エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その15~

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帽子男 @alkali_acid

「復活…ゴルサイスに何があったのだ」 「ゴルサイスの姐さんは。光と闇の戦いで自分の肉の器を失いなすった。だけど霊気だけは逃れて、指輪に隠れてたんでさ。そいで、娘のダリューテの肉の器をのっとる機会をうかがってたんでさ」

2020-02-15 17:49:02
帽子男 @alkali_acid

エルカノールはしばらく沈黙してから、ドレアムに語った。 「あの子は…ゴルサイスは…肉の器、つまり生身の体を便利な道具の一種と見なしていた。本来、霊気のみの存在である精霊は、肉の器の重みを十分には掴めないところがある。いかに肉の器の扱いに長けても、底にある考えには変わらない」

2020-02-15 17:54:47
帽子男 @alkali_acid

「そいつぁまあしょうがねえや。だけど、ゴルサイスの姐さんが娘であるダリューテの姐さんの体をのっとったのは、ただ便利だから借りようってんじゃねえ。もっとはっきりした目的がありまさあ。大昔に死んだ妖精王、クルフィノっておひとを蘇らせたあと添い遂げるためでさ」

2020-02-15 17:56:38
帽子男 @alkali_acid

冥皇は凝然として黒の賭け手を眺めやった。 「そうか…あの子が…あの妖精王をそこまで想っていたか…」 「知ってらしたんで」 「クルフィノは一時、狭の大地における光の軍将の長だった。ゴルサイスが闇の軍将としてしばしば前線に出ようとしたのも、あの人物と会うためだったと考えれば納得がゆく」

2020-02-15 17:59:25
帽子男 @alkali_acid

「そうですかい」 「クルフィノが闇の軍勢に討たれた際、ゴルサイスはひどく落ち込んでいた。一時工芸の技をともに振るい、世に二つとない傑作を生みだした仲間でもあったのだから、当然とも考えていたが、それ以上に心から愛し合っていたのだな…」

2020-02-15 18:02:28
帽子男 @alkali_acid

エルカノールの霊気はどこか一回り縮んだようだった。 「クルフィノという人物は、敵ながら輝かしい才気と魅力に溢れた人物だった。妖精の宝玉と言うべき。同じように精霊の宝玉であるゴルサイスが惹かれたのも無理はない…むしろ運命か…」

2020-02-15 18:04:41
帽子男 @alkali_acid

「手前が狭の大地から、この冥府まで降って来れたのも、ゴルサイスの姐さんがクルフィノの旦那さんを蘇らせるための術を教わるよう言いつけて、抜け道を教えてくれたからでさあ」 「…それほどまでに…強く…」

2020-02-15 18:07:08
帽子男 @alkali_acid

冥皇が言葉を失ったようすに、黒の賭け手はけげんそうに尋ねる。 「どうしたんで?」 「いや…ゴルサイスが…ともかく無事でよかった…あなたにとっては災いであるかもしれぬが…」 「さてそこででさ。エルカノールの旦那さんには、散逸した霊気を縫い合わせ、蘇らせる芸当ができますいかい?」

2020-02-15 18:10:25
帽子男 @alkali_acid

精霊の王は揺らめいてから、若き魔人に答える。 「あなたが嵌めているのは、話にあった魔法の指輪か?」 「こいつぁ複製でさ。先祖のひとり、マーリがこしらえたもんで。だけど、もとの指輪と、見えない絆でつながっちゃいまさあ」 「触ってもよいだろうか」 「へえ。どうぞ」

2020-02-15 18:13:12
帽子男 @alkali_acid

エルカノールは朧な指を伸ばし、ドレアムの生身の手をそっと握って環をなぞった。 「…マーリも優れた職人のようだな…これほど離れても…わずかに、つながっているゴルサイスの指輪の気配を感じ取れる…そうか…あなたの父君の霊気は…ばらばらになったが、ほかの先祖の霊気が破片を受け止めた」

2020-02-15 18:15:03
帽子男 @alkali_acid

「縫い合わせられますかい?」 「ああ、できる。元通りにできる。術は複雑で必要とする魔法の力は多大だが、私があなたに授けよう」 「ありがてえ!!!」 「だが…クルフィノの霊の復活は困難だ」

2020-02-15 18:16:57
帽子男 @alkali_acid

「ゴルサイスの姐さんは、完璧な肉の器があれば霊気は取り戻せると考えてまさあ」 「どういうことか教えてくれないか」 「戻し交配ってなあご存じで?」 「いや」 「馬だのなんだのを親子だのきょうだいだの同士でかけあわせて、先祖にそっくりのもんを作る術でさあ」

