エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その15~

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帽子男 @alkali_acid

”おっほっほ!無様よの。エルノカノール。そちがかつて麿を縛ったのとそっくりの鎖に繋がれ、隠れ潜むためにこのちょこざいな瘴霧を呼び寄せるなど!精霊の王も落ちぶれたものでおじゃる” 「ははははは!はははは!」

2020-02-15 16:49:04
帽子男 @alkali_acid

竜帝は牙を剥き、眩い光条を続けざまに発すると、容赦なく冥皇の輪郭を形作る暗い霊気を貫いた。 「ははははは!!」 ”おのが術で呼び寄せた瘴霧に正気を失うとは…おっほっほ!!愚か!!とどめをくれてやるでおじゃる” 不穏を察したドレアムは身を乗り出す。 「こいつぁいけねえや…」

2020-02-15 16:51:40
帽子男 @alkali_acid

”乱入は推奨されません” かたわらで審判が戒める。尖り耳に暗い膚の青年は歯を食いしばり、ややあって開いた。 「解ってまさあ!!手前もばくちうちでさ!真剣勝負の邪魔なんぞ…ちぇえ!…勘弁しとくんなせえ!!」

2020-02-15 16:54:11
帽子男 @alkali_acid

黒の賭け手は呪文を唱え、蜃気楼のごとく揺らめいて、蜜蝋の小部屋から消える。続いてはるか彼方の虚空にあらわれ、また陽炎のように消えては別の場所へ転移する。 「やああああああああ!!!!」 収まっていた喀血がぶり返し、真紅のしぶきは滴となって、消えては現れる魔人の痕跡として残る。

2020-02-15 16:56:17
帽子男 @alkali_acid

必殺の一閃を見舞わんとする竜帝と冥皇のあいだに、ついに黒の賭け手は跳び出した。 「お控えなすって!」 どうにか咳を抑えて仁義を切る。

2020-02-15 16:58:10
帽子男 @alkali_acid

「手前生国は…ごほっ…影の国!!縁を以て親と発しまするは……黒の繰り手キージャ!!名を声高に発しますは…っ…失礼にござんす!!…ドレアムと申すしがない駆け出しにござんす。お見知りおきを!!!」

2020-02-15 16:59:08
帽子男 @alkali_acid

沈黙。 静寂。 死闘に訪れた一瞬の凪。

2020-02-15 17:00:02
帽子男 @alkali_acid

敖閃は、船をも呑まん巨顎(おおあぎと)をゆっくりと閉じた。 ”おっほ…ちっさきもの…ダウバの子孫かや” 「ご慧眼で…手前は…」 ドレアムはにんまりしてから、また口と鼻から真紅の飛沫を噴き、双眸からも耳孔からも緋の滴を引く。

2020-02-15 17:03:25
帽子男 @alkali_acid

”はははは!はははは” エルカノールはなおも箍の外れた嗤いを弾けさせていたが、すぐそばで全身の毛穴から血を吹いて錐揉み回転する存在を、ふと初めて意識に捉えたようだった。目なき目が小さな命の輪郭を細やかになぞる。 ”ゴル…サイス…”

2020-02-15 17:05:39
帽子男 @alkali_acid

精霊の王はわななき、鎖の中でもがき、次いで靄のような四肢をたわめると、自らを戒める強靭な輪の連なりを引きちぎった。 ”ゴルサイス!!” 島ほどもある掌が二つ、そっと漂う黒の賭け手を包み込む。 ”我が養い子よ…なぜ今になって来た…”

2020-02-15 17:08:11
帽子男 @alkali_acid

六本指の博徒は痙攣し、やがて身を起こす。全身に新たな活力が脈打っている。 精霊の力。 冥皇とその配下が帯びる暗黒の精霊の力が、血管を流れ、凱歌を上げていた。

2020-02-15 17:09:39
帽子男 @alkali_acid

「ありがてえ…おかげでくたばり損ないやしたぜ」 ”ゴルサイス…ではないのか…” 「さっき名乗った通りで。手前は黒の賭け手ドレアム。ゴルサイスは手前のおばばさんでさあ」 ”ゴルサイスの…子孫…そうか…やはりあの子は…精霊を…新たな精霊を生み出したのか…おお…”

2020-02-15 17:11:50
帽子男 @alkali_acid

「まったく、ゴルサイスの姐さんはてえしたもんでさあ」 慈しみに満ちた声で話しかける精霊の王に、影の国の太守は勢い込んで頷く。 のけものになった五色の蛇身は興ざめしたように虚空へとぐろを巻く。 ”おっほっほ。エルカノール。結局そちの頭にあるのは養女のことかや”

