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【ウジコ様は告げる】1章★85 「仕事は実践して覚えるもの。物事は"実践"あるのみです。考えるよりも先にまず手を動かしましょうか」 とんだスパルタな付き人のようだった。実践も何も、これからどうするのかも分かっていないというのに手を動かせって、土台無理だろう。
2020-03-14 06:00:00【ウジコ様は告げる】1章★86 「……それにしたって、一体……アレは、なんなんだ?」 僕は乾いた声でそう呟くしか出来ず、その少年を遠巻きで眺めていた。 別にその少年自体はさして目を引く出で立ちではない。他の子供たちと同様に法被を身に纏っている、一参加者と言った具合だ。
2020-03-14 12:00:00【ウジコ様は告げる】1章★87 服装に関して特徴的なところを挙げるとすれば、緑色の法被だということぐらいだろうか。だが、あの少年の他に緑色の法被は勿論、極彩色な法被を着ている子供もいるので、どうやらファッションの違いというレベルで収まりそうである。彼たらしめる特徴とは言い難い。
2020-03-14 18:00:00【ウジコ様は告げる】1章★88 しかし、彼は違和感と異様さを文字通り纏っていた。巻き付いているというべきか。彼の周りにはグルグルと白黒の紐がウネウネと蠢いていて絡みついていたのだ。そして周りの客や店員は誰一人としてそれに気が付いている様子が無い。恐らく見えているのは僕らだけだ。
2020-03-15 00:00:00【ウジコ様は告げる】1章★89 一方、ディアーリはと言うと、場数を踏んでいると言わんばかりの物腰穏やかな振る舞いで、少年に近づこうとしていた。 「とにかく、まずは話しかけなければ始まりません。ウジコ様、参りましょうか」 「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの!?」
2020-03-15 06:00:00【ウジコ様は告げる】1章★90 遠目から見ても紐状のモノはウネウネと怪しく動いている。正直、進んで近づきたいとは思わない。 「心配いりません。あの絡みついたものは"罪の意識"を目視化したものです。見えるだけで直接的な害はありません」
2020-03-15 12:00:00【ウジコ様は告げる】1章★91 そう言って、ディアーリはズイズイと少年のもとに近づいていく。多少警戒しつつも、僕もその後を追う。 「そこの貴方。少々よろしいでしょうか?」 「……ん? オレの事言ってるの?」 先ほどから俯いたままだった少年はディアーリの方へと顔を向けた。
2020-03-15 18:00:00【ウジコ様は告げる】1章★92 ブラウン色の髪を短く丸めている活発そうな少年だ。顔立ちから見るに十歳少し前ぐらいに思わせる幼さを帯びており、放課後に元気いっぱいに公園を跳ね回っていそうな小学生男児を彷彿とさせた。少々、生意気そうな性格にも見えてしまうが。
2020-03-16 00:00:01【ウジコ様は告げる】1章★93 そして遠巻きからは"罪の意識"に目が行きがちで分からなかったけれど、幼児向けの絵柄ではあるが、凛々しい犬のキャラクターがプリントされたシャツを法被の下に着こなしていた。 そんな彼は現在、眉間にシワを寄せて僕らをねめつけていた。
2020-03-16 06:00:00【ウジコ様は告げる】1章★94 「えーと、アンタ達ダレ? オレに何の用? 今忙しいんだけど」 子供ながらにして、随分と威圧感のある声音だった。明らかに僕らは警戒されていた。 「私はディアーリと申します。この方、”ウジコ様”の補佐をしています」
2020-03-16 12:00:00【ウジコ様は告げる】1章★95 「”ウジコ様”……? マジかよ、遂にオレのところにも来たのか!」 ウジコ様と聞いた途端、少年の表情は好転した。先ほどの剣呑とした雰囲気はどこへやら、目をキラキラさせてこちらを見上げてくる。なんとも分かり易い少年だ。
2020-03-16 18:00:00【ウジコ様は告げる】1章★96 「オレ、ロスっていうんだ! 早く"いつもの"やってくれよ! はやくはやく!」 「あー、"いつもの"ね。分かった分かった」 ……こちらとしては、その"いつもの"が分からないから、苦しい状況に置かれているわけだけど。
