エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その16~

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帽子男 @alkali_acid

やがて海の女王が三人を呼び出した。 「小人、東方人、半妖精。おかしな組み合わせ。でも肝胆照らす朋輩がいるのはよいことですね」 「はい女王様」 「…三人が力を合わせて成し遂げるべき大業があります」 「何なりと」 「影の国を滅ぼす時が来ました」

2020-02-17 21:52:21
帽子男 @alkali_acid

アルニッカはじっとアルウェーヌ、ドルガ、バーラを見つめた。 「影の国は…我々に多くの悲しみと喜びをもたらしてきました。地上にあのような国があることは、驚異です。今では西方人さえも至福の地を治める光の諸王よりも、影の国の闇の女王と黒の乗り手を畏れるのです」

2020-02-17 21:54:00
帽子男 @alkali_acid

「影の国は世界を結び合わせ、富と病、知恵と憎悪をもたらしてきました。滅びたと思っていた魔法を蘇らせ、我々のすぐそばに見せ聞かせ嗅がせた。影の国は今やあらゆるものの中心にあります…故に滅ぼさねばなりません」

2020-02-17 21:56:09
帽子男 @alkali_acid

「我々は、影の国の想像を絶するほどの力がもたらす運命に翻弄されるのではなく、自らの手で運命を掴み取り、切り拓かねばならないのです。例え影の国を滅ぼすことが、取返しのつかない損失だとしても、そうせねばなりません」

2020-02-17 21:57:51
帽子男 @alkali_acid

東夷、半妖精、小人は女王を仰ぎ見た。 そこには揺るぎない意思があった。しかし幾許かの陰りも。 やがてアルウェーヌが尋ねた。 「影の国を惜しんでいらっしゃいますか」 「あら…そうですね。火の山が煙を上げ、竜が飛び、鬼がさまよい歩く野…私は結局一度も足を踏み入れませんでした」

2020-02-17 22:00:16
帽子男 @alkali_acid

アルニッカは溜息をついた。 「絵を描けたらどんなによかったでしょう…ドルガ。影の国は美しい?」 「美しい。醜い。どちらでもない。とにかくほかの土地とは違う。この世のどんなところとも」 「そう…二度とこの地上に影の国のようなものは現れないでしょう…さあ、軍を興すのです」

2020-02-17 22:02:02
帽子男 @alkali_acid

ドワーフのバーラは故郷の青き峰々に帰った。一度は影の国によって滅びた精鋭、王の鉄鎚はすでに再建し、かつてを上回る戦力となっていた。

2020-02-17 22:06:09
帽子男 @alkali_acid

ハーフエルフのアルウェーヌと、イスターリングのドルガは、女王直属の王の葉の騎士団とともに快船、波けり丸に乗り組み、南方へ下った。 「影の国の盟邦である南方の諸都市を抑えなさい。南の大湊は中心。しかし力押しで挑めば影の国に出入りする精霊船団が迎え撃つでしょう。砂漠の魔神は強大」

2020-02-17 22:08:36
帽子男 @alkali_acid

アルニッカは教えた。 「海の都が南方に築いた足場とつながりはすべて使ってもよい。我が国の商館に蓄えた黄金で傭兵を募れば、艦隊を組み上げることもできましょう。ただし、ひとつ過てば破滅。アルウェーヌ。あなたの采配で針穴に糸を通してごらんなさい」

2020-02-17 22:11:25
帽子男 @alkali_acid

赤と黒の女二人は潮風に吹かれながら話し合った。 「女王も無茶を言う」 「僕を試している。光の軍勢を率いるにふさわしい器があるかどうか」 「策はあるか」 「いくつか…だがアキハヤテ先生ならば…迂遠な手はとらない…まっすぐ大湊を叩く」

2020-02-17 22:14:28
帽子男 @alkali_acid

ドルガはにやりと笑った。 「気に入った。金儲けばかりでぶくぶくに太ったあの町のやつらを血祭りにあげてやるとしよう」 「…湾の珈琲館を知っているか?」 「なんだ?」 「大湊にある。良い珈琲が出る。壁に古い絵が一枚かかっているそうだ」 「俺は酒と肉でいい!」

2020-02-17 22:16:55
帽子男 @alkali_acid

船路の途中の、月の明るい夜だった。 薄闇でもものが見える船長のいる波けり丸が、中継ぎの港に入ろうと陸に近づいた。 舳先に立つ半妖精は、不意に身を乗り出した。かたわらに東夷がやって来る。 「…どうした」 「何かいる。魔性のものが」

