エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その23~

ハッシュタグは「#えるどれ」 バンダは拗ねているがそれはそうとして八つ当たりはする。
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まとめ エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~8世代目・その22~ ハッシュタグは「#えるどれ」。 モシークは楽しくやってます。 4314 pv 6

以下本編

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷に逃げられた男主人のやさぐれしけ顔ファンタジー。 略して #えるどれ ↑こちらのハッシュタグで元ネタになった各種ファンタジー雑談や、皆さんの描いて下さったイラストが見られますよ! ↓過去のまとめはこちらをどうぞ! togetter.com/t/%E3%81%88%E3…

2020-03-04 20:40:02
帽子男 @alkali_acid

「勝負の代は、影の国が勝ったら、西の果ての方々には二度と狭の大地で"荒々しき狩"とやらを催さねえでほしいんで。怪物に妖魔、悪鬼に屍人、そっちからすりゃおかしな生きもんがちょろちょろしてても、めったやたらと追い詰めて殺すのは勘弁してくだせえよ」

2020-03-04 20:43:05
帽子男 @alkali_acid

黒の賭け手は、狩の男神に向かってそう持ちかける。 答えはにべもない。 「呑めぬな」 「おっとその代わり、そちらが勝ったら、二つの大宝玉に東西南北の和睦、小さきものの保護に、小人の自由に加えて、闇に属する魑魅魍魎を世界から綺麗さっぱり退かせると約束しまさあ」

2020-03-04 20:46:07
帽子男 @alkali_acid

「影の国の竜や狼や鬼をか」 「へえ。ほかの神々の牙だの角だのあるしもべにもそれぞれひっこむように話をつけまさあ。どうでがしょ」 「よかろう」

2020-03-04 20:47:19
帽子男 @alkali_acid

ヌンノスは急に従来の頑なさを解くと、短く応じた。ドレアムはにっこりする。 「ありがてえこって。狩の男神の旦那さんは話せるお方だ」 「私が弓馬の勝負で勝てばよい。さあ。始めるとしようか」

2020-03-04 20:49:18
帽子男 @alkali_acid

精霊の猟人がまたがる騎獣がいなないて後ろ足で立つ。 馬としては驚くほど大きいが、目を引くのはむしろ優美さ。薄橙の斑が散った白の毛並に、金茶の鬣(たてがみ)、蹄も柑子色の貴石のようで、萌葱の草を踏むたびに、黄赤の結晶が咲き、千々に散る。

2020-03-04 20:56:07
帽子男 @alkali_acid

練武場を取り巻く列石の輪からは、斜めに差し込む夕陽が長い影を伸ばしているが、鹿角の兜をかぶった武者と駿駒の周囲だけは、おぼろに霞がかったように明るく、陰りがない。

2020-03-04 20:58:16
帽子男 @alkali_acid

「見事なお馬でさあ」 六本指の博徒が素直に感嘆すると、光の諸王の一柱は視線を降ろさず返事をする。 「影の国の幽鬼よ。この黄昏時に、神馬の女王ドリンダを目に焼きつけ死するがよい」

2020-03-04 21:01:07
帽子男 @alkali_acid

戦場が原に立つ白と橙の雌馬こそは、上古の勲(いさおし)に讃えられる四足の勇士であった。 妖精の語り伝えによれば、神馬もまた西の果てに住まう精霊の一種だが、人の姿から馬の姿へ変身する"皮を換えるもの"として顕現する。ひとたび騎獣となれば、地上のいかなる馬も及ばぬ足の速さを持つという。

2020-03-04 21:05:42
帽子男 @alkali_acid

光の旗手ラドークが跨るのもうち一柱だが、狩の男神ヌンオスの駆るドリンダこそは最高の脚を持つとか。 ドレアムは惚れ惚れと眺めやってから、やっと我に返り、将棋の駒入れを探って、中身をまとめて放りだす。 「さあさあ!こっちも名馬ぞろいだ」

2020-03-04 21:07:51
帽子男 @alkali_acid

次々に異形の馬があらわれる。 "極上の処女の匂いだ!!!" 禍々しい悪意の印を額から生やした二角獣、分身して荒野を暴れ回る縞馬、額に三日月の痣を帯び、背に黄金と宝石の鞍を置いた蜃気楼の馬、鬣のかわりに背鰭を持つ海馬、花と葉をまといつかせた木馬、虚ろな目をした翼ある天馬。

