埼玉県『男女共同参画の視点から考える表現ガイド』の研究(2)':2つの『ガイド』の比較検討
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《2003年版》新聞を読む男性
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《2018年版》スマホを操作する男性
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<変更理由についての私見>
ジェンダー云々とは関係なく、「新聞を読む夫」ってちょっと古臭いし今時ならスマホでしょってのが一番だろうけど、遊んでいるようにも見られがちなスマホ操作の方が「家事に参加しない夫」感をより強く出せるという冷徹な判断があったのかもしれない。
「性別で役割を決めているような印象を与えることはさけましょう」(9頁)
◎挿絵の変更
- 学校の例
《2003年版》花飾りを作る女子生徒/男子生徒
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《2018年版》コーヒーカップを運ぶ女子生徒/男子生徒
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<変更理由についての私見>
2003年版の例だと、今時文化祭の準備で花飾りって作るのかな・・・・・・というのがまず気になった。どうなんでしょうね。
給仕役に変更したのは、お茶汲みからの連想で「飲み物を運ぶのは女性だと思ってませんか?」といったことを言いたかったものと思われる。この点、性的役割意識を指摘するという意味では、より適切な例になったのではないか。
- 職場の例
《2003年版》保育士の例
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《2018年版》作業員の例 ※例示する題材を変更
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<変更理由についての私見>
題材丸ごと変更するのはこの冊子としては珍しい。何だろう、力仕事をやるのは何も男だけじゃないというメッセージだろうか。保育士に力が要らないとは言わないが、メッセージとしての分かりやすさを重視したというなら頷ける話。
もっとも、「ウェイター」「作業員」といえば、先に見たマスコット・シンボルの項目でも2018年版で追加された組み合わせ。埼玉県の中の人が推したい何かを持っているだけなのかもしれない。
「(5) 女性を飾り物・性的対象物として扱っていませんか?」(10頁)
◎挿絵の変更
《2003年》:大人の男女、少年、少女の4人
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《2018年》:大人の男性、少年、少女の3人
女性キャラクターが1人減っている
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<変更理由についての私見>
・・・・・・いやいやいや、合理的な説明をつけるの無理では?
挿絵の変更それ自体が『表現ガイド』第1のパターン、「男女のいずれかを排除したり いずれかに偏ったりしていませんか?」に該当する、と言うほかない。
ド直球の「排除」案件じゃん。ガイドラインが自己矛盾してどうする。題材が同じなんだから男女4人組の構図を踏襲すれば良かっただろうに。理解に苦しむ。
さらに言えば、この変更を素朴に解釈すれば水着姿の成人女性を行政広報が取り上げること自体がよくないというメッセージになってしまう。
埼玉県男女共同参画課がこうした情報発信を行なうことについて、男女共同参画の観点から正当化が可能なのか、甚だ疑問である。
◎文章の追加 ※2018年版で内容が追加されている唯一の例
「炎上」繰り返す自治体広報
自治体のPR動画やイベントポスターなどで、男女の描かれ方や過度に性的な「萌えキャラ」等が問題となり、動画の公開中止やポスターの作り直しになる事態が生じています。
問題となっている表現は、女性を性的対象物として描いたり、これまでの固定的な性別役割分担にとらわれた表現への批判です。
注目してもらうために、感性に訴える表現は必要です。しかし、見る人が不快になるような表現にしないためには、人権への理解を深め、男女共同参画の視点に立った表現をすることが一層重要となっています。
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<変更理由についての私見>
ここまで細かな修正点を見てきた『表現ガイド』において、明らかに最近の話題が追加された唯一の箇所であり、イラストの総差替えと並んで、2018年版が改訂版としてカウントされた主因と言ってよいだろう。