2020-02-15 17:14:09
帽子男 @alkali_acid

エルカノールはゆっくりと縮みながら、敖閃を見やる。 ”竜の帝か…この流刑の地、虚無の暗黒のかなたまで、決着をつけにくるとは…つくづく恐ろしい執念だ。とうとう私が作った縛竜鎖を断ち切ったのか” ”そちの養女の娘がしてのけたでおじゃる” つまらなそうに長虫が返事をすると、精霊は揺らめく。

2020-02-15 17:17:23
帽子男 @alkali_acid

どうやら笑ったようだった。 「ゴルサイスは常に私をやすやすと凌ぐな…その娘も」 ”そちとて今鎖を断ち切ったであろ。初めから鎖を外してかかってくればよいものを” 「これは僥倖だ」

2020-02-15 17:19:35
帽子男 @alkali_acid

冥皇は話しながら、とうとう定命の人間と変わらぬ大きさになると、以前よりはっきりした輪郭になる。中年の、ごく平凡そうな男のようだった。まだ具合のよくなさそうな黒の賭け手を横抱きし、そっと胸をさすってやりながら答える。 「竜の帝よ。あなたが来なければ私は鎖より先に朽ち果てていた」

2020-02-15 17:21:35
帽子男 @alkali_acid

”霊気を蝕む瘴霧など呼ぶからでおじゃる。何故そちのような霊気でできた存在にとっての大敵をわざわざ…おっほっほ。したり。かの毒気の正体は混沌、力と物が分かたれる前の、原初のありよう。いずこかから引き出したかは知らぬが、あれならばそちの縛めを錆び朽ちさせられるでおじゃる”

2020-02-15 17:26:19
帽子男 @alkali_acid

「ああ…我が同族たる光の諸王の一柱、大地母神が鍛えた縛霊鎖は、精霊の霊気を環の一つ一つに宿すがために不壊であった。だが霊気を蝕む混沌ならば腐食させられると思いついてな」 ”おっほっほ。随分乱暴な手を思いついたでおじゃる” 「そう言うな。私にはゴルサイスのような天稟はない」

2020-02-15 17:30:47
帽子男 @alkali_acid

エルカノールはドレアムに治癒を施しながら、いささかばつが悪そうに続ける。 「しかし。私は誤った。混沌の力をあまく見ていた。鎖より先に私の霊気がおかしくなってしまった。竜の帝。あなたが混沌さえ吹き払う恐るべき勢いで押し寄せて来ねば、あのまま最期を迎えていただろう」

2020-02-15 17:33:46
帽子男 @alkali_acid

”おっほっほ。おっほっほっほ” 「…少しドレアムと話をしたい。勝負の決着は待ってもらえるか」 ”また先延ばしかの。相変わらずでおじゃる” 冥皇は黒の賭け手に尋ねた。 「あなたはなぜここへ来たのだ」

2020-02-15 17:36:44
帽子男 @alkali_acid

「冥皇の旦那さんに、手前のおやじさん、キージャの引き裂かれた霊気を縫い直す術を教えてもらうためでさ」 暗い膚に尖り耳の青年は、おぼろな男の胸に頭を預けながら答える。 「ちょいと長い話になりやすが。腕が疲れやせんかい?」 「大丈夫だ」

2020-02-15 17:38:04
帽子男 @alkali_acid

六本指の博徒は語り始めた。 冥皇の住まう牢獄、冥府にまで下って来た経緯を。 故郷たる狭の大地では今もなお光と闇の軍勢が争っていること。 西の果ての光の諸王が送り込んだ刺客が、東の影の国に潜入し、父であり闇の総大将である黒の繰り手キージャを暗殺し、霊気さえも引き裂いたこと。

2020-02-15 17:39:53
帽子男 @alkali_acid

「手前どもの一族は、この体、肉の器が滅んでも霊気だけは先祖伝来の指輪に残り、子孫に引き継がれるってえ、便利な魔法を持ってまさ。ところが敵さんは霊気を傷つける武器を持って来なすって、おやじさんのキージャはそれにやられちまった」

2020-02-15 17:42:12
帽子男 @alkali_acid

黒の賭け手はさらに語る。 「だけど、この指輪にはうちのご先祖以外に別のもんも隠れてたんでさ。闇の女王、つまりは冥皇の旦那さんの養女、ゴルサイスの姐さんでさ」 「ゴルサイス。あの子はそんなものまで作っていたのか」

2020-02-15 17:44:13
帽子男 @alkali_acid

「ゴルサイスの姐さんは、指輪を受け継ぐキージャのおやじさんが死んだところで、そいつを別のおひとに嵌めさせた。実の娘のダリューテ。手前からみればおっかさんでさ。そうしてゴルサイスの姐さんはダリューテの体を使って復活なすった」

2020-02-15 17:46:31
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