2020-03-04 21:10:35
帽子男 @alkali_acid

そしてどこかくすんだ焔の鬣を持つ、空しげな面差しの雄馬。 "処女を犯…こいつと一緒に召喚するなと言っただろうが!…" 二角獣は嘶いてからなるたけ、空しげな雄馬から距離をとって縮こまる。 "俺は…あの天馬みたいにはならんぞ…絶対に…絶対にな…"

2020-03-04 21:12:32
帽子男 @alkali_acid

木馬と海馬は人目もはばからず身を寄せ合って耳を食んだり鼻を鬣にすりつけたりして睦みあっている。 「こっちゃあ神馬の姐さんにゃあ及びやせんが、ひとつ替え馬を使わせてもらって…」

2020-03-04 21:14:03
帽子男 @alkali_acid

星の女神が遮る。 「ならぬ。ヌンノスが一頭で戦うのであれば、そちらも一頭とせよ」 黒の賭け手は一瞬ぴくりと眉を上げるが、ちらりと蜃気楼の馬と海馬を順に一瞥して頷く。 「…よござんす」

2020-03-04 21:15:35
帽子男 @alkali_acid

すると精霊の女王はもはや無言で、天馬を眺めやった。そばで精霊の男王が心の内だけで話しかける。 “ギルネヴィよ。何を警(いまし)む” ”我が君。あの翼ある馬から並々ならぬ力を感じるのです。今は呆けているようですが、あれが目覚めれば雲の間に泳ぐ老長虫に劣らぬ災いとなる”

2020-03-04 21:19:04
帽子男 @alkali_acid

"故に替え馬を禁じたか" "幽鬼は時を稼いで、あの翼ある馬を目覚めさせる策やもしれませぬ。ヌンノスとドリンダには助けは不要なれど、敵の姦計は妨げねばなりませぬ" "あなたの知恵に疑いはない"

2020-03-04 21:21:10
帽子男 @alkali_acid

ドレアムはなおも海馬と幻馬を交互に見やったが、やがて視線をはがした。誰かに言い聞かせるように独りごちる。 「替え馬なしとなりゃ、ここはすんなり、足で選ぶのが吉ですぜ。あとは…」 ちらりとヌンノスの携える剛弓を見やる。 「そいつを使われるおつもりで」 「よき弓だ」

2020-03-04 21:23:15
帽子男 @alkali_acid

狩の男神は、地の母神が先程拵えた真銀と白の木でできた長大な一張りを掲げる。 「千年のあいだ、我が愛用の弓に勝るものはないと考えていたが、今日改めた。これぞ無双の弓。例え地の果てのいや先からも狙った獲物を貫く。冥皇や闇の女王の如き悪霊さえも、肉の器のみか霊気を射抜く」

2020-03-04 21:25:32
帽子男 @alkali_acid

ヌンオスはじっと真新しい武具に昏いまなざしを注いだ。 「不滅をうたう幽鬼さえもな」 ドレアムはまたぴくりと眉を上げたが、にこやかに妖精王アルウェーヌを省みる。 「よござんす…審判さん。そいじゃ申し訳ねえが、そちらの弓を貸していただけませんかい?」

2020-03-04 21:27:14
帽子男 @alkali_acid

赤みがかった膚に尖り耳の乙女は、生きた白金と妖精の木、竜の角ででできた滑車つきの細弓を撫で、言葉を紡ごうとする。 だが再び星の女神が遮る。 「審判は中立でなくてはならぬ」 しかし今度は黒の賭け手も粘った。 「妖弓ランスローをこしらえたのは影の国でさあ」

2020-03-04 21:29:17
帽子男 @alkali_acid

「よろしい。ランスローを与える」 たおやな審判があたう限りの厳かさをもって述べる。 ドレアムは頷き、幻馬と妖弓を目に焼き付けるように眺めてからひとりごちる。 「あとは…親分さんの腕次第でさ」

2020-03-04 21:31:14
帽子男 @alkali_acid

瞬きすると、尖り耳に暗い膚の丈夫のたたずまいが一瞬にしてずっと野蛮なものに変わる。 まるで獣。 しかも老いて傷つき、疲れた獣だ。激しい憤懣を抱えているが、心臓から流した血が多く、次第に精気を失いつつあるかのような。 「…勝負か」

2020-03-04 21:33:33
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