2020-02-15 18:19:27
帽子男 @alkali_acid

「つまりクルフィノの子孫同士を掛け合わせ、クルフィノそっくりの肉の器を作ろうというのか」 「へえ。そいつが手前でさ。ゴルサイスの姐さんとクルフィノの旦那さんの間に生まれたダリューテの姐さんを、さらにその子と掛け合わせて、いつかクルフィノの旦那さんそっくりの子を産ませるって寸法で」

2020-02-15 18:21:47
帽子男 @alkali_acid

淡々と語る六本指の博徒に、冥府の囚人はかなり小刻みにぶれ、いささか人のかたちの輪郭も崩れだした。 「ゴルサイスは…ややひたむきになりすぎる…ところがあり…周囲への配慮を欠く一面もあるが…しかし…根は良い子なのだ…」

2020-02-15 18:23:30
帽子男 @alkali_acid

「へえ。そんで、手前は帰ったらクルフィノの旦那さんの肉の器になるってえ寸法でさ」 「…あなたに受け入られるとは思えないが」 「それが、一族に伝わる魔法の指輪をゴルサイスの姐さんががっちり抑えてましてね。そいつのせいで手前はどうにも逆らえねえんで」 「なるほど…そういう事情か」

2020-02-15 18:25:21
帽子男 @alkali_acid

エルカノールはまた激しく明滅し、静かにドレアムを離すと、結界の泡に包んで宙に浮かべた。 「…少し考える暇をもらえないだろうか…気持ちを整理したい…」 「合点でさあ」

2020-02-15 18:26:26
帽子男 @alkali_acid

精霊の王は小さな塊にまで縮んで弱弱しく脈打ち始めた。 五色の竜は虹の瞳を瞬かせて、うさんくさげに睨んでから、尖り耳に暗い膚の青年を一瞥する。 ”おっほっほ。ダウバの裔。ちっさきものにしては、なかなか見事にエルカノールを追い詰めたでおじゃる” 「手前、何かやっちまいましたかい?」

2020-02-15 18:28:47
帽子男 @alkali_acid

”おっほっほ。あやつめ、混沌の瘴霧に巻かれ狂い果てておった時より、麿の光条に串刺しになっていた時より、今の方がはるかに深傷を負っておるの。何をしたでおじゃる” 「何って…ただゴルサイスの姐さんの話をしただけでさ…まずかったんですかい?」

2020-02-15 18:31:13
帽子男 @alkali_acid

しばらくしてからエルカノールは戻って来た。どことなく霊気もげっそりしている。 「我が養女の過ちは私の過ち。ゴルサイスにかわって私が償いをしよう。あなたの父君の霊気を取り戻す術は必ず授ける…あなたの母君については…何とか解放するよう説得する方法を探してみよう」

2020-02-15 18:34:18
帽子男 @alkali_acid

「クルフィノの旦那さんはどうしまさ」 「あの子の慧眼も、愛するものについてはいささか曇るようだ。私が見たところ、ドレアムよ。あなたの肉の器はおよそクルフィノのような純粋な妖精とはかけ離れている。ゴルサイスの作った精霊の肉の器の血が色濃く、ほかに竜や…大蜘蛛など…多様な形質がある」

2020-02-15 18:36:14
帽子男 @alkali_acid

「へえ…そいつは…先祖のひとり、オズロウっておひとが、一族を根絶やしにしかかった毒に打ち克つため、病の王って術を使ったせいでさ」 「詳しく教えてくれないか」

2020-02-15 18:37:27
帽子男 @alkali_acid

ドレアムはまた先祖の物語を紡いだ。 自分の家系の二代目である黒の癒し手ナシールが、光の軍勢に属する刺客、緑陰の射手ガラデナに、霊気を蝕む毒矢で射られ、それが指輪を通じて代々伝わったこと、五代目である黒の渡り手オズロウの時代にようやく病の王の術によって打ち克ったこと。

2020-02-15 18:39:58
帽子男 @alkali_acid

しかしそれと引き換えに子孫は、竜や大蜘蛛の形質を取り込み、異形の怪物に変わっていったこと。 「よく解った。オズロウの行いが、どうやらあなたの一族が向かう道筋を完全に変えてしまったようだ。もはやゴルサイスの望みが叶うことはあるまい」 「そうですかい」 「何とかあの子を説得せねば」

2020-02-15 18:42:31
帽子男 @alkali_acid

「そいつぁ無理でさあ。ゴルサイスの姐さんは、クルフィノに心をねじまげられ、奴隷にされちまったんで」 さらりと告げたドレアムに、エルカノールはまた静止する。 「え…?」

2020-02-15 18:43:35
帽子男 @alkali_acid

「昔ゴルサイスの姐さんが、奴隷のふりをしてクルフィノの旦那さんに近づいた一件を覚えておいでで?クルフィノの旦那さんは当時、光の軍勢の大きな力になりかねない魔法の宝玉を作ろうとなさって、ゴルサイスの姐さんは闇の軍勢のためにそれを止めようとなすった」

2020-02-15 18:46:17
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