エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その15~

ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜に都市と星ネタトークにでもどうぞ。
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帽子男 @alkali_acid

ドレアムは、エルカノールのもとを辞し、大地に立つ巨石の環の中に足を踏み入れる。 「さあて…もうひと勝負」 呟いたところで、だしぬけに雲間から五色の蛇身が降りてくる。 ”おっほっほ。麿もゆくでおじゃる”

2020-02-15 21:59:37
帽子男 @alkali_acid

「竜帝の親分さん。せっかく仇(かたき)と会えたのにまた離れちまうんで」 ”おっほっほ。エルカノールめの頭は養女のことでいっぱい故、しばらく腑抜けは直らぬであろ。ならば麿も久しぶりに影の国へでも行き、妃どもを可愛がるでおじゃる” 「そりゃいいや」

2020-02-15 22:01:39
帽子男 @alkali_acid

敖閃は虹の瞳を瞬かせる。 ”ついでに唯一にして大いなるものとやらを食い殺してくれるでおじゃる” 「そりゃあエルカノールの旦那さんに叱られるんじゃねえですかい」 ”知らぬでおじゃる。麿がつまらぬ精霊の親玉ごときに勝てぬとほざくとは…おおっほっほ、あとで泣きを見せてやるかの”

2020-02-15 22:03:30
帽子男 @alkali_acid

”そなた、エルカノールの名代となったのであろ?” 「へえ。まあ」 ”では…狭の大地についてから…”

2020-02-15 22:04:13
帽子男 @alkali_acid

列石の環が輝き、虚空を歪ませると、ドレアムはいつしかまた虚無の暗黒のただなかにいた。 ただし今は全身に宙(そら)の精霊の力が満ち溢れ、かたわらには無双の竜帝もついている。怖いものは何もない。

2020-02-15 22:05:40
帽子男 @alkali_acid

”おっほっほ。ここは狭の大地を取り巻く虚無の暗黒であろ。なぜ大地に直におりなかったでおじゃる” 「ちょいと…新しい手札を試してみてえんで。手前の手番!“吊られた男”を召喚!」 鎖に逆さ吊りになった男の朧な輪郭が、暗い膚に尖り耳の青年に重なる。

2020-02-15 22:07:44
帽子男 @alkali_acid

「暗黒の精霊よ!長く狭の大地を、星々の海と隔て守ってきた防人(さきもり)達よ!我、黒の賭け手は、汝等の主君、冥皇の新たな名代なり!我に従い!大地に降りよ!」

2020-02-15 22:09:06
帽子男 @alkali_acid

狭の大地と太陽を取り巻く遠い軌道に眠っていた精霊の艦隊は目覚め、虚無の暗黒を飛び石のように跳躍して群れ集って来た。 ”敵か” ”外敵か” ”攻撃陣形” ”鶴翼” ”魚鱗” ”偃月” ”下知を…御大将”

2020-02-15 22:10:59
帽子男 @alkali_acid

暗黒の精霊達は、闘志を漲らせ、危険を感じ取った竜帝を包囲する。 長虫は牙を剥き、うねる胴に稲妻をまとわりつかせて応戦の構えだ。 そばで交差した円柱が回転する。 ”合意と見てよろしいですね”

2020-02-15 22:12:29
帽子男 @alkali_acid

「おっとっと、竜帝の親分さんとは勝負させられねえんで…暗黒の精霊!!見えざる”星”よ!我が手札となるべし!」 霊気でできた殺戮のための機械の群は、おとなしく泥竜の艶やかな札に吸い込まれていった。

2020-02-15 22:13:41
帽子男 @alkali_acid

”おっほっほ。つまらぬ。少しは歯ごたえのありそうなやつばらであったものをの” 「勘弁しておくんなせえ」 ”ところで、その札。面白きものよの” 「決闘神怪札ってえんで」 ”冥皇の力を宿しながら、いざ札を抜くまで気取らせぬ” 「てえした仕掛けでさ」 ”巨釜の中よりは過ごしやすいかもしれぬの”

2020-02-15 22:15:42
帽子男 @alkali_acid

敖閃の尾が虚空を過ったかと思うと、先端が驚くべき繊細さで札の一枚をかすめた。 ”最も強く最も飢えたるもの、男帝(おのみかど)よ!黒の賭け手の手札となるでおじゃる!気が向く間だけ!”

