逆の手!投げる!「イヤーッ!」25
2020-02-14 22:15:00マウンドに螺旋状の砂煙が渦巻き、紫色のエンハンス光が闇を割いて残像を描く。やや遅れて、質量が空気を貫く音が鳴り響いた。KDOOOOM!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはバットを振った。小刻みにブレながら飛ぶボールは残像と並行し、渦巻くようにキャッチャーミットをめがけた。 26
2020-02-14 22:18:00バットが、ボールを……捉えた!ゴウランガ!だが、ボールは飛ばない!見よ!恐るべき投球はシュルシュルと音を立てて回転し、バットを押し戻し始めたのである!「ヌウウウーッ……!」ニンジャスレイヤーが目を見開く。その目にジゴクめいた赤黒の光が灯り、装束越しに縄めいた筋肉が浮き上がる! 27
2020-02-14 22:21:00押し戻し…押し返し…押し戻し…押し戻し…押し戻し…押し返す!「イイイイヤアアアアァーッ!」ニンジャスレイヤーはバットを振り抜いた!赤黒の炎めいた残像!打った!「アバーッ!」フォートレスの脳血管破裂!「サヨナラ!」爆発四散!打球は地を這うように飛ぶ!その先にサブスティテュート! 28
2020-02-14 22:24:00「イヤーッ!」サブスティテュートはグローブで赤黒の炎を纏う打球を捉えた!ナムサン……打球はグローブの中で回転を止めず……否、いまだその回転の勢いを増し続ける!二人のニンジャの投打力が乗算された打球はグローブをそのまま焼き切る!「グワーッ!」破壊衝撃が腕を伝う!「グワーッ!」 29
2020-02-14 22:27:00ボールはサブスティテュートのサイバネティクス腕を抉り削り取りながら這い登り、胸部を貫通して背中から飛び出した!「グワーッ!」サブスティテュートは両膝から崩れ落ちる。突き抜けたボールはそのまま等比級数グラフじみた飛行軌道を描いて上昇し、ドーム天井の聖ラオモト画を貫通した! 30
2020-02-14 22:30:00ゴウランガ!ゴウランガ!ドームを突き破ってのホームラン!モニタに「お祭り」の表示が灯り、一瞬後、「おかしな」の表示に切り替わった。そしてカラーバーに。サブスティテュートの「サヨナラ!」という叫びはディストーションのかかったパワリオワー音に掻き消された。ガガ、ガガピガガー! 31
2020-02-14 22:33:00ナムサン!球場UNIXシステムは128点などという点数を想定していない。計算システムがオーバーフローし、モニタが火を吹き、そして爆発した。KABOOOM!KABOOOOM!一回表、128-0。その表示がモニタに正しく表示されることはなかった。KRA-TOOOOM! 32
2020-02-14 22:36:00「スッゾ……」「退避重点アバーッ!」アマクダリベンチが崩落し、サイボーグ野球ヤクザ達が押し潰されて死んでゆく。ガガピガガー!ガガピガガー!狂った天使ファンファーレ騒音が、死にゆく者らを鎮魂する。 33
2020-02-14 22:39:00この瞬間、球場を遠く離れた某所、ナンシー・リーは結わえた髪をほどき、美しい横顔にUNIXモニタ光を受けていた。球場のシステム脆弱性をバックドアに、彼女は闇サーバーシステムに侵入。ハンコと筆跡データを痕跡一つ残さず消去し、エミュレイターという名のニンジャのIP情報を押さえた。 34
2020-02-14 22:42:00「流石ね」ナンシーは微笑んだ。「本当に128点取るなんて。一人で」部屋の反対側の椅子で横になるサイバーゴスの少女を見た。床に落ちた毛布をかけ直してやった。「奴らにはまだまだ後悔させてあげられるわよ」エミュレイターの命は24時間保つまい。デッキがディスクを吐き出し、闇が訪れた。 35
2020-02-14 22:45:00高く、高く、打球は球場上空を飛び、数区画先に飛んだ。ゴゴゴウン……ゴゴゴウン……崩落音と狂ったUNIXサウンドの中、ニンジャスレイヤーはバットとヘルメットを投げ捨てた。そして、一塁、二塁、三塁と踏んで回った。最後にホームベースを踏むと、そこで震えているアマクダリ審判を見た。 36
2020-02-14 22:48:00「避難せよ」ニンジャスレイヤーは言った。アマクダリ審判は失禁しながらニンジャスレイヤーに尋ねた。「一体何が起こったんです?」「……」ニンジャスレイヤーは破れたドーム天井から差し込む朝日を見上げた。「一回表、コールドゲーム、勝利チームはニンジャスレイヤー。……以て試合終了だ」 37
2020-02-14 22:51:00ニンジャスレイヤークラシック再放送プログラム「ノーホーマー・ノーサヴァイヴ」、いかがでしたでしょうか。 第2弾は、令和のニンジャスレイヤー、マスラダ・カイが絶体絶命のシチュエーションに追い込まれた短編、「カロウシ・ノー・リモース」。通勤満員電車で繰り広げられるイクサ!お楽しみに!
2020-02-14 22:55:00Twitterでニンジャスレイヤーの激しい勝負にランダムエンカウントした貴方は、ニンジャスレイヤーのさらなる情報にダイヴ・インしよう。 diehardtales.com/n/nc13c0c39a52f
2020-02-14 22:59:32