スコット・マクラウド『マンガ学』完全新訳版（復刊ドットコム）刊行の意義について

Hiroshi Odagiri @smallboxman

スコット・マクラウド『マンガ学』完全新訳版、月末に発売されます。椎名ゆかりさんのきわめて丁寧な訳文での労作です。 amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%8…

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美術出版社版にもかかわっていた立場からいうと、前バージョンは読み物としての翻訳、今回のバージョンは研究書としての翻訳といえると思います。それくらいアプローチが違う。

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良し悪しの問題ではなく前回のバージョンはわかりやすさを優先して訳文をつくっていた部分がありましたが、今回はわかりにくい部分も原文に忠実かつコンテクストを検討しながら翻訳されています。

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本書が紹介される際に「マンガでわかりやすく描かれたマンガ研究」といった紹介がよくなされており、下手をすると私自身そう書いたことがある気もしますが、本書の議論はじつはそうとう抽象的で分かりづらいものです。

Hiroshi Odagiri @smallboxman

特に印象派以降の美術史の展開、平面性に関する議論などに関する知識は（私は90年代の時点ではよくわかっていなかったけれど）本書の議論を読み解くうえでは必須のものになるだろうと思います。

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マクラウドの本書の議論における基本的な論点のひとつは、クレメント・グリーンバーグ的な「抽象（abstract）」と「カトゥーン（cartoon）」を対比的に定義づけ、前者を縦軸（平面性）、後者を横軸（アイコン性）として図像表現をマッピングしていく点にありますが

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このマップの意味自体、パッと見わかりやすいようですが、じつは相当わかりづらい。おそらくですが、縦軸はグリーンバーグの抽象表現主義に関する議論、横軸はアーウィン・パノフスキーのイコノロジーが参照されるかたちでモデルがつくられていて、にもかかわらず本文にその言及はない。

Hiroshi Odagiri @smallboxman

今回改めて読み直してみて、マクラウドは以前はわからなかったけれど、思ったよりはるかに広範かつ多様な文脈を参照していることがわかって頭を抱えましたが、そういったマンガに関するさまざまな思考の切り口を荒っぽく並べている点が本書のアメリカマンガ研究ね古典としてのひとつの意義だと思います

Hiroshi Odagiri @smallboxman

本書の存在はアメリカにおけるマンガ（コミックス）研究のメルクマールのひとつです。版元のコピーに反するようですが、「わかりやすい理論書」というよりマンガの読解、意味に関する「わかりづらいアイディアの集積」として改めて議論がなされるために、本書の刊行は意味があると信じています。

Hiroshi Odagiri @smallboxman

なお、版元の復刊ドットコムさんのほうで予約購入いただくと、椎名ゆかりさんによるマクラウドの全キャリア、全作品を解説した小冊子かわ付録に付きます。 fukkan.com/fk/CartSearchD…

Hiroshi Odagiri @smallboxman

当初予定していた「本編に入りきらなかった分の注釈を含めた完全版注釈」はデザイナーさんのご尽力により本文に注釈が入りきった（！）ため、付録には収録されません。お詫びのうえ、訂正させていただきます。

Hiroshi Odagiri @smallboxman

ジャクリーヌ・ベルント先生によるこの『美術フォーラム21』に掲載された美術出版社版『マンガ学』の書評は今回の新訳版を出すにあたってすばらしいガイドラインになってくれたすぐれたレビューです。今回の新訳版に興味を持たれた方はこの機会に併読をお勧めします。 academia.edu/1194010/%E6%9B…

Hiroshi Odagiri @smallboxman

『マンガ学』完全新訳版、もうひとつ触れていない情報がありました。帯の推薦コメントはとりみき先生です。しかも、かなりの長文コメントをいただき、夏目房之介さんの解説と合わせ、素材に対してベストな推薦者を得られたと思っています。とり先生、夏目さんありがとうございました。