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前回の話
以下本編
◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷に逃げられた主人のヤサグレムカムカファンタジー。 略して #えるどれ ↑こちらのハッシュタグで元ネタになった各種ファンタジー雑談や、皆さんの描いて下さったイラストが見られますよ! ↓過去のまとめはこちらをどうぞ! togetter.com/t/%E3%81%88%E3…
2020-03-06 21:20:09さて見事、奴隷は自分を解放した。 主人の方も解放するつもりではあったのだが、先手を打たれてみると何かすごいショック。悲しい。 悲しいからその辺で肩の当たった相手をボコボコにする。 ちょうど光の諸王とかいう善なる神々が奴隷制はよくないとか裁きを下しにきたので。
2020-03-06 21:22:07笑う戦神 海の女神 木の女神 地の母神 狩の男神 と順番に打ち負かし、いよいよ精霊諸王八番勝負も第六戦に入った。 ここで何と敵方の統領、精霊王たる風の男神スーリスが挑戦してきた。
2020-03-06 21:24:05風の大鷲は、列石の輪の魔法陣を覆い尽くさんばかりの二枚の翼を広げ、颶風と紛う大気の擾乱を巻き起こし、つんざくような叫びを発する。霧けぶる峰々に住まう猛禽の王侯にもかほどに雄大にして美麗なものはいない。 無数の羽がスーリスから離れて、光芒を引きながら乱舞する。
2020-03-06 21:27:21大鷲の羽はどんな矢よりも鋭い飛び道具となり、遥かに小さな影の国の吸血蝙蝠を四方八方から射抜こうと襲い掛かる。 ナシールが変化した皮膜の翅(はね)を持つ獣は、ふわりふわりとたゆたうように輝く武器を躱しながら、上昇を続け、とうとう巨きな敵に追いつく。
2020-03-06 21:30:14スーリスの周囲ではかまいいたちが刃の鎧のように旋回し、羽毛の一枚一枚が剣の如く硬く鋭く、波打っては迂闊に接近したものを寸断しようとする。 だが蝙蝠は巧みに風刃と羽刃の渦流を擦り抜け、首の後ろにたどりつくと、喉の奥から異形の口吻を伸ばして一噛み。
2020-03-06 21:32:54大鷲が再び虚空を裂くような叫びを放つが、構わずそのまま別の姿に移ろう。百足(ムカデ)だ。影の国の毒蟲のうちでも最も厄介な種族。 百足はうぞめきながら刃の羽毛を掻き分けて隙間に入り込み、そこかしこにまた噛み跡をつけてゆく。 精霊王はたまらず、翼でがむしゃらに空を打つが効き目はない。
2020-03-06 21:34:44だが西の果ての長上に窮迫に、決闘の場に散らばる戦いの残滓が反応した。海の女神が湧き出させた泉が潮の奔流を噴き上がらせる。 鷲は即座にそちらへ急降下した。塩水に潜れば百足は助からない。 風の司は泡立ちうねり暴れる水柱の中で姿を変え、獰猛にして流麗なる鯱(シャチ)となる。
2020-03-06 21:37:44鋭い牙を剥き、体から離れた百足を噛み砕こうと顎を打ち鳴らす。 だが死人占い師の異名を持つ魔人はすでに別のかたちに変わっていた。 水母(くらげ)だ。影の国の内海に集められた外洋の万種のうちでも最も扱いの難しい毒棘を持つ黒ずんだ嫌われもの。
2020-03-06 21:39:37すぐにも激流にもまれてばらばらになってしまいそうな柔らかいうわべをしているが、器用に潮の中をたゆたい、触腕をのばして鯱にからみつくと、痒みと痺れを齎す針を打ち込む。
2020-03-06 21:40:44たまらずスーリスが小さな海から飛び出すと、木の女神が植えた大樹が助けの腕を差し伸べた。 精霊王は刃の毛並みを持つ豹(ひょう)となって飛び移り、後から来る敵を迎え撃とうとする。だが死人占い師は水母の体をぺしゃんこにして水しぶきとともに地面に飛び散ると、再びまとまって黒蛇になる。
2020-03-06 21:43:26するすると大樹の根元へ辿り着くと、丸みを帯びた輪郭を持つ幹に巻き付き、鱗でこすり上げるようにして登る。 木の女王は、先の勝負で黒の乗り手の弓矢なき射的に遭った際と同じようにかすかによじれもがくように揺れた。
2020-03-06 21:45:16豹は唸り、牙を剥き、鉤爪と刃のついた尾を振るって獲物を仕留めようとしたが、蛇は巧みに枝と葉の間にまぎれて動き、不意に死角から襲い掛かる。 どうにか飛びすさった豹は鋭く反撃に出て蛇の首を牙に捉える。 と見えた刹那、苦痛の叫びを上げて大樹から落ちていた。 噛んだのは頭そっくりの尾。
2020-03-06 21:48:21無事な本物の頭は逆に豹の目へ毒液を吐きつけたのだ。 スーリスが次に逃れた先には小さな火の山があり、煤煙と熔岩をもって長虫から猛獣を隔てた。
2020-03-06 21:50:03風の男神は四方から立ち上る熱を吸い上げて力を取り戻すと、人型になる。熔岩から武具が生まれて身を覆う。手には広い盾と長い槍が。 「我が君!馬を」 星の女神が呼びかけ、光の旗手ラドークが、狩の男神に従う神馬の一頭を呼び寄せようとする。
2020-03-06 21:53:02だがスーリスは微笑んで首を振った。その下半身には四足が生じる。獅子の鉤爪と刃の毛皮。 腰から下を百獣の王とした武人は、焔と煙を引いて火山の中から飛び出した。 鎧兜がおのずから輝き、あたりを包む夜闇を退かせる。
2020-03-06 21:55:29対する死人占い師は、小さな鬼に変わっていた。くすんだ緑の肌に鉤鼻、三白眼、鋸歯にいやしげな嗤い。 「ギヒ、ギヒヒヒヒ」 武器はないが指は短剣のように長く曲がり、不潔に黒ずんでいる。
2020-03-06 21:57:08半獅半人の神は槍に唸りを上げさせ、一撃必殺の突きを繰り出す。 だが小鬼は紙一重でかわすと、恐ろしく敏捷に長柄の得物の下をかいくぐり、鎧のわずかな隙間に爪をねじ込んで深くえぐった。
2020-03-06 21:59:11小鬼はげたげた笑いながら、獣神の猛攻をひょいひょいとかわし、いきなりはっしと穂先の付け根を掴んで止める。 「ギヒヒヒ…グハハハハハハ!!!!」 むくむくと矮躯が膨らんで小山のような大兵に育つ。爛れた肌を持つ醜い巨鬼は、腹を掻くと、いきなり敵に背を向けて特大の放屁をした。
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