自治体広報で「炎上」事例が相次いでいることを紹介し、男女共同参画の視点を取り入れた広報に努めるよう呼びかけている。
具体的な例示は避けているが、コラムが追加された2018年3月以前、『自治体のPR動画やイベントポスターなどで、男女の描かれ方や過度に性的な「萌えキャラ」等が問題とな』った事例とは、この辺りの騒動を示唆しているものと思われる。
(宮城県の観光PR動画の件だけ「まとめのまとめ」がなかったので、タイトルからしてありありとバイアスのかかった記事を渋々引用している。炎上事例としては論争的でなく比較的小規模だったことが窺えるが、三次元の著名人を起用した自治体広報がお蔵入りした事例ということで例示に加えている。)
『表現ガイド』は自治体の部署が同じ自治体の広報担当者を念頭に作成したガイドラインである。
- 「伝えるべき人々すべてに、正確で効果的に誤解なく伝えること」(『表現ガイド』3頁)が必要な広報業務であり、
- 行政全体として男女共同参画の推進を率先垂範すべき立場であり、
- 個別の表現・描写がいざ問題化した際には「炎上」させられる側でもある、
そうした同じ行政の視点に立って、事前の自己防衛を訴えたくなる心情は充分理解できる。しかし、それ以上のものではない。
埼玉県男女共同参画課の中の人が、「炎上」事例が問題のある表現だと真摯に捉えていて、その根絶を心底から待望しているのであれば、他の自治体を敵に回してでも個別の事例を分析し、その問題点を解説することにページを割いていただろう。
仮に「炎上」の内実に目を瞑るとしても、実際に問題となった「炎上」事例をもとにしたケーススタディは、何より現場の行政官にとって参考になるはずだ。
だが、現実はそうではない。個別事例の分析はおろか、どういったケースだったか具体的に触れることすらしていない。贔屓目を抜きにして言えることは、「埼玉県の担当部署が『炎上』を避けるよう呼びかけている」という、単にその点だけである。
当該自治体に対する配慮があることを加味しても、「県民、事業者、メディアの方々」(『表現ガイド』2頁)に対する模範を示すどころか、現場の行政官に向けたメッセージとしての役割すらきちんと果たしているとは言いがたい。
コラム自体に割り当てられたスペースの大きさからも、埼玉県男女共同参画課が「いかに『炎上』撲滅に力を入れているか」が窺える。 《2003年版》の同じページと比較すればいっそう分かりやすい。
いかがだろうか。
『表現ガイド』に批判的な立場を採るまとめ主が、想像の限りを尽くしてありったけの贔屓目で見ても、持て余していた空白の穴埋め程度の扱いにしか見えない。
「新しい話題も取り入れていますよ、アップデートしてますよ」という申し訳程度の新規要素、担当部署による改訂版発行のアリバイ作り、とまで言うと言いすぎだろうか。
ここまで悪し様に言えば、見かねて「『表現ガイド』には荷が勝ちすぎる、多くを求めすぎだ」と擁護したくなるむきがあるかもしれない。仰る通り、それはそうなのだ。
あくまで『表現ガイド』の目的は、同じ行政の担当者に向けて「どのような表現がなぜ問題なのか、そしてより適切に表現するにはどうしたらよいかを考える手がかりを提供すること」(『表現ガイド』2頁)なのであって、行政機関の外で具体的な論評の根拠となるだけの強度を備えているわけではない。
この点は『表現ガイド』を引用した議論全般に通じる根本的な問題点であり、何度強調しても強調しすぎるということはないだろう。
しかしこれは、『表現ガイド』そのものの欠陥でも、『表現ガイド』を作成した埼玉県男女共同参画課の責任でもない。『表現ガイド』をもっともらしい権威付けとして見境なく持ち出す輩の問題なのだと考える。
「公的資格の名称変更」の掲載ページの変更
《2003年版》
「(4) 性別によって役割を固定していませんか?」の項目(9頁)に掲載
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《2018年版》
「(6) 言葉の使い方は 男女を公正に扱うものになっていますか?」の項目(11頁)に掲載
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<変更理由についての私見>
「保母・保父」→「保育士」など男女の区別をなくした公的資格についての事例紹介を、性役割の固定化に関連する話題から、言葉の使い方の話題として位置づけし直したものと思われる。
「性的役割の固定化」「言葉の使い方」どちらにも関係する話題なので究極的にはどちらでもよいのだろう。
《2003年版》では若干物足りなかった「言葉の使い方」についての記述を充実させているという点で、個人的には前向きに評価していいと考える。
- 「言葉の使い方は男女を公正に扱うものになっていますか?」(12頁)