2020-03-17 00:00:00【ウジコ様は告げる】1章★97 「……ちょっとディアーリ、こっちに来て」 早速僕は小声でディアーリに助け舟を求めることにした。 「はい。お呼びでしょうか」 「えーと、この子の言う"いつもの"について教えてほしいんだ。仕事に関係する事だろう?」
2020-03-17 06:00:00【ウジコ様は告げる】1章★98 「勿論です。説明させていただきます。この少年の言う"いつもの"とは、懺悔の事だと思われます」 「懺悔……?」 「ええ。先ほども言いましたが、この渦巻く紐の正体は"罪の意識"です」
2020-03-17 12:00:00【ウジコ様は告げる】1章★99 「これが表れてしまうモノは、一番楔として残っている後悔に対して、深く悩んでいることが多いです。その人のために悩みを知り、解決してあげる――これがウジコ様の毎年の行事なのです」 なるほど……ここにきてようやく仕事の内容を把握することが出来た。
2020-03-17 18:00:00【ウジコ様は告げる】1章★100 つまり、僕は皆の相談役になれという事か。しかし懺悔を聞いてもらうことが、そんなに嬉しい事なのか? 随分と敬虔な信者みたいな事を言う。 ともあれ、やる事は分かった。僕は目線は相手と同じにするため片膝をつけた。
2020-03-18 00:00:00【ウジコ様は告げる】1章★101 「あー、ロス君。君は一体なんで悩んでいるのかな?」 相談事を円滑に進めるコツとしては色々あるけれど、まずは聞き手に回り、所々で的確に相槌を返していけばいいのではないだろうか。本人が望んでいる言葉を汲み取り、その相談役の僕が言ってあげればいい。
2020-03-18 06:00:00【ウジコ様は告げる】1章★102 だがそれをする為には、まず悩みの内容を知らなければならない。僕の最初の質問は当然でいて当たり障りの無いモノだった。 ところが――この質問をした瞬間、ロス君は僕を明らかに怪訝そうな目で見つめてきた。幼い顔立ちに添えられている眉が、渋く寄りだした。
2020-03-18 12:00:00【ウジコ様は告げる】1章★103 「おい、アンタ本当に"ウジコ様"なのか?」 「え?」 「申し訳ありません。……ちょっとウジコ様。こちらに来てください」 後ろにいたディアーリが小声で僕にそう言った。心なしか怒っているような気がして、少し怖かった。
2020-03-18 18:00:00【ウジコ様は告げる】1章★104 「えーと、何かまずいこと言ったかな?」 「まずいも何もありません。人々はそんな、"誰にでもできること"を望んでいる訳ではありません。そもそも、この黒い影を纏っている原因は"進んで話したいとは思わない罪な内容"なのです」
2020-03-19 00:00:00【ウジコ様は告げる】1章★105 「"ウジコ様"は聡明な方。罪の意識を抱えている人から直接聞きだすことなくこちらからズバリ言い当て、今後の為の言葉を与えてくれる存在なのですよ」 「なっ、なんだってぇ!?」
2020-03-19 06:00:00【ウジコ様は告げる】1章★106 ビックリし過ぎて声が裏返った。いくらなんでも無茶だ! 無茶振りが過ぎるぞ!? ロクに説明されていないってレベルじゃないし、そんなエスパーみたいなマネが出来るわけがないだろう!? 「そう声を荒げないでください。ちゃんと抜け道は存在しますから」
2020-03-19 12:00:00【ウジコ様は告げる】1章★107 「ぬ、抜け道……?」 「"ウジコ様"には、これから"罪の透視"をしていただきます」 「罪の……透視?」 「ええ。罪の透視とは、端的に言いますならば、そのモノが黒い影に巻かれている理由を見ることが出来るのです」
2020-03-19 18:00:00【ウジコ様は告げる】1章★108 巻かれている理由――それは懺悔の事だろう。そしてその内容を聞くのではなく、見る事が出来る――そんなエスパーみたいなマネが僕には出来ると、彼女は今そう言ったのだ。 「そんなことが……でもそれって、直接聞きだすのと変わらないんじゃないか?」
2020-03-20 00:00:01【ウジコ様は告げる】1章★109 「ところが。この映像を見ている間、時間は動かないのです。そして、見られている本人は一緒に見る事は出来ないのです。よって、あたかも一瞬で悩みを見抜いたように相手には見えるのです」 「……それでいいのかなぁ?」 「気にしないでください。仕事ですから」
2020-03-20 06:00:01