2020-02-15 22:17:43
帽子男 @alkali_acid

札は持ち主以外の命令に抵抗したが、敖閃は強引に艶やかな表面に頭をねじ込むと、中に納まってしまった。 ”影の国についたら起こすでおじゃる” 「えっと。手前のそばで助けちゃくれねえんで」 ”気が向いたらの。そちはダウバと異なり美味なるものも作れぬ役立たず故、そばにいてもつまらぬでおじゃる”

2020-02-15 22:20:04
帽子男 @alkali_acid

ドレアムは苦笑いしてから、男帝と星と審判、すなわち竜の長上、精霊の艦隊、万物の審判者を見比べる。 「ま…この三枚がありゃ…何とでもなる気もしまさあ」

2020-02-15 22:22:37
帽子男 @alkali_acid

黒の賭け手は呪文を唱え、闇の奔流となって故郷への途(みち)を辿る。

2020-02-15 22:26:08
帽子男 @alkali_acid

さて影の国と狭の大地はどうなっていたかというと。 いたって無事だった。

2020-02-15 22:27:12
帽子男 @alkali_acid

ただし、影の国の盟邦はそうではない。 海賊と交易の国、南寇の首邑、殷賑を極めた「南の大湊」は、西方の大国「海の都」の艦隊から急襲に遭い、灰燼に帰していた。

2020-02-15 22:29:27
帽子男 @alkali_acid

さらにもうひとつの盟邦、東夷にも異変が起きていた。 まとめ役である「爪の部族」を中心に、古い法が崩れようとしていた。 女は政と家宰、手工、男は戦と狩猟、牧畜という古い分担は崩れた。

2020-02-15 22:32:17
帽子男 @alkali_acid

若い女の戦士の一団が、政を担う年へた女衆を引退に追い込んだ。 女戦士の統領は、あろうことか海の都の女王と誼を通じ、”王の葉の騎士団”の一員となったのだ。

2020-02-15 22:34:05
帽子男 @alkali_acid

影の国を治める闇の女王は瞋恚を発したが、腹の子は産まれる寸前となっており、とうてい陣頭に立てないでいた。 そうこうするうちに南の大湊を焼き払った西方の艦隊は忽然と海に消え、革命を成功させた東夷の女戦士の統領もまたいずこかへ出奔した。

2020-02-15 22:37:36
帽子男 @alkali_acid

白の伝道術師オローレイは、大鷲の助けで死人占い師の古い砦から脱出した。 船作りの港には西の果ての至福の地から新たな船が着いた。 降りて来たのは「光の旗手」。光の軍勢の側にある下位精霊のうち最も大きな力を持つ存在であり、戦争の先ぶれをつとめるものであった。

2020-02-15 22:41:43
帽子男 @alkali_acid

光の旗手は、迎えに出た船作りの長ニムディアに告げた。 「港の領主よ。唯一にして大いなるものの長子、忠実なる民の頭よ。すべての同胞を招集せよ。今こそ恩寵に報いよ。光の諸王が東の闇を討ち滅ぼす。汝等は露払いとなるのだ」 「では…また…戦を起こされるのですね」 「最後の聖戦となろう」

2020-02-15 22:45:03
帽子男 @alkali_acid

光の旗手は厳かに告げた。 「こたびは光の諸王が親征される。かの冥皇打倒の折と同じく。鬼も竜もあらゆる怪異を悉く退治し、大地には平和がもたらされるであろう」 「…仰せ承り、仰せ従います…」

2020-02-15 22:48:08
帽子男 @alkali_acid

角笛がなり、荒々しき狩りの合図が伝わる。 丘妖精も、森妖精も、湖妖精も、海妖精も、地妖精も、山妖精も。 あらゆるエルフは太古より崇めて止まぬ大いなる父の御旗に集う。

2020-02-15 22:50:05
帽子男 @alkali_acid

青の峰々からは小人の軍勢が進発する。失われた故郷、霧けぶる峰々の底にある山の下の王国から小鬼を一掃するため。再び光の軍勢に与する。 人間の統べる騎馬の国と南朝も、もののふを送り出す。長き恥辱の日々を終わらせ、ついに影の国に復讐する時が来たと。

2020-02-15 22:53:48
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