2020-02-17 22:20:23
帽子男 @alkali_acid

岬の灯台に、古代の戦装束をまとう亡者がたたずんでいた。顔には薄い鋼の面をつけ、うつろな眼窩に燐の火を点している。片腕を掲げ、真直ぐ親指を立てている。 「あれは…塚人だな」 「塚人…動く屍か」 「本当なら影の国にあるでかい墓の下で酒を醸してる頭のおかしな連中だ…あれは呪いの手印か?」

2020-02-17 22:24:30
帽子男 @alkali_acid

アルウェーヌは波けり丸の帆を畳むと、小舟を出して岬に近づいた。ドルガは曲刀と長弓をひっさげ護衛についてゆく。 「そなたは…塚人だな。なぜここにいる」 「我は定命のもののさだめを読むもの…死人占いの形代…故、影の国に縁深きお前達がこの灯台のそばを通るであろうと知っていた」

2020-02-17 22:27:28
帽子男 @alkali_acid

塚人は半妖精をじっと見つめた。 「指輪を持っているな」 「指輪?」 「かつて我が、お前の先祖に授けた指輪だ」 「これか?」 アルウェーヌが差し出した手にはまる古い指輪を、亡者は虚ろな眼窩でじっと見つめ、いきなり跪いた。

2020-02-17 22:29:05
帽子男 @alkali_acid

「我が名はカゲノツキ。かつて光の軍将として闇の軍勢と戦い、命を落とし、塚人となった後は、死霊術にて仇敵たる黒の乗り手のしもべとして召し使われてきた…だが今こそ再び光の軍勢に与しよう」

2020-02-17 22:30:45
帽子男 @alkali_acid

アルウェーヌが返事をする前に、ドルガは反身の刃を鞘から抜き払った。 「どけアル。そいつは俺が叩き斬る」 「待て」 「待たん。影の国の魔性が、出会い頭に光の軍勢に寝返るなんぞ信用できるか」 「東夷の戦士が西方の妖精に仕えることもある」

2020-02-17 22:32:26
帽子男 @alkali_acid

カゲノツキがそう応えると、爪の部族の女は目を細めた。 「…俺とお前を並べたつもりか。骸骨」 「さにあらず」 塚人と東夷はしばらく張り詰めた緊張の中で向かい合う。

2020-02-17 22:34:27
帽子男 @alkali_acid

半妖精の娘は胸元にある碧玉を煌めかせて、割って入った。 「よせドルガ。カゲノツキ。もう一度教えてくれ。あなたは黒の乗り手の家臣と言ったか?闇の女王の家臣と言ったか?」 「我が仕えたのは黒の乗り手に相違ない」 「…解った。あなたが僕の下につくのを許そう」

2020-02-17 22:37:00
帽子男 @alkali_acid

カゲノツキは波けり丸に乗り込んだ。 さしもの王の葉の騎士団の女丈夫も皆戦慄したが、カゲノツキはひとつかみの土の入った箱を船底に据え付けると、その番をするように蹲り、ほとんど甲板や船室には上がってこなかった。

2020-02-17 22:38:56
帽子男 @alkali_acid

ドルガは面白くなかったが、アルウェーヌはしばしばカゲノツキと話をしに降りていった。 「あなたは闇の地の動静に詳しいか」 「我には死者は多くを語る」 「南の大湊はどうだ」 「昔日の栄華はない。黒き死の病が再び流行ったとの噂がある。多くの民が住処を捨て逃げた。留まるのは無法の徒ばかり」

2020-02-17 22:41:48
帽子男 @alkali_acid

「僕は…この艦のみで南の大湊を落とす心づもりだ」 会ったばかりの魔性にあっさりと機密を明かすアルウェーヌに、ドルガは気色ばむが、しかしぐっと堪えて後ろに控える。 カゲノツキはしばし黙してから鉄の面をゆっくり縦に振った。

2020-02-17 22:43:47
帽子男 @alkali_acid

「できなくはない。我が助成があれば」 「どのような助勢だ」 「我はひとたび、死者の軍勢の帥であった。黒の乗り手のひとり、死人占い師がそうしたのだ。死人占い師は、後に軍勢を解き放ったが、一部は望んで残った。我はかのものどもを呼び寄せ、南の大湊を攻めさせよう」

2020-02-17 22:46:24
帽子男 @alkali_acid

「死者の軍勢でか」 「亡霊の軍勢と言うべきか。すでに腐れ朽ちた肉の器すら持たぬ。故に大湊に残るものどもを傷つける力はないが、恐怖によって追い散らすことはできる。御身が望むのであればやってみせよう。妖精の石よ」 塚人が申し出ると、胸元に碧玉を煌めかせた乙女は応諾した。 「よし」

2020-02-17 22:48:58